表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ELYSIUM ONLINE  作者: ZionKousei
16/19

森の守護者 2

魔術師は半円状に散開し、

角度と、

距離と、

時間を必死に確保する。


一つのミスが、

死を意味する。


弓兵は高所へ。

岩、太い根、倒木。


そしてすぐに理解する。

残酷な現実を。


通常の矢は、

ほとんど意味を持たない。


エレーニャも、

その中にいた。


初めて、

ここが“マップ”ではないと理解した。


――深淵だ。


人が多すぎる。

叫びが多すぎる。

そして、

モンスターが……大きすぎる。


彼女は矢を引き、

核を狙う。


だが、

ウォーデンの胸の枝は、

青い心臓の鼓動に合わせて位置を変え続ける。


どうやって……

この混沌の中で当てるの……?


唾を飲み込む。


初めて、

何をすべきかわからなかった。


シエナが動いた。


霊狼を召喚。

一体、二体、三体。


届く前に、

ウォーデンの枝が伸び、

空中で叩き潰した。


煙のように、

召喚は消える。


再び試みる。


また失敗。


その瞬間、

傲慢は――

彼女が認めたくなかった感情へと変わる。


――絶望。


ジェイが気づき、

一歩前へ。


「俺について来い!!」


ウォーデンが応じる。


両腕を頭上で合わせた。


木が融合し、

密度を増し、

膨張する。


腕は、

車ほどの大きさの、

巨大な槌となった。


そして――

振り下ろされた。


ゴォォォォン!!


地面が爆ぜる。


巨大なクレーター。

土と根の破片が雹のように舞う。

人々が吹き飛ばされる。


衝撃は、

一瞬だけ音を奪った。


まるで、

世界が水中に沈んだかのように。


イーサンは前腕で顔を覆い、

心臓が凍りつく。


一瞬、

ジェイが消えたと思った。


だが、

煙の中心で――


黄金の光のドームが、

脈打っていた。


ジェイは膝をついていた。

腿まで地面に沈み込んでいる。


両手で盾を頭上に掲げ、

必死に支えている。


腕は震え、

首の血管が浮き上がる。

歯は噛み締めすぎて、

砕けそうだった。


盾は……

まだ無事だ。


だが、

その裏の人間の身体は、

圧倒的な力で潰され続けていた。


ジェイの胸から、

低い音が漏れる。


叫びではない。


――痛みが、漏れている。


「退くな!!」

血を吐きながら、彼は吼えた。


マーカスは考えなかった。

即座に突撃。


ダレンが剣を突き出す。


「ヒーラー!!

ジェイに集中しろ!!

倒すな!!」


十二本の緑の光が、

同時にタンクの背へと注がれる。


その輝きは、

美しくも、

神聖でもない。


――必死だ。


再生のマナが、

微細な骨折を縫い合わせ、

断裂寸前の腱を支え、

内部崩壊を防ぐ。


ウォーデンが、

押し潰そうとする中で。


マーカスが前へ飛び出す。


「ジェイを固定させるな!!」


側面から伸びた枝槍を斬る。

刃は食い込むが、

木が金属を包み込み、

生きた罠のように絡みつく。


マーカスは力任せに引き抜いた。


「もう一度!

援護しろ!!」


彼はタンクの盾を踏み台にし、

全力で剣を振り下ろす。


深い斬撃。

巨大な槌腕が、

ほぼ断ち切られる。


残った五人の剣士が、

一斉に跳びかかる。


連続する打撃。


木が軋み、

黒ずみ、

樹液が血のように沸き流れる。


ウォーデンは後退し、

損傷部位を再生し始めた。


――その時だった。


身体から枝が外れ、

ねじれ、

地面へ落ちる。


そして――

立ち上がった。


歪んだ小型の存在。

生きた木でできた、

青い眼を持つ怪物。


ミニ・アルボレタ。


跳躍し、

腕、背中、首に取りつき、

害虫のように噛みつく。


「ミニオンを作ってる!」

マーカスが叫ぶ。

「後衛を守れ!!」


悲鳴が重なる。


「無理だ!」

「耐えられない!」

「ここで死ぬ!」


さらに人が、

背を向けた。


イーサンは見た。


そして、

胃から喉へ何かがこみ上げる。


「背を向けるな!!

