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お祖父様と一緒で、とても疲れたのでその日はぐっすりと寝た。
それにしてもお祖父様が元国王だったことには驚いた。
ローレンス伯父様は王弟だが、現在の陛下に子が産まれた為、臣下に下り公爵位を賜っている。私のお父様は、お祖父様と元王妃様との子供ではないそうだ。世間でも知っている人は限られているらしい。
お父様は平民として隣国イーブンで商会を立ち上げ過ごしていて、伯爵令嬢だったお母様と出会い、のちに相思相愛になった。魔導具をお祖父様に提供した功績でこの国アーブンで叙爵され、こちらで生活をする事になり、お祖父様に似た容姿を隠す為に認識阻害眼鏡をかけて過ごしていた。
記憶にない私のお母様は、とても素晴らしい女性で、私とお母様が1番似ているそうだ。
武術、剣術共に男性と遜色ない動きで相手を翻弄し、語学に優れ、学園では入学試験で学園初の満点を叩き出し、飛び級で卒業したらしい。私の年齢の6歳の時には既に3カ国語は操れたと聞いて、エル兄様と一緒にとても驚いた。
お父様はお母様が生きていてくれれば、こうはならなかったと皆、口を揃えて言った。お父様はお母様の為ならどんどん力が沸いてくる人で、お母様はそんなお父様の扱いがとても上手な人だったそうだ。
初めてお母様のお話をたくさん聞く事ができて嬉しかった。
私もお母様に会いたかったな。
お祖父様に言われたここでの3ヶ月は、とにかくまずは子爵邸で辛い生活を送ってきたのだから、のんびりとお祖父様とピクニックやお茶会をして子供らしく過ごすことだと言われた。
それから月に1度、医師の診察を受けること。もう元気だと伝えてもお祖父様は心配らしい。お祖父様の優しさが嬉しくて、思わずお祖父様に抱きつきお礼を言った。お祖父様も私から抱きしめられる事が初めてで驚いていたが、すぐに顔をふにゃふにゃにさせて喜んでくれて、ぎゅうぎゅうに抱きしめてくれた。
ここで3ヶ月過ごした後は、長兄や姉と同様にエル兄様と離れてローレンス伯父様、ロデリック伯父様、アリア叔母様の屋敷に滞在して、色々と学ぶ。そして最後に子爵邸に戻り、お父様としっかり話しなさいと言われた。
エル兄様と共に「わかりました」と返事をした。
次に、大人達の判断で長兄と姉との縁を切った事に対して謝罪されたが、それで良かったと伝えた。
泣いても、転んでも、話しかけてもこちらを見ることのなかった長兄。
顔を合わせれば、なぜ人殺しがここに住んでいるのかと言い続けた姉。
本当に辛かった。エル兄様がいなかったらどうなっていたのだろう。考えただけで身震いする。エル兄様は1つ年上なだけだから、私ができない事をエル兄様も同様にできない事がたくさんあったのに、それでもどうにかしようと必死に足掻いてくれた頼れる大好きな兄様だ。
なんだか感情が高ぶり、思わずエル兄様にも抱きついたら、そうくると思っていなかったエル兄様は、抱きとめてくれはしたが、おーっとっとっとと何とか踏ん張っていたが、ついに体勢をくずして2人で床にコロコロと転がった。
その後、エル兄様と目を合わせ2人で笑った。
お祖父様があたふたして、「医者を呼べー」と叫んだのが面白くて、エル兄様と一緒に更に声をあげて笑った。
とてもスッキリした。
長兄と姉は、現陛下の子供の長男長女と一応同世代で従兄弟でもあるということで顔合わせのお茶会を王宮で行ったが、格の違いを見せつけられ、2人とも肩を落として帰ったらしい。
でも長兄はすぐに前を向き、ローレンス伯父様のもとでビシバシ鍛えられているらしい。
姉は「私は王妃になるのにどうして?」と3日ほど塞ぎこんでいたが、呆れたロデリック伯父様に部屋から引きずり出され、勉強三昧の生活を送っているらしい。
お祖父様に、この屋敷にいる間に私達も顔合わせをする予定だと聞いて驚いてしまった。
そんな話をされたからではないが、エル兄様と私はお母様と同じように色々と学びたいとお祖父様に伝えた。
1週間後、教師の先生が派遣され学ぶ事になったが、とても充実した時間となった。
お祖父様は
「最初の1週間しか儂の相手をしてくれなかった」
しくしくと自分で言いながら、泣きマネをするのがとても可愛いかった。お祖父様と私達の時間もちゃんとあり、今までできなかったお祖父様のお膝の上に乗って一緒に本を読みたいと甘えてみたり、おそるおそるこの前出たお菓子をまた食べたいとおねだりしてみたり、お祖父様と一緒に寝たいとわがままを言ってみたり、お祖父様と手を繋いで、歌を歌いながらピクニックに出かけたりと、とても楽しく幸せな時間を過ごした。
それをたまにお父様がこっそりと覗いていたのは、エル兄様も私も分かっていたが、気づかないフリを続けた。
だってエル兄様と私はまだお父様を許せていないのだ。
お祖父様と私達が楽しく過ごしているところを、こっそり覗いて涙ぐんでいるお父様にも気づいていて、それをエル兄様と私が無視している事にも気づいていたお祖父様は、
「がははははっ」
お腹を抱えて笑っていて
「良いぞ2人とも。簡単に許すな、じらせじらせ」
エル兄様と私に、こっそりと言ったお祖父様に私達はこくりと頷いた。




