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末っ子エミリアーナ  作者: ぱんどーる


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「ほら、手」


差し出された手をとると、よいしょっと言いながら腰を抱かれ、馬に乗せてもらった。


「どこに行くの?」


影さんを見上げて問うと、私を見下ろしながらニヤっとして


「んー? 2人になれるところ?」

「言い方! それに顔がやらしいわ」

「そーかぁ?」


影さんの体にしがみついてないと落ちそうで不安だけど、密着しているのも恥ずかしい。これからは乗馬の訓練もやらないとダメね。


しばらく走ると高い丘に到着した。馬に括りつけていた荷物には、敷物に軽い軽食と水筒が入っていて、テキパキと用意をしてくれる影さん。


「実はトレバー領の隣はうちの領地なんだ。ガキの頃、ここに何度か来たことがあるんだ。あっちの方角に自分んちが見えるだろ?」


「あ、ホントだ。メイの屋敷もわかるわ!」


「あー、あのね、お嬢さん。俺と2人でいる時に、元カレの名前は出さないでもらえるかな?」


「ふふ。ごめんなさい? それにしても影さんは貴族だったのね」


「くくっ。俺に興味があるんだかないんだかわからん奴だな。俺は伯爵家の3男坊。男ばかりの5人兄弟で、うちは代々機密を扱う家系だ。歳はお嬢の4つ上だな」


渡されたカップには温かい紅茶が入っていた。


「ありがとう。ふぅ、おいしい」


「俺の話を聞いてもらうから、少し長くなる。ほら、こっちも食べてみな」


目の前に美味しそうなサンドイッチを出されたので、口を大きくあけてかぶりつく。


「・・・はぁ? 食べさせてもらうのが普通なの?」


「あむ、もぐもぐ。 え? 違った? 目の前に出されたからつい・・・」


「・・・俺は手渡したつもりだった」


「あ、えーっと・・・次からは気をつけます」


うっ、恥ずかしい。


「くくっ。まあいいんじゃない? その方が俺も面白いし、男ばっかの兄弟だったから、なんか新鮮で楽しいな」


「え? 妹扱い? それはやだ・・・」


「くくっ。・・・可愛いなお嬢」


そう言って私の頭をなでる影さんの顔がとても優しい。それに影さんに可愛いなんて言われたのは今が初めてで、急に心臓がドキドキしてきた。さっきとは違う恥ずかしさで自分の顔が赤くなるのがわかる。


「はぁー。今すぐ抱きしめてキスしたくなるような顔はやめてくれる? 話ができなくなるじゃん」


「うっ、そんな事言われても・・・」


「ははっ。そんなマジメな話でもないから、つまみながら聞いてて。まず、学園でアレクシス様を見張る事が俺の初めての任務だった。その後マリアンナ様に配置換えになって、そのついでにお嬢も見張る事になった。お嬢を見張ってるうちに、仕事の範囲をこえて、自分の手でお嬢を守りたいと思うようになった。だが監視対象に対して情がわく人間は影に向いていない。親にも兄貴にもはっきりと言われ、影の任務は降ろされた」


「え、マジメに聞かないとダメな話じゃない! 私のせいでクビになってしまったのよ?」


「そこでエルウィン殿に声をかけられ、すぐ再就職先が決まった。急に舞い込んだ初仕事が、家を飛び出したお嬢を探すこと。店では平然としていたのに、歩いて帰ってる途中から酔いがまわり始め、酔っ払いの行動になっただろ?」


「うっ・・・。歩けなくなっておんぶしてもらったことまでは覚えてるけど、それ以降は今も記憶にないわ」


「家に着いてからエルウィン殿に、俺の事が好きだと熱心に言ってたな」


「え、そうなの!?」


「ああ。長々と説明してたぞ。エルウィン殿も酔っ払ってるからだとその時は判断したが、お嬢を観察しているとメイナード殿と婚約解消を願い、どうやら俺に本気だと思うようになり、俺もお嬢が好きだと伝えると俺に条件を出した」


そんなにわかりやすかったかしら? また恥ずかしくなってきたわ。


「俺と同じくらいに動ける影を5人育成すること。商会の運営に携われるようになる事と、商会の増築。それらがまあまあに大変で、こんなに時間がかかった。まともにお嬢の顔を見たのは、イーブンでダンスをした時くらいだったろ? あの時はくたびれきっていた俺に、エルウィン殿が気を使ってくれたんだ。久しぶりに見たお嬢は綺麗になってて驚いたし見惚れた。それにお嬢がやっぱり好きと言ってくれたから、また力がわいて頑張れた」


「何も知らなかったわ。大変な思いをさせちゃってたわね。ごめんなさい。でも嬉しい・・・ありがとう」


「ん。・・・あー、もう抱きしめてもいい? ありがとうって言葉、すっげー嬉しい」


いいと言ってないのに、ぎゅうぎゅうに抱きしめられたけど、全くイヤじゃない。むしろ嬉しくて幸せで、私も影さんの背中に手を回す。


「実はさ、ガキの頃、お嬢に会ったことがあるんだ。その時は精神を鍛える修行だった。修行内容は、誘拐されて酷い怪我をした6歳の女の子の見張りをすること。長兄と次兄は騎士団から犯人グループの親玉の捜査と見張りを依頼されてそっちに行って、残った俺と弟2人の3人でお嬢を見張ったけど、下の弟2人のうち1人は涙が止まらずガタガタ震え、もう1人は3回嘔吐した。弟達はすぐにギブアップして家に帰って俺だけ残った。1人になってから俺も女の子のあまりの悲惨な状態に泣いた。あの時はよく頑張ったな、お嬢」


影さんの胸にうずめていた顔をぱっと上げ、


「もしかして、額に手を当ててくれたのは影さん?」


「・・・覚えているのか?」


「うん。高熱で呼吸は苦しくて、体はあちこち痛すぎて眠ることができなかった深夜に、あの手でとてもラクになったのを覚えてる。影さんだったんだね。ふふ、ありがとう」


「あまりにも辛そうだから、どうにかしてやりたくて、つい近くに行ってしまった。ラクになったなら良かった。その修行は1週間で終わったけど、あの女の子は元気になったかな? なんて思いながら、たまにこの丘から子爵邸を眺めてたんだ」


長年の疑問が解決され、すっきりした。あの手が影さんだったなんて運命じゃない? 顔がふにゃけてしまうわ。


「っ! その顔はずるい」


そう言った影さんにキスをされた。

初めてのキスが大好きな影さんで、感動で涙が出そうになるし、嬉しすぎてまたもや顔がふにゃけてしまう。


「~~~っ、だからその顔はダメだ。そそられすぎるっ」


その後は

何度も何度もキスを重ね、何度も何度も好きを伝えあった。



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