追われるぞ!!」


全員には、

届かなかった。


逃げた者たちは――

闇の森に飲み込まれた。


エレーニャは震えていた。


矢を引く。

放つ。


跳躍中のミニ・アルボレタ。

青い眼を貫く。


爆散。


一瞬、

希望。


すぐに――

罪悪感。


私は……

虫を殺してるだけ。

核は……

まだ、私たちを笑ってる。


シエナは、

戦場をゆっくりと見渡した。


完全な混沌。


倒れるタンク。

外れる魔法。

重なる悲鳴。


ミニ・アルボレタが、

次々と生まれ、

疲弊したプレイヤーへ群がる。


一瞬――

誰も、

彼女がまだいることに気づいていないようだった。


「私が抑える!」

シエナが叫ぶ。

声は強い。

だが、切迫している。

「詠唱を完成させる時間が必要!!」


ジェイは即座に顔を向けた。


「タンク!!

彼女を守れ!!

今すぐ!!」


三人が駆け寄り、

盾を構え、

即席の壁を作る。


次の瞬間、

ミニ・アルボレタの群れが衝突した。


衝撃。


生木と金属。

盾を掠める枝。

飛び散る破片。


一人が押し戻され、

倒れかける――

だが、

喉を裂く叫びと共に踏みとどまった。


シエナは目を閉じる。


音が消える。

叫びが遠ざかる。


マナが腕を巡るのを感じる。

重く、

熱く、

制御が難しい。


手が震える。

恐怖ではない。


――苛立ちだ。


私の狼は役に立たなかった。

召喚は、

叩き潰されるだけ。


一瞬、

疑念が忍び寄る。


だが、

彼女は深く息を吸った。


そして――

決めた。


炎の魔法陣が、

彼女の前に形成され、

ゆっくりと拡大する。


金色のルーンが赤と逆回転し、

無理やり共存する歯車のようだ。


熱が急激に上昇し、

空気が歪む。


「……本物の熱が好きか」

シエナは呟き、

魔導書を強く掲げる。

「……試してあげる」


魔法陣が、

爆ぜた。


三つの影が、

炎から飛び出す。


燃え盛る翼。


――フェニックス。


生きた火の霊獣。


螺旋を描いて舞い上がり、

焦げ跡を空に刻む。


一瞬、

すべてが止まったかのようだった。


そして――飛び込んだ。

衝撃は、壊滅的だった。


フェニックスたちはミニ・アルボレタの群れへ突っ込み、

激しい爆炎となって炸裂した。

炎は“生きた嵐”のように広がり、木を飲み込み、枝を焼き、

食い尽くされる怪物たちは悲鳴を上げながら燃え落ちていく。


森全体が、橙と黄金と深紅に照らされた。

ミニ・アルボレタは燃え、のたうち――

やがて灰になった。


シエナは目を開く。

その瞳に、炎の反射が踊っていた。


彼女は笑った。

傲慢な笑みではない。

安堵の笑み。

確信の笑み。


「……これで」

ほとんど独り言のように呟く。

「やっと、遊びが始まった」


彼女は息を整え、囁くように命じた。


「踊りなさい、私の鳥たち。

全部、燃やして」


フェニックスたちは戦場上空を旋回し、

動くものすべてへ襲いかかった。

前へ進もうとする存在を、火で否定する。


イーサンは肩越しにそれを見て、背筋に冷たいものが走るのを感じた。

後衛が火に支配されている。


「その調子だ!」

彼は叫んだ。

「奴らを前に出すな!」


シエナは笑った。

顔には煤。汗が頬を伝う。


「任せて、ボス」

そう言って、彼女はもう一度グリモアを掲げた。

「今、私は本気で戦ってる」


ウォーデンは、

自らのミニ・アルボレタが焼き払われていくのを察知すると、

膨張した。


身体の枝が暴力的な音を立てて再配置され、

融合し、

一本の巨大な鞭へと変わる。


若木の幹ほど太く、

一撃で世界を裂くような質量。


攻撃は――

瞬間だった。


ダレンが計算していた“安全圏”は、

一瞬で消滅した。

※あとがき※


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

感想や評価をいただけると励みになります。

次回もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