あの時の彼等に起きていたこと。9
「みんな、話があるから集まってくれ!」
オレは屋敷一階のエントランスにいた者達に向かって集合をかける。
「話って……何かあるの隆一さん?」
寄って来るがてらに訊いてきたのは、妻の明美だった。
「ああ、じつは今後の展開についてなんだが……ネイ=サン。説明を頼めるかな?」
「任せて」
得意気に一歩前へ踏み出るネイは深く、多少大袈裟に深呼吸をしてから話を始める。
「まずは最初に話すことけど……アナタ達がこの世界へ転移したのは、アタシの実験が原因なるわ」
「何ですって!?」
声をあげたのは、意外にも春野さんだ。
「……実験の目的は、賢者の石という道具を使ってアナタ達の世界とこちら世界の二つを繋げ、そちらの世界に迷いこんでいたアタシの弟を元の世界であるこちらへ転移させること……これが全てだったわ」
「賢者の石、二つの世界を繋げる……それに弟? 一体何を言ってるの?」
「何って、そのまんまの意味よ。アタシは二つの世界を繋げて弟を取り戻そうとしてた。だけど実験をした際、想定外の事態が起きたせいで失敗に終わったの」
「失敗? それで私達がこの世界へ転移させられたと?」
「信じられないでしょうけど、その通りよ」
「……なっ!?」
青ざめてフラつく春野さん。それを見て娘の香さんが心配そうに寄り添う。
「話……続けても?」
伺いを立てるようにオレへ目配せをするネイ。「そうしてくれ」とばかりに無言で頷いて見せると、彼女は再び開口する。
「実験の失敗により、関係ないアナタ達を捲き込んでしまった事実はアタシの不手際の結果。だから、その責任を取るために何としてもアナタ達を元の世界へ帰すつもりでいるわ」
「元の世界に……帰れるんですか!?」
春野さんに代わり、娘の香さんが反応する。
「……帰れるわよ。ただし、そのためには色々と協力をしてもらう必要があるわ」
「協力……」
不安そうな表情を見せる香さん。するとそこに……
「あの、ちょっといいですか?」
オレ以外の唯一の男性である彼が話へ参入。
「キド=ススムね。どうぞ」
「その協力についてだけど……オレ達転移者は、この世界においては何も知らない赤ん坊同然の人間ですよね? そんなんでやれるものなんですか?」
もっともな意見。だが、これに関しては事前の打合せで方針が決まっている。
「その点なら心配ないわ。アナタ達が上手くやれるよう、アタシがこの世界についてのことを教えるわ」
「ネイさんが教える?」
「不安なの?」
「あ、いえ……その……」
「指導の方なら安心していいわよ。つい最近までは、街の色んな人を相手に読み書き計算等を教えていたから」
「は、はぁ……」
「あと、予定では半年を目処にある程度のことは学んでもらうつもりでいるから、そこはがんばって勉強してちょうだいね♪」
「べ、勉強……わ、わかりました」
笑顔のネイに対し、表情を曇らせる城戸君。どうやら勉強と聞いて不安になっているみたいだな。
「――――それじゃあ、取り敢えずの方向性が固まったところで……リュウイチ? あと一人紹介したい人がいるんだけどいいかな?」
「それはかまわないが、誰を紹介するんだ?」
「アタシの親友よ。ススムとカオリはもう知ってるわ」
言われた城戸君はハッとした顔で言う。
「それって……バーバラさんのことですか?」
「ええそうよ。彼女にもこの件は手伝ってもらう手筈になってるの」
手伝いか……確かにネイ一人だけだと、オレのたちのサポートは手に余りそうだからな。
「少し待ってて、すぐに呼んで……てっ、あら?」
呼ぶに行く間もなく、屋敷の玄関がガチャリと開く。
「あ~疲れた。悪いけど、誰か熱いお茶を一杯入れて……って、もしかして増えてる?」
首を傾げながら現れたのは、勝ち気そうな赤髪の少女。
「彼女はバーバラ。さっき話した通りアタシの親友で、騎士団の団長を務める者よ」
「騎士団って……こんな少女が!?」
ネイの紹介により得られた新たな情報に驚いていたら、何とその情報元である彼女がオレへ近づく。
「はじめまして、この世界の住人じゃない方々。私はバーバラ=ルドー。アナタ達が元の世界へ帰る手助けをする者よ」
自己紹介されたので、当然こちらも応じる。
「こちらこそはじめまして。オレは転移者の導 隆一……っで、そこに立っているのが……」
ついでに近くにいた妻を紹介しようするが、それをやる前に本人自らがオレの側に寄り添って口を開く。
「こんにちはバーバラさん。私はこの人の妻、導 明美。よろしくね」
「ええ、こちらこそよろしく」
和やかな雰囲気で挨拶を交わすなか、さらにもう一人の人物が会話に加わる。
「私も娘がお世話になったみたいですね」
「娘……もしかして?」
「ハイ。香の母、はるの……コホッ!」
タイミング悪く咳が出た彼女は、改めて自身の紹介をやり直す。
「失礼……私は香の母、春野 葉子になります」
再度の自己紹介が無事に終わり、バーバラも笑顔で応える。
「よし、どうやらこれで互いの顔と名前が一致したようだな」
オレは今後への足がかりが確保できて安堵する。しかし、同時に不安もあった。
これから先、オレが……いや、オレ以外の転移者が真実を知った時……オレはそれを考えると堪らなく不安なる。
そう、“二度と元の世界へ帰れない”という真実を……




