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息子のローレンスから今日についての話は聞いた。
食事を終えたら、まずは儂が皆に話す。儂らの正体を明かす。その後はルーファスが子供達1人1人と話す。次にローレンスが1人1人と話す。最後に儂が1人1人と話す。
これだけ話せば、矛盾がある者は気付いて、理解すると思っての工程だが、儂も歳だからな、あまりこき使わず労ってほしいものだ。
とにかく今日は長い1日になりそうだ・・・。
昼食が終わり、移動して茶を振る舞いながら最初に孫達に質問したのは、将来について。
エイドリアンは、嫡男だから子爵を継いで当主になると鼻を膨らませ、堂々と胸を張って答えた。
エーメリーは、絶対に伯爵家以上の家に嫁いでみせると、身を乗り出して答えた。
エルウィンは、まだ自分にどんな事ができるか分からないけど、何をするにもエミリアーナのそばにいたいと答えた。
エミリアーナは、自分は誘拐されたキズ者だから結婚は考えてなくて、働けるようになりたいと答えた。
次に、儂の息子ルーファスが妻を愛するあまり調子に乗って、夫人の体に負担をかけてしまった事を話した。なのでお前達は世間では珍しい4人年子の兄弟になったと伝えた。
ルーファスは立ち上がり、子供達に医者や周囲の反対を聞かずに過ちを犯した事を謝って、当時の診断書も見せた。そして皆が自分の子であると魔導具を使い、証明した。
その時に、エイドリアンとエーメリーはローレンスとエルウィン、エミリアーナの鑑定をしろと騒いだので、ルーファスがいつもかけている認識阻害眼鏡をとって本当の姿を孫達に見せた。金髪碧眼の本来の息子の姿に、孫達が驚きで目をまんまるにしておった。
更にエイドリアンとエーメリーがキャンキャン騒いだので、儂は元国王じゃと正体を明かした。まだ開くのか?というくらいに更に目をまんまるにした姿は可愛かった。
それからはルーファスが1人1人と別室で話し、次はローレンスが別室で1人1人と話し、最後に儂が孫達1人1人と話をした。
孫達に夕食を振る舞っている間に、儂と息子達で話し合い、今後の方針を決めた。
再度孫達を集め、じいちゃんの顔をしまい、国王だった頃の威厳ある態度、声で話し始めた。
「今日は皆ご苦労じゃった。
お前達4人にはこれから、儂の屋敷、ローレンスの屋敷、ロデリックの屋敷、ロデリックの妹アリアの屋敷、ルーファスの屋敷をそれぞれ3ヶ月ずつ滞在してもらう。もちろん1人ずつじゃ。
王族の血を引くと聞いたとたん、子爵よりもっと上の爵位を望んだエイドリアン。伯爵家以上から王妃になりたいと儂に強請ったエーメリー。
其方らの今の態度では叶うことは欠片もない。高位貴族の教育は下位貴族の教育とはまるで違う。だが、ルーファスがムリだと言っても、ローレンスがムリだと言っても、最後に儂の所にきて2人ともそれぞれに強請った。儂らが正体を明かした後も、そう言ってきたのだから覚悟があると判断し、儂らは其方らが孫ということを一旦忘れ、望んだ地位に届くよう指導することにした。血筋や才能よりもやる気じゃ。努力を怠れば、儂らは其方らを容赦なく切り捨てる。その時の為にも商人ルーファスとデザイナーアリアの所でもしっかり学べ。いつでも儂の所に報告がくるようになる。ちゃんと見ているからな?」
エイドリアンとエーメリーは儂の言葉に怯んだが、再度問うと儂の目を見て頷いた。
誓約書を用意し、記載事項を確認させ、内容に納得したので名を書かせ、それぞれ本人に渡し、無くさぬよう伝え、儂も其方らの決意の誓約書を大切に保管する事を伝えた。
「さて次に移るが、お前達兄弟は、今日限りで兄弟であったことを忘れろ」
