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ELYSIUM ONLINE  作者: ZionKousei
12/19

退かぬ兵士 — マーカス

初心者たちを救い、三人のパーティが確かな形を持ち始めてから、数日が過ぎていた。


イーサン、エレーニャ、ジェイは、

マナクリスタルに照らされた街道を歩きながら、

翌日の訓練ルートや優先事項について語り合っていた。


ジェイは腕の盾を調整しながら言う。


「二人とも、才能がある。

このまま一緒に行動すれば、

かなり速く成長できると思うぞ」


エレーニャは眉を上げた。


「あなたも、そう簡単に置いていかれるタンクじゃないわ。

金ピカさん」


ジェイは低く笑う。


イーサンは、その会話に加わらず、

森の奥から響く音に神経を集中させていた。


「……待って。

今、何か聞こえなかったか?」


次の瞬間、

小道の先から一人の男が駆け出してきた。


背が高く、引き締まった体躯。

装備は質素だが、手入れの行き届いた鎧。

両手で構えた大剣を振るい、

彼は――たった一人で戦っていた。


相手は、

岩と土で形作られた巨大な存在。


石のゴーレム。


重たい拳が地面を叩き、

衝撃が空気を震わせる。


それでも男は退かない。


踏み込み、

剣を振り下ろし、

衝撃を受けながらも、

一歩も引かずに前へ出る。


その姿は、

熟練というよりも――覚悟。


エレーニャが息を呑んだ。


「……一人で?」


ジェイは、盾を構え直す。


「無茶だ。

だが……逃げる気がない」


イーサンは、男の動きを見つめていた。


剣の軌道。

足の運び。

防御よりも、前進を選ぶ戦い方。


「……あの人」

イーサンが静かに言う。

「退く気が、最初からない」


ゴーレムの拳が、男の肩をかすめる。

鎧がきしみ、

衝撃に体が揺れる。


それでも、男は立ち続けた。


剣を地面に叩き込み、

体勢を立て直し、

再び前へ出る。


まるで――

倒れるという選択肢が、

最初から存在しないかのように。


エレーニャが弓に手をかけた。


「助ける?」


ジェイは短く頷く。


「当然だ」


イーサンの掌に、

静かな炎が灯る。


その瞬間、

男がこちらに気づいた。


鋭い視線。

だが、警戒ではない。


戦場に立つ者同士の、

一瞬の理解。


男は、

ほんの一瞬だけ口角を上げた。


そして、

再びゴーレムへと向き直る。


――逃げない。

――退かない。


その背中が、

すべてを物語っていた。


彼の動きは、

極めて機械的で、正確だった。


そこに焦りはない。

あるのは、冷静な計算だけ。


放たれる攻撃を一つ、また一つとかわすたび、

ゴーレムの岩の体から

火花が弾け飛んだ。


ゴーレムが腕を持ち上げた。

巨大な岩の拳が形成される。


破壊的な一撃が振り下ろされた。


男は転がって回避しようとしたが、

間に合わない。


「くそ——!」


その瞬間、

黄金の盾が彼の前に出現した。


ジェイだ。


衝撃は雷鳴のように炸裂した。

盾が激しく震え、

ジェイの体は数メートル後方へと弾き飛ばされ、

地面に深い溝を刻んだ。


それでも、彼は倒れなかった。


重心を低く落とし、

脚を踏みしめ、

盾を強く構える。


「……っは……」

ジェイは荒く息をついた。

「こいつ……相当重い一撃だな……」


「ジェイ、気をつけて!」

エレーニャが叫ぶ。


ゴーレムはもう一方の腕を持ち上げ、

再び戦士へと狙いを定めた。


男はすぐに立ち上がり、

口元の血を拭った。


「どけ!

