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「とっても可愛いし、綺麗だよエミリアーナ。今日は僕から離れないようにね」
「ありがとう。ふふ、メイもとても格好いいわ」
メイのエスコートで入場した。今日は、王家主催の大きな夜会だ。アンジェ様とイライアス様の婚約も発表され、お祝いムードで盛り上がっている。
顔合わせをしたのは数日前だが、私を通してやりとりしていた2人は、ぎこちなさもなく、昔からの知り合いのように会話をしている。
うん、上手くいきそうで良かった。
マリアンナ様をエスコートしているエル兄様達と合流した。
「ここまで大きな夜会は本当に久しぶりだわ」
夜会やパーティーに慣れていると思われるマリアンナ様だが、まだ慣れない我が国で迷子にならないようにするためか、エル兄様の腕を離さずぴったりとくっついている姿が可愛い。
今日は食事のラインナップも豪華らしい。食事を楽しめるようにテーブル席も用意されているが、誰も使用している人はいないので、料理を盛った皿を持って着席することにした。
質素倹約な生活だったので、こんなにたくさんのお肉を無料で食べられる幸せを感じている。
「おいしい」
「あむ、ん、うまいな」
エル兄様と私は、はしたなくない程度にもぐもぐと食べ進める。
「はは。菓子だけでじゃなく、何でも食べっぷりがいいんだな」
アンジェ様とイライアス様が皿を持ってこちらにやってきた。
皆で祝辞を述べてから、ありがとうと笑顔で返事をしたお2人も着席し、短い時間だが楽しい時間を過ごした。
「そろそろまた挨拶に行きましょうか」
「そうだな。いい息抜きになった」
お祝いされる方も大変ね。
「あ、エミリアーナ。ベリーの菓子を持ってきたから、ほら」
いつもの調子で、イライアス様が私の口に菓子を放り込む。
「あむ、もぐもぐ。久しぶりだわ!おいしい!」
イーブンでしか食べられない菓子に顔がにやける。
「「 は? 」」
エル兄様とメイが低い声を発して反応して、
「まぁ!」
と言った後、マリアンナ様は「うらやましいわ」とつぶやいていた。
アンジェ様が
「ふふ。エルウィン、メイナード、この2人はいつものことよ。マリアンナ様もエルウィンにしてもらうといいわ」
メイが
「イライアス様、これからは婚約者にだけでお願いします」
エル兄様は
「その通りだ。ったく、うちの妹に何餌付けしてるんですか」
マリアンナ様は期待で目をキラキラさせながら、エル兄様を見つめている。熱い視線を受けたエル兄様は、
「・・・人前ではさすがにムリ」
「じゃ、2人の時に期待しておりますわ!」
「ぐっ・・・」
エル兄様とマリアンナ様のやりとりを皆で笑っていた時、長兄がご令嬢を連れて、こちらに来た。
笑いがピタリと止まり雰囲気が変わる。
「アンジェリア王女殿下、イライアス王太子殿下。この度はご婚約おめでとうございます」
「おめでとうございます」
礼をした長兄とご令嬢に、アンジェ様とイライアス様はありがとうと返事をしてから、
「あなたもそちらのシャーン伯爵令嬢と婚約されたと聞いたわ。おめでとう」
へぇ。公爵にはなれなかったと聞いていたが、我が家に帰って来なかったのはそういうことだったのね。私達と暮らすことがイヤで、伯爵家に転がりこんだのかしら。
「「 ありがとうございます 」」
アンジェ様とイライアス様は他にも挨拶に行くので失礼と立ち去ったが、長兄達はまだいる。私達に用があるのかしら?
しばらく皆で沈黙していたが、長兄が私の顔を見て、
「王太子殿下とずいぶん仲がいいんだな」
「・・・あちらに滞在中、お世話になってました」
あなたは同じ王族だからと勘違いして、最初から対等な関係を築こうとして失敗したのよね。大人達の対応で、どうにか不敬罪にならず済んだが、それ以降成人するまでイーブンの王宮に立ち入る事は禁止させられたんだっけ。
っていうか、マリアンナ様に挨拶しなさいよ!カーブンの王女殿下よ?さすがに知ってるはずよね?
ローレンス伯父様は4人全員に同じ国を巡らせ、同じ人達に挨拶をさせたと言ってたもの。
私は内心焦っていたが、次はエル兄様に向かって、
「お前はそこの王女と結婚するのか?」
はあ?何なの?その言い草は?
マリアンナ様は顔色を変えず、澄ました表情のままだ。マリアンナ様の護衛がこちらに近づいてきたのをマリアンナ様は視線で制止させた。
え?来てもらった方がよくない?
この長兄、ハラハラさせられるし、ちょっと危ないわ。
「兄上、カーブンの王女殿下に挨拶もなく無礼です」
エル兄様が立ち上がり、マリアンナ様を背に庇い長兄と対面した。
「ふん、前に王宮でお前達が茶会をしているのを見た。こちらの言葉を全く使わずに会話をしていたのだから、王女はアーブン語を理解できていないんだろう?」
あんたと一緒にするなぁ!
しかも考えが安易すぎだぁ!
あの時は私達の練習の為よ。使わないと忘れてしまうから、カーブン語縛りで会話をしていたのよ!
うっかりアーブン語が出てしまったら、罰ゲームがあったから、とても緊張感があったわ。
「王女殿下はアーブン語を理解しています。あの時は俺達が復習の為に、カーブン語で会話をしていました」
「カーブン国第3王女、マリアンナと申します。どうぞよしなにお願いいたしますわ」
エル兄様の横に立ち、見事なカーテシーをしたマリアンナ様。
長兄は顔色を悪くし、慌てて挨拶をした後、隣のご令嬢を紹介した。
「それに、マリアンナ王女殿下とは仲良くさせてもらっていますが、それだけです」
エル兄様がお友達を強調すれば、マリアンナ様は、
「ふふ。私がエルウィンを口説く為に、留学を理由にこちらに来ましたのよ。イライアス様はエミリアーナを逃したらしいけど、私は問題を解決してしっかり捕まえるつもりよ」
綺麗なアーブン語で話すマリアンナ様に驚いたのか、しばらく黙っていた長兄だが、エル兄様と私の顔を交互に見ているうちに、次第に顔を歪め、怒りで顔を赤く染め、吐き出すように一気にまくし立てた。
「子爵で満足しているような2人にどうして王族が近づく?こちらは1度も誘われた事がない。私は養子になって、王族らしくアーブンを名乗る予定が、屋敷を追い出され、伯爵家に婿入りだ。なぜお前達ごときがちやほやされてる?妹を守るナイト気取りの男と、誘拐されたキズモノの女だぞ?おかしいだろ?ふざけるな!」
エル兄様に掴みかかろうとした長兄を、婚約者の伯爵令嬢が「エイドリアン様、ダメ!」と抱きついて止めようとしたが、怒りが爆発中の長兄に思い切り振り払われ、ドンっと床に転がされた。テーブルにあった食器やグラスも長兄の手に触れたのか、割れる音がした。
エル兄様が長兄をすんなり押さえつけ拘束し、私とマリアンナ様は令嬢に駆け寄る。令嬢は気絶していて、食べ物でドレスは汚れ、グラスの破片で切り傷があり、血が流れている。マリアンナ様の護衛が、意識のない彼女を抱き上げ、別室に運ぶ姿を長兄は驚いた様子で目を見開いて見た後、彼女を追いかけようとしたがエル兄様に拘束されているため、身動きが取れない。
「離せっ! ナターシャっ! ナターシャっ!」
長兄の悲痛な声が響くが、お前がしたことだぞっ!?