儂の言葉に、エルウィンとエミリアーナは顔を見合わせ、お互いの手を握りあって不安げにこちらを見上げた。
「ふはっ。 エルウィンとエミリアーナは兄妹のままじゃ。エイドリアン、エーメリー、其方らは存在を否定している弟妹など、蹴落としたい弟妹などいらんだろう? これからは1人ずつ屋敷を巡るし、学ぶ事も多い。どうせ今後も会う機会は少なくなる。その間に忘れてしまえ。その方がお前達の為だ」
少し強い声で話したからか、エイドリアンとエーメリーはビクッと肩を揺らした。
「其方らの志の高さは応援するが、子爵邸での其方らの振る舞いは到底許すことはできない」
そう言い、先程ロデリックが持ってきた書類の束を掲げる。
「其方らの父は其方らが生活に困る事のないように、日々忙しく働いていた。それなのに手紙で嘘の報告し、弟妹が父宛に書いた手紙を処分し、屋敷内の使用人には弟妹は血の繋がりがないと触れ回っていたようだな?」
「「・・・っ」」
「儂に対して嘘を申したら虚無申告罪にあたるぞ」
「「ひぃっ」」
2人はガダガタと震えだし、周囲を見渡しても誰も助けてもくれないと分かると罪を認めた。
ふぅ、この時点でちゃんと罪を認めてくれて良かった。まだこの2人には望みはある。またギャーギャー騒いだら、ローレンスの案を提示しなければならなかった。あの案はさすがに可哀相すぎると思っていたから、かなりホッとしている。顔にも言葉にも出さぬがな。
「過ちを犯したのだから、きちんと謝罪をしろ」
そう言うと、時間がかかったがエイドリアンは立ち上がり、エルウィンとエミリアーナの前で膝をつき、
「今まで無視し続け、使用人達に嘘を吹き込んで申し訳ありませんでした」
そう言って頭を下げた。
「・・・許します。これから会うことはなくなりますが、陰ながら応援してます。頑張って下さい」
「・・・わたしも許します。エル兄様と同じ気持ちです」
ありがとうとエイドリアンは返事をして席に戻った後、エーメリーが立ち上がり2人の前に立ったが、なかなか言葉を発せずにいる。エルウィンとエミリアーナ、それに周囲も根気よく待っていた。ようやく顔を上げ、言葉を発するかと思えばエーメリーは、
「・・・え、えーと、ごめんなさい?」
エルウィンとエミリアーナは固まっている。
そりゃそうだろう。謝罪を疑問形でするやつがあるか。
それでも周囲はしんと静まり返っている。
冷え冷えと空気に耐えられなくなったのか、
「う、う、う、うえーん。会う度に文句を言ってごめんなさい。 手紙を捨ててごめんなさーい。 うわーん」
どん引きのギャン泣きである。
「・・・許します。頑張って下さい」
「・・・私も許します。頑張って下さい」
それを聞いたエーメリーは頭を下げる事もなく席に戻った。
やれやれだな。 これで王妃になりたいとよく言えたもんだ。
「はあ、受け入れてもらえて良かったな。エルウィンとエミリアーナ以外の者なら絶対に許されぬ謝罪だぞ?分かっておるな?」
「ぐすっ、は・・・い」
「これで其方らはエルウィンとエミリアーナが弟妹だったことを忘れろ。そして今日から早速エイドリアンはローレンスの屋敷へ、エーメリーはロデリックの屋敷へ行きなさい。 今日はこれにて解散とする」
エイドリアンとエーメリーはそれぞれの屋敷に行った。
「ふぅ、やっと終わったな。 クタクタじゃ」
首を回しコキコキと鳴らしてから、肩を片方ずつぐるぐると回し、ぐーっと伸びをする。
そんな儂を見てクスクスと笑っている孫が可愛くて、じいちゃんの顔に戻る。
「エルウィンとエミリアーナはとりあえず2人で一緒に儂の屋敷からスタートじゃ」
「「はい。よろしくお願いします」」
素直な孫は可愛いな。




