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末っ子エミリアーナ  作者: ぱんどーる


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「もうすぐ100年か。感慨深いな」


歴代の王が並ぶ肖像画を眺めながら陛下が呟いた。


「この肖像画もそうだ。2代前と3代前の王の肖像画の出来栄えは群を抜いて素晴らしい。絵師達は並んで置かれるのを嫌がり、皆1度は断るからな。ははっ」


ルルー子爵家が誕生して100年。


初代当主は、当時の国王とメイドの間に生まれたルーファス様。2代目は4人兄妹の末っ子エミリアーナ様。3代目は次女のエリアナ様。今代は俺、エルファード。


「私も3代目当主エリアナ様には憧れた。歳が離れていなければ惚れていただろうな」


おいおい陛下、うっとりとした気持ち悪い顔で俺の母を思い出すな。それに俺の妹には完全に惚れてたよな? まさかバレてないと思ってるのか? 王家の皆様や俺の家族、周囲の協力で2人を会わせないようにしてたし、陛下の婚約者選びも早まったよな?


妹は、陛下の気持ちに気づいていながら、気づいていないふりをしたまま、遠く離れた東の国へ嫁いで行った。

今は数年に1度のペースでしか会うことができない事が寂しくもあり、心配でもあるが、好いた相手に幸せそうに微笑む妹の顔を見たら、結婚までスムーズに進むように道を整えてやることが俺の役目だと思い、あちこちに手を回し、無我夢中で奔走した。


あの時はありがとうと、ふにゃりとした笑顔で妹に言われる度に、頑張って良かったと思う。


おっと。

妹を思い出し、ふけってしまったが、まだ陛下に言っておかないといけない事があった。


「長女のエリアーナは内々で辺境伯の長男と婚約が決まっております。2人はお互いを想い合っていますので、王太子殿下にはよく言い聞かせてくださいよ? うちよりも辺境伯を怒らせる方が怖いかと思います。次女は子爵位を継ぐので嫁がせる事はできません。それから何度も申し上げておりますが、我が家は子爵位のままでお願いします。歴代当主も毎度断っていたでしょう? この件で毎度王宮に呼ばれるのは非常に面倒なので、いい加減こちらの書面で契りましょうよ、陛下」


2代目当主だったエミリアーナお祖母様の時から用意されている書類を陛下の前でヒラヒラさせる。


「ダ、ダメだ。それだけは断固として断るぞ。 其方のように私も歴代の王から言われているからな。次代は上の爵位を欲しがる当主になるかもしれん。その望みを捨てずに、代替わりする度に尋ねる決まりになっておる」


ちっ。ダメだっか。

いつかこの悲願を達成することを家訓に付け足したくらい、我が家にとって重要な責務だ。

しかし残念ながら俺の代でも叶わなそうだ。先代の皆様、申し訳ございません。次女よ、不甲斐ない父で申し訳ない。どうかお前の代で成し遂げてくれ、よろしく頼む。


「はぁ、その書類は早くしまえ。王太子にも言い聞かせる。其方らとはもちろんのこと、辺境伯とも揉めることは避けたいからな。・・・ん? もしや王族と縁を持ちたくないから、陞爵も領地も断るのか?」


くっ、鋭いな。

それもあるが、うちは商売メインの家だ。今やこの大陸以外にも支店を持ち、業務は多岐にわたる。その上領地経営までこなすなんて、とてもじゃないが手が回らないし、今以上に大切な家族との時間が減る事は許さない。なにがなんでも絶対に断る。各国で地道に繋いできた縁もあるから、この国にこだわりも無い。爵位だって面倒なだけで、なくても全く困らない。


俺の代で新規開拓をするつもりはない。今ある店をより良い環境にすることに力を入れている。このままいけば現状維持のまま、娘に引き継ぐことになるだろう。


理由はある。

男が当主になるより、女が当主なる方が、ルルー家は繁栄するからだ。お祖母様と母、当主になったのはまだ2人だけだが、妹も俺と同じ考えでいる。


なにせ、絶対に幸運を掴みとってやるぜと、フンフン鼻息を荒くしなくとも、幸運の方からこちらにやってくるのだ。


若い頃は悔しくてがむしゃらに働いたが、幸運スキルに太刀打ちできるわけないと、妹にマジメな顔で言われてからは肩の力が抜けた。


妹が嫁いだ東の国ではそんな女性を「あげまん」と言うらしい。好いた男と結ばれる事で発動するスキルだそうだ。


妹が嫁いだ伯爵家でも、景気が上向いたと手紙に書かれていた。妹が特別に何かをしたわけではなく、ただ旦那の話に決して口を挟まず、最初から最後まで目を見てちゃんと聞いて、微笑んでいただけ。

旦那の話が終わり、妹が口を開こうと空気を吸い込んだあたりのタイミングで、旦那はぴっこーんと名案が閃くそうだ。その閃きは必ず成功して、妹は聞いているだけなのに、旦那や家族、屋敷で働く者からも大変感謝されるそうだ。


専門家に相談し議論するよりも、「うちの妻が聞いてくれるだけで私に閃きを与えてくれる最高の伴侶だ! 」と周囲に自慢していて恥ずかしいと手紙が届いた時は、「のろけかっ!?」と少しイラッとして手紙を破りそうになったが、知り合いもいない遠い地に嫁いだ妹が、旦那や家族に愛され、大切にされてるなら、まあ仕方ないかと気持ちを落ち着かせている。


それから、息子ができると必ずシスコンになるらしい。

ま、俺も学生時代は散々揶揄われたが、妹のことは大切で大事で大好きだと常に言ってきた身だ。シスコン疑惑も多分間違いないだろう。


俺には娘が2人。姉妹を守ってくれるような息子も欲しかったが、2人の娘は物理面も申し分なく強いし、上の娘が辺境伯の長男と婚約予定。とても仲が良いので、こちらが心配せずとも彼なら必ず守ってくれるだろう。



お前も上を目指せ? 現状維持で満足するな?


おいおい、あげまんを甘くみるなよ?

マジですごいからな?

あげまんを目の当たりにすると、誰もが完全にお手上げ状態になるさ。


色々と腑に落ちたからな、あげまん。


あげまんなら仕方がない。

男の俺では絶対になれないのだから諦めも肝心で、現状維持に切り替える。


あげまん・・・。


ふむ、甘い物が食べたくなってきたな。

よし、妻と娘達にお土産を買って皆で一緒に食べよう!






4代目当主とその妹の推測は正しかった。


その後もルルー子爵家は、最低でも1人は娘が誕生し、息子も誕生すれば必ずシスコンになり、不安因子から鉄壁の守りで相手を払いのける完璧なナイトになった。


時に魅了を疑われたり、もしや聖女様なのでは? と担がれそうになっても「私はただのあげまんです」と、すんとした顔で答え、あげまんとは何だ? と周囲をどよめかせたらしい。


それでいて愛する旦那様にはとびきりの笑顔でぴたりと寄り添い、あげまんを存分に発揮させていったと言われている。



ありがとうございました。

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