表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ELYSIUM ONLINE  作者: ZionKousei
10/15

グローブフォールに響く希望の声

朝の陽光が、エデンの森の巨大な樹冠を抜け、街の通りに金色の光を落としていた。

だが、その光は安らぎをもたらさなかった。


イーサンとエレーニャが冒険者ギルドを出た瞬間、

人間の混乱は、さらに残酷な形で姿を現した。


地面に座り込み、虚空を見つめるプレイヤーたち。

同じ場所をぐるぐる歩き回り、

「ここは悪夢だ」と呟き続ける者。

中には、自分の頭を押さえ、無理やり切断しようとする者もいた――

システムは、青い火花を散らしてそれを拒絶する。


叫び声。

口論。

祈り。

絶望。


広場の中央では、一人の男が震えながら叫んでいた。

周囲には、打ちのめされたプレイヤーたち。


「ここで死ぬんだ……逃げ道はない!

六十六階層だぞ! 無理に決まってる!」


近くで、少女が嗚咽する。


「私は……ただ一時間遊びたかっただけ……

家族のところに、帰りたいだけなのに……」


イーサンは足を止めた。


冷たい刃のような痛みが、胸を貫く。


エレーニャは深く息を吸う。


「イーサン……

誰も動かなければ、

あの人たちは最初のモンスターに会う前に壊れてしまう」


彼は周囲を見渡した。


生きている身体。

だが、砕けた魂。


――今だ。

――必要なのは、今しかない。


イーサンは一歩、前に出た。


「おい!」


声が、広場に響き渡る。


何人ものプレイヤーが振り向いた。

怒り、恐怖、そして……虚ろな瞳。


イーサンは声を張り上げる。


「聞いてくれ!」


静寂が、ゆっくりと広がっていく。


彼は深く息を吸った。

初めて魔法を目覚めさせたとき、

胸に灯ったあの炎を思い出しながら。


「怖いのは分かる」

「俺も、怖い」


視線が交わる。

拭われる涙。


「でも、座って待っていても何も変わらない」

「泣いても」

「叫んでも」

「何も起きていないふりをしてもだ」


彼は、デジタルの空を見上げた。

ムスクの警告が、脳裏に蘇る。


「俺たちは、ここに閉じ込められた」

「それは事実だ」


「でも――

俺たちはプレイヤーだ」


「プレイヤーは、諦めない」

「前に進む」


一人の青年が、震える声で言った。


「でも……六十六階層なんて……

あまりにも多すぎる……」


イーサンは、その青年に近づく。


「一つずつでいい」

「今日、六十六全部を倒す必要なんてない」


彼は拳を握った。


「今日を越える」

「明日は、明日を越える」

「その次は……次だ」


エレーニャが前に出る。

背筋を伸ばし、揺るがない姿勢で。


「私はベータを経験している」

「この世界の仕組みを知っている」


「立ち止まれば、力を失う」

「勇気を失う」

「そして……自分自身を失う」


彼女は弓を掲げた。


「でも、訓練して」

「戦って」

「進化し続ければ……」


「この世界は残酷でも、

戦う者には公平よ」


涙で赤くなった目の少女が、恐る恐る尋ねる。


「……それでも、死んだら?」


エレーニャは、迷いなく答えた。


「その時は死ぬ」

「でも――」


「今じゃない」

「無意味じゃない」

「戦わずには、死なない」


イーサンが続ける。

制御された炎のように、揺るがぬ声で。


「俺たちは一人じゃない」

「スキルがある」

「武器がある」

「そして……仲間がいる」


拳を強く握る。


「出口ははっきりしている」

「階層を越えることだ」


プレイヤーたちの呼吸が、少しずつ落ち着いていく。


ゆっくりと立ち上がる者たち。

胸の奥で、何かが再び灯り始めていた。


「スライム一体を倒すのも、一歩だ」

「イノシシを倒せば、前進だ」

「訓練は……生存だ」


一人のプレイヤーが、初期装備の剣を掲げる。


「……俺も、戦いたい」


別の者が杖を持ち上げる。


「俺もだ」


弓を持つ少女が一歩前へ出る。


「諦めてた……でも……

今は、やってみたい」


緑のアイコンが集まり始める。

イーサンとエレーニャの周囲に、

静かな決意の輪が生まれていく。


イーサンは微笑んだ。

飾らず、真っ直ぐに。


「いいな。じゃあ、最初はシンプルだ」


「訓練する」

「レベルを上げる」

「生き残る術を学ぶ」


彼は指先に、小さな炎を灯した。

揺らめきながらも――消えない。


「閉じ込められたなら、

この場所を支配しよう」


「第一階層ごときに、

俺たちは折れない」


エレーニャは腕を組む。


「一緒に来る人は?」


「行くぞ!」

「戦う!」

「階層を登るんだ!」


そして――

あの宣告以来、初めて。


恐怖は、後退した。

希望が、息をした。

未来が、手の届く場所に見えた。


イーサンはエレーニャを見る。


「話すの、上手ね」

彼女は笑った。


「俺が、一番聞きたかった言葉を言っただけだ」


彼女は小さく笑う。


「じゃあ……

まずは、行動で示しましょう」


こうして――

勇気の炎が最初の一歩を照らし。


本当の意味での“ゲーム”が、

ここから始まった。

※あとがき※


ここまで読んでいただき、ありがとうございました。

感想や評価をいただけると励みになります。

次回もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