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末っ子エミリアーナ  作者: ぱんどーる


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6

幸福な時間はあっという間に過ぎ、エル兄様と別れの日が来た。


私は感情をコントロールすることができず、エル兄様にしがみつき、涙を止める事ができない。


長兄と姉が躓いて、3ヶ月延長したので半年間、お祖父様のお屋敷に滞在した。長兄と姉は合格点をもらえず、2週目も確定したらしい。私達は大丈夫だろうか。不安だ。


エル兄様は私をぎゅうっと抱きしめてから、背中をトントンと優しく叩く。


「将来の為に、エミーを守る為に力をつけなくちゃいけない。わかるだろ?」


エル兄様の胸にぐりぐりと頭を押しつける。

わかる。わかってるけど・・・。


「俺だって離れるのは辛い。でも手紙を書く。エミーも返事をくれよ?」


顔を上げたエミリアーナ。


「ぐすっ、手紙でやりとりしてもいいの?」


ん? ダメなのか?

お祖父様とローレンス伯父様の方へ視線を移すと2人は大丈夫だと言った。


「大丈夫だってさ」


笑顔になったエミリアーナ


「たくさんお手紙を書きます。エル兄様もたくさんお手紙ください」


「ああ。 イーブン語で手紙を書く」


「むぅ、エル兄様の意地悪ぅ。私も一生懸命勉強してカーブン語で書きます!」


「ははっ、お互い頑張ろうな」


「はい」


エミリアーナの髪をなで、もう1度抱きしめてから離れ、お祖父様とローレンス伯父様のもとに向かう。


「お祖父様、今までお世話になりました。とても楽しい時間を過ごすことができて。本当に幸せな半年になりました」


「ぐふっ、泣かせるな。 儂も楽しかった。これからは大変な思いをするかもしれぬが、励め」


お祖父様にぎゅうぎゅうに抱きしめられた。


「ズルいよな父上は。いいとこ取りしやがった。 俺だって本当は甘やかしたいのに、こっちは甘さを捨てて指導してるってのに・・・」


ぶつぶつ文句を言った伯父様によって、お祖父様と引き離された。


「感動的なシーンだが、後ろがつまってる。行くぞ、エルウィン」


「はい。伯父様、これからよろしくお願いします」


「ああ」


伯父様の手に背中を押され、馬車に向かう。1度振り返り、2人に手を振ると、2人ともぶんぶんと手を振ってくれた。

うん、俺は頑張れる!そう思い馬車に乗った。




お祖父様と2人でエル兄様が乗った馬車が見えなくなるまで見送ってから、お祖父様に抱きつき、私も感謝の言葉を述べ、迎えに来ていたアリア叔母様の馬車に乗り込んだ。


お祖父様、本当に幸せな時間をありがとうございました。

いってきます。



お母様の妹のアリア叔母様は、明るく元気でとても美しく、その上オシャレな方だった。未婚で伯爵令嬢の肩書きを持ったまま、自分で店を構え、経営からデザイン、お針子、接客と何でもこなす、とてもすごい人。


お母様のお話もたくさん聞かせてもらいながら、お針子の修行をした。最初のひと月は指に包帯だらけだったが、だんだんと成果が現れ、褒められると嬉しくて顔がニマニマしてしまい、寝る間を惜しんで作業をしていたら、アリア叔母様に見つかり叱られた。

それからはきちんと就寝時間は守るようになった。

だって怒った叔母様はとーっても怖い!!


「ハンカチに刺繍をして皆に渡すのはどう?」


素敵! 目を輝かせた私に、叔母様は苦笑しながら、


「夜更かしはダメよ?守らなかった場合はハンカチを没収するわ。ちゃんと約束できる?」


大きく頷いた私の頭をなで、「ふふ、頑張りなさい」と言ってくれた。


お祖父様に、2人の伯父様、エル兄様、素敵な提案をしてくれたアリア叔母様に一針一針、心を込めて針を刺した。


ついでにお父様、会うかわからない長兄と姉の分も用意した。時間がせまっていたので、なかなか心を込める事ができなかったのは仕方がないと思う。


エル兄様から手紙が届いた。

まだこの国の言葉で書かれていてちょっとだけ安心した。ローレンス伯父様と一緒にイーブンに行ってきたらしい。授業で教わるイーブン語と、現地人のイーブン語の差に戸惑ったそうだ。ふふ、エル兄様が頑張ってると、私もやる気が出るし、元気になる。ハンカチに刺繍をしたから会った時に渡すので楽しみにしてねと、私も自国の言葉で返事を書いた。


エル兄様も私の手紙が自国の言葉でホッとする姿が目に浮かぶわ、ふふ。




アリア叔母様とのお別れ日に、感謝の言葉と共にハンカチを渡したら


「まさか私の分まであるなんて・・・。エミリアーナぁぁ。泣かせないでよぉ、もうっ」


そう言われ、ぎゅうっと抱きしめられた。女性に抱きしめられた事が初めてで感激してしまい、もしお母様に抱きしめられたらこんな感じなのかなと思うと、私も涙が溢れてしまい、泣きながら必死にアリア叔母様を抱きしめ返した。


「貴族を辞めたくなったら、いつでもここにいらっしゃい。エミリアーナは刺繍の才能があるからいつでも雇ってあげるわ。それに夜更かしだけは絶対にダメよ?女の体の全てに悪影響なの。わかった? それからエミリアーナは地味な色を選びがちだけど、もう少ーーー」


突然手が伸びきて、アリア叔母様の口が塞がれた。


「アリア、話が長い。それは昨日までに済ませておくべきだったな」


いつの間にかロデリック伯父様がお迎えに来てくれていたらしい。


「もう、お兄様。今エミリアーナに女として大切な事を伝授してるの。邪魔しないでちょうだい!」


ぷりぷりしているアリア叔母様を気にする事もなく、ひょいっと私を抱き上げ、馬車に向かい歩きだした。


「もーう、人の話を聞きなさーい!

エミリアーナ! ハンカチありがとう! 大切に使うわ! 寝不足だけは絶対に、絶対にダメよぉ!」


手を振りながら大声で叫ぶアリア叔母様に、「はーい」と返事をしながら私も手を振った。


ふふ。短い間だったけど本当に素敵な思い出がまた1つ増えました。アリア叔母様、ありがとう。


乗り込んだ馬車には、誘拐された時以来の母方のお祖父様がいた。




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