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「エイドリアンはカーブンで生死不明。エーメリーは怪しい伯爵家にドナドナされて、エルウィンはローレンスの養子になったから、僕は何もさせてもらえなかった。末娘のエミリアーナでやっと僕も親らしく動ける・・・。ぅぐっ、ジェシカのように何カ国語も操り、ジェシカのように騎士並に強く、顔はジェシカにそっくり。 えぐっ、本当は結婚なんてしないで僕の傍にいてもらいたい・・・」
お父様がいつものように、えぐえぐと泣き始めると、
「あんたはホントによく泣くわね。ジェシカはルーファスのどこが良かったのかしら? 金髪碧瞳っていう色しか褒めるところがないわ」
お父様の顔にハンカチをあてながら、呆れるアリア叔母様。
「ヴィンセントも賢く強いから、エミリアーナを守れるとしても、このチャラそうな見た目がどうも気に食わん。 メイナードもロデリックに似ずに柔弱だったし、あ! もしかして俺が1番相応しかったのか?」
ローレンス伯父様がぶつぶつ言うと、
「歳を考えろ、ローレンス。 可愛い姪っ子を親より年上の男に嫁がせられるか。 うちのメイナードは未だに未練タラタラで情けない限りだが、ヴィンセントの能力は使えるから、これで良かったじゃないか」
ロデリック伯父様がそう言うと、
「エミリアーナ・・・」
メイが心配そうに私の名前を呼ぶ。
「メイナードやアレクシス、アーノルドよりはよっぽどマシな男だと思うわ。エミリアーナ本人もヴィンセントが大好きなようだし、私はこれで良かったと思うわ」
アンジェ様が、弟達のダメ出しをした。名前が出た3人は情けない顔をしてこちらを見てくる。
「はは。俺も色々と話をしたが、いい奴だったぞ。これからはよろしくしたいと伝えたところだ」
イライアス様はヴィンスの事を気に入られたようだ。
「うちでエミリアーナとセットで使う予定だから、そこはご遠慮願いたいですな。がははっ」
我が国の陛下がイライアス様を牽制した。お互いに顔はにこにこと笑顔でいながらも、視線でバチバチにやりあっている。
「ごほっ。エミリアーナ、今日はおめでとう。この日を楽しみに今日まで生きてきた。本当に綺麗だ。幸せになりなさい。ヴィンセント、うちの息子のようなマネだけはくれぐれもしないようにな。頼んだよ」
元国王のお祖父様は高齢になり、体調が悪い日が続いている。周囲が止めても絶対に行くと聞かなかったので、常に2人のお医者様が近くにいる状態。
「ねえ、みんな。何を話してても構わないけど、顔だけはこっちに向けてくれるかな? もう時間がないんだから、ちゃんとしてよね」
「「「「「「 ・・・・・・・・ 」」」」」」」
(あのふざけた爺さんにちゃんとしろって言われると、妙に イラッとするな)
母方のお祖父様のひと言で、場が静まりかえると共に、心の声が全員一致した瞬間だった。
私達の結婚式の為に集まってくれた、幼い頃からお世話になった皆様との記念に、式が始まる前にお祖父様にお願いをして、絵を描いてもらっている。
エル兄様はまだ言葉を発してないけど、ちゃんといる。
前日にヴィンスと2人で公爵邸に招待され、マリアンナ様も一緒にお祝いをしてもらった。マリアンナ様はご懐妊中なので今日は屋敷で安静にしてもらっている。いつ産まれてもおかしくない状態なのに、「私も行く」と諦めないマリアンナ様に困っていたが、エル兄様がマリアンナ様の耳元で何かを囁いたら、「・・・明日は我慢するわ」となったのだから驚いた。
も、もしかしてエル兄様に調教されてる?
