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スライディング土下座の後、あまりの衝撃で立ち上がれずにいた。ぽたぽたと床に自分の涙がたまっていくのを四つん這いになりながら見ていた。
僕は父親として何もかもがダメダメだったんだな・・・。
「今更かよ?」
「全くだ」
呆れた声を発しながら、隠れて話を聞いていた僕の兄と、妻の兄が姿を現した。
妻の兄に首根っこを掴まれ、ちゃんと椅子に座れと雑に放り投げられた。コントロールが良く、ぽすんと椅子に着席できたが、僕は顔を両手で覆い、項垂れていた。
それでも話し合いは始まった。
「お前、ふざけるなよ? 明日から必ずと言ったのはお前だろ? 商人のくせにできない約束をしたのか?俺達がいなかったらお前はそうやって泣いてるまま明日になってただろうな。バカめ」
ハッとして顔をあげる。
そうだ、確かに僕は娘にそう言った。改善されてなければ2度と娘は僕に心は開いてくれないだろう。
顔をあげた僕に、兄は特大のため息をついてから
「長男エイドリアン9歳、長女エーメリー8歳 次男エルウィン7歳、次女エミリアーナ6歳。まず17歳の生娘に4年連続で子を作った事がお前の最大の罪だ。2人目の後、医者に言われたよな? この後は期間をあけろと。それなのに忠告を聞かずに更に続けて2人も作った。夫人に負担がかかるのは当たり前だろ?バカめ」
「忠告を聞かず、本能のままに下半身を使い、妹を殺しておきながら、更に子供達を放置するなんて本当にクズとしか言いようがない。エミリアーナが誘拐され、生きていた事が奇跡的な状態だったのにもかかわらず、お前が見舞いに行ったのはひと月以上経ってからだ。お前は人の心があるのか?それとも悪魔なのか?なあ、いつまでも黙ってないで、メソメソ被害者ヅラしないで何とか言えよ」
立ち上がった妻の兄が殴りかかってきたのを、僕の兄が止めてくれた。
「まだ待て。お前が殴ると相手が必ず大怪我をする。話が終わってからにしてくれ。エミリアーナをこれ以上悲しませたくない」
そう言われ、妻の兄は仕方なく椅子に戻りながら
「・・・確かにその通りだ。だが、コイツの息の根を今すぐ止めてやりたい」
ひぃっ!!
でもこれは本当の事だ。 この人は賢い上に強い。
「子供達全員が父親に手紙を書いていたのに、届いたのは長男エイドリアンと長女エーメリーのみ。 その内容を信じていたお前も悪い。執事や使用人達も2人の話を信じ、蔑ろにし、手紙も処分していた。これらも精査しなければならないし、お前が本当は金髪碧眼なのを子供達にいつまでも言わないから、更に下の2人は不遇な扱いを受けた。こんなに問題だらけなのに明日までになんてよく言えたな。本当に大馬鹿ヤローだな」
うっ、そう言った兄の僕に向ける視線はかなり厳しい。
「とにかく時間がない。子供達は一緒にいさせない方がいいだろ。ローレンスはどちらかを養子にしたいと言っていたがどちらを引き取るつもりだ? うちではエーメリーを引き取り、ちゃんと矯正させたいと思っている。あのままだと破滅しかない道を最短距離で突っ走りそうであやうい。本当は妹の生き写しのエミリアーナを引き取り、甘やかしたいのだがな」
うっ、妻の兄はさっきから殺気を抑えてくれない。
「はは。俺だってエミリアーナを引き取りたいさ。でもそうはいかないからなぁ。男ならエルウィンと言いたい所だが、やはり歪んだ性格を真っ直ぐに戻さなければならないからエイドリアンを引き取るしかないだろうな・・・はぁ」
再度ため息をついた兄は、腕を組み、背もたれにもたれながら天井を見つめている。今後の事を考えているのか?この兄もかなりのキレ者だ。先の先の先まで見透す人だ。
「・・・あの、迷惑をかけてごめん2人とも。僕は本当にジェシカを愛していた。でも確かにジェシカを殺してしまったのも僕だ・・・。うぐっ。今日久しぶりに末娘を見て驚いた。あまりにもジェシカに似ていたから。すんってした所なんて本当に出会った頃のジェシカみたいだった・・・うぐっ」
兄ローレンス、妻の兄ロデリックは、呆れた顔をしたまま何も言わず、しばらく僕の嗚咽だけが部屋に響いていたが、それが落ち着いた頃、僕の考えを2人に伝えた。
「・・・意外とまともな事を言ってきたが、明日は骨が折れる1日になりそうだな。クソ」
「・・・はぁ。それはこちらもですよ、ローレンス」
2人は心底面倒そうな顔をして帰って行った。