次は本当に潰されるぞ!」


ジェイは笑った。


「任せろ。

タンクの仕事だ」


ゴーレムが突進する。


イーサンはすでに杖を構えていた。

思考を高速で巡らせる。


(この火球じゃ止まらない……

もっと大きなものが必要だ)


二歩下がり、

目を閉じ、

エレーニャから教わったマナの流れを思い出す。


集中。


マナが体内で溶岩のように燃え上がる。


足元に、

これまでで最も強烈な

炎の魔法陣が形成された。


「……フレア・サージ……」


炎は圧縮され、

濃密に、激しく脈打ち、

周囲の空気が震え始める。


ゴーレムが腕を振り上げ、

ジェイを叩き潰そうとした、その瞬間——


「今だ!!」

イーサンが叫ぶ。


爆発は、球状ではなかった。


波だ。


凝縮された炎の津波が、

圧倒的な力でゴーレムの胸部を直撃した。


岩は瞬時に赤熱し、

亀裂が走る。

苔が焼け落ち、

緑色のマナ核が不安定に脈動する。


ゴーレムは咆哮し、

よろめいた。


盾を前に構え続けていたジェイが、

その隙を見逃さなかった。


「最高の隙だ、イーサン!」


ゴーレムが向きを変え、

イーサンを狙って腕を振り上げる——


「今日は……

ここまでだ!!」


ジェイが咆哮した。


彼は前に出て、

盾をゴーレムの腕と自分の体の間にねじ込み、

脚を地面に食い込ませて、

一撃を完全に受け止めた。


「行け、マーカス!

今だ!!」


戦士は迷わなかった。


ジェイが固定した腕を駆け上がり、

イーサンの攻撃で生じた亀裂を足場にして進む。

動きは正確で、鍛え抜かれている。


胸部に到達。


亀裂の奥で、

緑の核が脈打っていた。


マーカスは両手で剣を振り上げた。


「眠れ……

クソ岩」


全力の一撃。


核は、

完璧に二つに割れた。


光が消える。


ゴーレムは崩れ落ちる城壁のように倒れ、

きらめく粉塵となって消え去った。


静寂。


マナの粒子が、

光る雪のように

ゆっくりと降り注ぐ。


マーカスは地面に降り立ち、

深く息を吐いた。


「……助かった。

本当に、いいタイミングだった」


ジェイは盾を地面に立てかけ、笑った。


「いや、

よくやってたよ。

……潰されかけるまではな」


マーカスは目を細める。


「……ああ。

最高の瞬間じゃなかったな」


イーサンは杖を下ろした。


「戦い方、すごく上手い。

でも……なぜ一人で?」


マーカスは、

兵士を評価するような視線で三人を見た。


「マーカス。

元軍人だ」


一拍置いて続ける。


「下手な連中に足を引っ張られるくらいなら、

一人で戦った方がマシな時もある」


エレーニャが腕を組んだ。


「そうかもしれない。

でも今回は、私たちがあなたの命を救った」


マーカスは、

ほんのわずかに口元を緩めた。


「……否定はできないな」


ジェイが近づき、

彼の肩を軽く叩いた。


「力もある。

技術もある。

でも……自己保存本能がゼロだ」


一瞬間を置いて、笑う。


「俺たちに、ちょうどいい」


イーサンが一歩前に出た。


「パーティを組んでる」


「ジェイが前線を支える」

「エレーニャが後衛を守る」

「俺が戦場を制御する」


マーカスをまっすぐ見つめる。


「君は、

物理火力の要だ」


マーカスは数秒、沈黙した。


そして剣を鞘に収める。


「……いいだろう」


「入る」


「ただし——

誰かが馬鹿な真似をしたら、

俺は背を向ける」


イーサンは笑った。


「公平だ。

でも俺たちと戦う限り……

君が退く必要はない」


青いパネルが空中に現れる。


[マーカスへの招待を送信しました]

[マーカスが招待を承諾しました]

[パーティ更新]


アイコンが並ぶ。


・イーサン — 魔導士

・エレーニャ — アーチャー

・ジェイ — タンク

・マーカス — ウォリアー


ジェイは盾を構え直した。


「よし……

やっと本物のチームって感じだな」


マーカスは森の奥を見た。


「ここを離れよう。

この戦闘音……

もっと厄介なものを呼び寄せる」


こうして——

二人目の戦士が、パーティに加わった。


信頼からでも、

友情からでもない。


その瞬間、

それが唯一の生存手段だったからだ。

※あとがき※


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

感想や評価をいただけると励みになります。

次回もよろしくお願いします。

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