そんなドタバタしながら始まったヴィンスと私の結婚式。
心から大好きな人と結ばれるって、本当に幸せ。
幸せすぎて、顔がふにゃけっぱなしで元に戻らない。
幸せそうなエミリアーナを見ていると、俺も幸せな気分になる。貴族として生まれ、しかも機密を扱う特殊な家で育った。結婚することがあったなら、絶対に政略結婚だと思っていたし、当主が決めた事に従う覚悟もあった。
それなのに、ガキの頃から気になっていたエミリアーナと結婚することができた。
エミリアーナのベールを上げ、様子をうかがうと、完全に顔がゆるんでる。「皆の前でキスをするのは恥ずかしいからイヤ」なんて顔を真っ赤にさせて恥じらっていたお嬢はどこに行った?
ふーん。そうか。
なら、遠慮なくお嬢の唇を頂こう。
お嬢の頬を両手で包み、2人きりの時にするようにキスをする。
「っ!? 」
くくっ。
事前の打ち合わせでは、お嬢の肩に手をおいて誓いのキスをする予定だったから驚いている。目で「どーだ、驚いたか?」と語ってみると、文句を言いたそうな目をしながらも、「もう、しょうがないんだから」と語ってきてから、俺の腰に両腕を回してきた。
「「 はぁ!? 」」
男性陣から低く唸る声が上がり、
「いいぞ! 2人とも! 最高じゃ!」
前陛下の喜ぶ声がする。
義父が止めようと立ち上がったところで、キスを終わりにした。今のお嬢の顔は男共に見せたくはない。今がどういう状況か忘れ、もっとしてほしいと蕩けた顔を俺に向けてくるから、抱きしめてお嬢の顔を皆から隠す。
「ダメよ! 化粧が落ちるわ!」
お嬢の身内が叫ぶ声が聞こえてくる。
「でも今は隠すのが正解よ!」
イーブンに嫁いだ殿下の声も聞こえてくる。
お嬢の周囲は高貴な方が多く、しかも歳の近い男はお嬢に1度は惚れていた。そうじゃない者は、とにかく可愛がり、とても大切にしている。
前陛下から始まり、現陛下、王太子殿下に、隣国の王太子殿下、王弟、元婚約者の親父さん、もちろん元主のエルウィン殿。それぞれに呼び出され、こんこんと説き伏せられたが、その度にそんな心配はいらないとはっきり伝えてきた。
「絶対に俺より先に死なせないし、俺も早死にするつもりはない。必ず幸せにする」
まったく・・・心配性なうるさい身内ができたもんだ。
だが、そんな日々も悪くない。それにやっと手に入れたエミリアーナが隣にいる。エミリアーナが笑ってくれれば、なんだって乗り越えられるだろう。
「愛してる、エミリアーナ」
え? 愛してる?
「好き」はたくさん言ってもらえたけど、「愛してる」は初めて。
顔を上げて、ヴィンスを見上げる。
あー、お母様。
生まれてから色々とあったけど、命をかけて産んでもらったエミリアーナは幸せです。ヴィンスも私を愛してくれます。早死にしてヴィンスを闇落ちさせないと誓います。
どうか見守っていてください。
「どした?」
「ふふ。 私も愛してるわ、ヴィンス」
「っ! ったく、その顔はそそるからダメだって言ってるだろ?」
ヴィンスとまた長いキスしていると、とうとうエル兄様がこちらに向かって、怖い顔で歩いてくる。
危険を察知したヴィンスが私を抱き上げたので、私もしっかりと腕を回してしがみつく。
元影さんの、東の国の忍者みたいな予測不能な動きでエル兄様から逃げ回る姿は、皆の笑いを誘い、式場は大盛り上がりになった。
「もうこのまま抜けて、2人になりてぇ」
「私も。・・・私達にはまだ大事なイベントがあるしね」
「ごほっ、覚悟は決まってんの?」
「もちろん。 新しい命を授かっても絶対に死なないわ」
「ふはっ。さすが俺の嫁。愛してる」
「ふふ。私もよ」
本当に賑やかな結婚式になりました。
そして数年後、2人の子供に恵まれました。
もちろん私も子供達も、そして大好きな旦那様も、全員元気に過ごしてます!
あー、幸せっ!!
これにて完結です。
後日、番外編をup予定です。
ありがとうございました。




