10
エル兄様と並んで座り、カチコチのお父様と対面する。
「ふ、ふたりとも見ない間に成長したな」
エルウィン
コソコソ覗きに来てたよな? イーブンにまで来てたぞ?
エミリアーナ
コソコソが毎度バレるお父様は全く成長してないわ。
「君たちがいない間に屋敷の使用人は一掃してきちんと働く者を厳選したから、これからは快適になるはずだ」
エルウィン
今までの使用人に泣きつかれ、追い出すのに時間がかかったと聞いたけど?
エミリアーナ
お父様が面接し、採用しようとした者のほとんどは伯父様達に却下された聞いたけど?
「エイドリアンとエーメリーはここに帰ってくることはない。これからは3人でのんびりと仲良く暮らしたい、今までの時間を取り戻そう」
「「・・・・・・・・・・・・・はぁ??」」
思わず、エル兄様とハモって声が出る。
「え? うん? ん?」
どうした?って顔でエル兄様と私を交互に見て、オロオロするお父様。
「「・・・・・。」」
エル兄様を見上げると、苦笑したエル兄様は私の頭をなでた後、任せろって顔をしてからお父様に対し、
「この1年、仕事をほったらかして俺達の周辺をコソコソしてたのだから、きちんと仕事に打ちこんだ方がいいと思う。伯父上達に借金をしたのも聞いてるし、ちゃんと返済してよ。この1年で本当に世話になったし、これからもまだまだ教えてもらいたいこともたくさんあるのに申し訳なくて頼れなくなるし、なにより恥ずかしい。俺とエミリアーナが翻訳して稼ぐし、エミリアーナは刺繍で稼ぐ事もできる。俺が手があいてる時は父上の商会を手伝う。3人でのんびり暮らすなんてできる状態じゃないでしょ?」
「・・・うっ」
コソコソついて回るなら、その時から話しかけてくればよかったのに、その勇気もないお父様が、明日から仲良くなんてできないでしょうに・・・。
それに借金にも驚いた。商会の従業員も嘆いていたし、この屋敷の使用人もとても少ない。お父様が仕事が手につかず、私達4人をつけ回してたのと、長兄と姉が散財した分を伯父様達が立て替えてくれていたらしい。特に姉は何十着もドレスを購入したらしい。
「俺は父上が嫌いなわけじゃない。ただ呆れているだけ。エミリアーナは知らんけど」
あれま、私も何か言う流れ?
「・・・私も嫌いってほどでもないけど、好きとも思ってません。良好な関係になるかは、これからだと思います。とりあえず、借金の返済をしましょう。勉強の時間もしっかりととりたいので、お父様に負担はかかると思うけど、ちゃんと協力します」
話をしている途中から、お父様のお目々がウルウルとして、今はボタボタ流れ、大号泣。
さすがにちょっとひくわ。
「うっ、本当に立派に育ってくれて・・うぐっ、うれしいよ。僕はジェシカが大好きだった。えぐっ、いなくなって寂しくて、寂しくて。君たちをほっといて本当にごめん。うぐっ、これからはちゃんと働く。君たちの勉強の時間もしっかりととる。だから1日10分でもいいから会話をする時間がほしい・・・お願いだ・・うぐっ」
きっと普通の親子なら会話をする時間がほしいなんて言わなくても、同じ屋敷にいれば会話をするだろうけど、我が家のお父様は本当にたまにしか帰ってこなくて、帰ってきた時は長兄と姉がお父様から離れない状態だったから、エル兄様と私は顔をみるだけだった。
いつもエル兄様が手を握ってくれたり、抱きしめてくれたけど、それだけでは寂しいと思う時もあったし、長兄と姉がうらやましかった。これからはお父様からもお母様の話を聞きたいと思うし、お墓参りも一緒に行きたいな・・・。エル兄様と2人だけでは庭の花を摘む事も許されなかったし、花屋で花を買うお金も当然なかった。
そんな事を考えてたら涙がポロリと零れた。慌てて指で拭うと、気づいたエル兄様が抱きしめてくれた。
鼻をすすった音が聞こえて、見上げるとエル兄様の目にも涙が浮かんでいた。そんなエル兄様をみたら、私も涙がポロポロと止まらない状態になった上に、うえーん、うわーんと声まで止まらない。
2人で泣いていたら、お父様が2人ごと抱きしめてきた。そのままで3人で泣いていたら、エル兄様がお父様に抱きついて声を上げて泣き始めた。私も更に声を上げてお父様にしがみついた。
左にエル兄様、右に私を腕に抱いて、時に頭をなでたり、時に背中を優しくぽんぽんと叩いたりしながら、お父様も大号泣していた。
そんな中、またいつかのように、お父様とは違って私達に全く気づかれず、一部始終を見ていた伯父様達がいた。
「あんなんでもやっぱり父親か・・・」
「2人は我々にはあそこまで感情をださなかった。エルウィンも妹の為にいっぱいいっぱいだったんだろう・・・。
あれ、ローレンスもポロリですか?」
「っ、これをみてこみ上げてくるものはないのか?」
「エーメリーとエミリアーナが声を上げて泣く姿の違いを比較してしまっていた」
「・・・比べるまでもないな。 今日は帰るか」
「・・・そうですね」
出番がなく、少し寂しそうにした伯父たちの姿があった。




