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私、エミリアーナはチョロく見えるらしい。
エル兄様には「小っさいな」と言われ、頭をぐりぐりとよくされたが、エル兄様にぐりぐりと押さえつけられなければ、更に背が伸びたのでは?私が小さいのはエル兄様のせいなのでは?
というのは冗談で、エル兄様はいつも優しくぐりぐりしてくれていたし、私もそれをエル兄様に求めていた。それに学園に行ってみると、私より身長が低い令嬢はたくさんいた。
追加された借金返済の為、質素倹約な生活が再開され、剣や体術の訓練も続けているので、さすがに体は細身ではある。
もう食べられないというまでお腹いっぱいの大満足状態にしたのはいつだっただろう・・・。うっ、悲しい。
お母様似と言われる自分の顔を鏡で見てみる。鏡に映る自分を客観的に言うと、丸顔で、大きめな目はたれていて、高くない鼻に、こじんまりとした口と、ゆるくウェーブしている金髪に、瞳の色は碧。
うん、なんか弱っちく見えるかも・・・。
上3人の兄姉兄は、お父様の卵型の顔に、私ほどはたれていない目、お父様に似た高い鼻。長兄と姉は眉毛を細く手入れしていたから、見た目に弱っちさはなかった。しかもいつも機嫌が悪かったから、目尻は上がっていた気がする。
私も鼻はお父様似が良かったな。
ま、それでも皆が褒めるお母様に似ていると言われるのは嬉しいので、弱っちく見える自分の容姿に不満はない。
そんな私が長兄にキズモノだと夜会で言われた為、学園で私の周りには人がいなくなったし、逆になぜキズモノなの?と堂々と尋ねられることもあった。
そんな時は、嘘を吐かず、
「6歳の時、母方のお祖父様と散歩をしていた時に誘拐された。全身骨折して歯も失ったが、乳歯だったから良かったし、その日のうちに騎士団に助けてもらった」と返答している。
2年に進級した頃には、私の母方のお祖父様が有名な画家であることや、元陛下もお祖父様であることが皆にバレた。元陛下のお祖父様の孫であることは隠しておきたかった。正直に言えば、お祖父様のうっかりでお父様ができちゃったという話だから、お祖父様も話が広まるのはイヤだと思うのだ。
学園への行き帰りと昼食時は、ほぼエル兄様と一緒だが、学年も違うしそれ以外は別行動。マリアンナ様は諸用で登校しない日もある。別のクラスにいるメイも学園では昼食くらいしか一緒にならない。ゆえに学園内では1人で行動する事も多かった。
そんな1人でいる私に、男子生徒から声をかけられることが夜会以降、ぐっと増えた。
声をかけられただけならこちらも普通に会話をするだけだが、人に聞かれたくないと理由をつけて空き教室に連れ込まれ、ニタニタとした顔をして、今から2人で楽しいことをしようなんて言って体に触れてきたので、思わず股間を蹴り上げてしまった。
股間を押さえたまま白目になって床に倒れ、口から泡をふいてぴくぴくしていたので、その場に残して職員室に向かい、教員をひっぱり現場に戻った。
現場を見た教員も一瞬股間に手をあて、腰をひかせながらも事情をちゃんと聞いてくれた。
1人目の男子生徒に言われたのは、
「・・・見た目はか弱そうで、美人ではないがとても可愛い。・・・その上爵位も高くないし・・・キズモノなんて言われている女性だから・・・手を出すのに調度いいと思ってしまった。・・・ごめんなさい」
ぷるぷると震えながら股間を押さえ、途切れ途切れだったが、ちゃんと説明してくれた事にホッとしたし、頭を下げて謝罪してくたから許そうと思えた。
これで私の行動は、正当防衛であると証明された。
その後、教員が男子生徒の家と私の家に連絡をし、その日のうちに男子生徒の家から謝罪され、安くはないお金を貰い、それがお互いの口止め料となった。それ以来、あの男子生徒と話すことも目が合うこともなくなった。たぶん向こうに完全に避けられている。
鍛えた相手5人程なら、どうにかできるようになったのは、たぶん10歳になったくらいの頃の話。訓練していない貴族の坊ちゃんが相手なら絶対に負けない自信があるが、未来ある青年の股間を蹴り上げてしまっても良いのか?と疑問に思った。
今回の私の件は、エル兄様達にも報告されていたので、色々と小言を言われる前に相談してみたら、
「・・・だな。そんな奴のアレは使いモノにならなくなってもいいと思えるが、お前の蹴りは的確で強力だからな・・・。それに敵意を感じた時のお前は、相手に対して手加減する余裕はないだろうし、貴族は血を繋ぐことも大事な役目だ。学園ではやめた方がいいかもな。逆にこちらが訴えられでもしたら、それはそれで厄介だしな」
こうして学園で男子生徒の股間を蹴り上げることは禁止になった。
口止めをしていたからか、チョロそうで弱っちく見える私を狙うバカな男子生徒は減らず、同じような場面が何度もあったが、決して股間を蹴り上げず、相手がギブアップするまで締め上げた。
いつもの通り教員を呼んでも、嘘を吐き、その場を切り抜けようとする男子生徒の方が多く、困ることもあったが、なぜが次の日には、男子生徒の家から謝罪され、安くはないお金を貰い、それが口止め料になった。
後から聞いた話は、元陛下のお祖父様、ローレンス伯父様、ロデリック伯父様、マリアンナ様にアンジェ様、アレクシス様と権力者達のお心遣いやらご配慮で、1人目以降私に影がつけられていたらしい。とても驚いたが、アレクシス様とマリアンナ様のお2人の王族が学園にいるので影をつけていたから、そのついでに私も見張らせていたとの事。あくまでついでだから気にするなと笑いながら言われた。
何度か視線を感じ、周囲を警戒した時もあったが、あれは私を見張っていた影さんだったのかもしれない。
お世話になっております。こんな地位も権力もない小娘の為にいつもありがとう。
そんなこんなでエル兄様やアレクシス様が卒業する頃には、たくさんの口止め料を貰うことになり、
なんと! 長兄の慰謝料の支払いが完了した。
お祖父様をはじめ、私の為に対処してくださった権力者の皆様には、心を込めて刺繍をしたハンカチ、私が最近ハマって作っている皆様それぞれの顔に似た小さなマスコット人形、シンプルだが心を込めて焼いた菓子を渡してお礼をした。
借金返済バンザーイっっ!!




