あの時の彼等に起きていたこと。3
「しかし、子供達を探すとしても、一体どこを探せばいいんだ?」
そもそもこの世界についてはオレ達は何も知らない。よって、子供が立ち入りそうなコンビニやゲーセンみたいなものがあるのかも当然わからないし、あってもその場所がわからない。
さらにあの青い服の集団……彼等ともし鉢合わせにでもなったら、かなり危険なことになりかねない。
何て色々と模索していると、ふとある案が思い浮かぶ。
「なぁ二人共。一旦、最初の集落に戻ってみないか?」
これに真っ先に反応したのは明美だった。
「またあそこに戻るの!? 隆一さん、そこで何があったのかを忘れたの!?」
「忘れてはないさ。けどな、今のオレ達は元より、あの場にいた転移者全員が……あっ、転移者ってのは、オレ達みたいにこの世界へやって来た人達の便宜上の呼び方な?」
「う、うん。それはいいとして……集落に戻るっていうのは本気なの?」
「ああ。あそこはオレ達転移者全員が共通して認識している唯一無二の場所になる。だから、様子を窺うために戻る人がいても不思議じゃない……となればだ。そういう者達の中に輝道や香さんがいる可能性も十分に考えられるだろ?」
「う~ん、言われてみたらそんな気もするけど……」
明美が悩んでいると、その隣から春野さんが参加。
「私は旦那さんの意見に賛成です。確かにあの場所は皆さんが知っている場所ですから」
「葉子さん……そうね、わかったわ。でも、行動する時は三人一緒よ。でないと、はぐれて離れ離れにでもなったら子供達を探すどころじゃなくなるから」
「ええ、それは同感です」
ということで、オレ達は再びあの集落へ戻ることになった。
「――――さて、どうにかここまでたどり着いたが……準備の方は大丈夫?」
集落から少し離れた物陰に隠れて緊迫するなか、後ろに控える女性二人へ静かに訊ねる。
「ええ、問題ないわよ」
「私も導さんと同じで、問題ありません」
「そうか。なら、ここからは慎重に……」
話を進めようとしてたその時、明美が急に何かを思いついたみたいに春野さんへ話しかける。
「ちょっといい?」
「ハ、ハイ! 何でしょうか導さん!?」
話しかけられた春野さんは、少し驚いた様子だ。
「その……葉子が今言った“導さん”だけど、できれば私のことは名前で呼んでくれない?」
「名前で? いいんですか?」
「もちろん。これから一緒に行動を続けるっていうのに、いつまでも他人行儀だと少し煩わしいでしょ? それに、いざっていう時にはその方が効率が良いじゃない」
「なるほど。それもそうですね」
「決まりね。じゃあ改めてよろしく!」
「ハイ。こちらこそよろしくお願いします。明美さん!」
「フフフ、呼び捨てでかまわないわよ葉子」
「なら、こっちもそれで。明美」
暗い雰囲気のなかで花咲くガールズトーク。オレも彼女達にあやかろうと思い……
「あの~春野さん。ついでにオレの方も名前で呼んでもらって……」
「いえ、さすがに既婚者の男性と親しげに名前で呼び合うのは抵抗があります!」
「え?」
腕でバツの字を作られて拒否される様を見て、明美も同調して続く。
「確かに見る人が見たら、如何しい関係だと疑いかねないわね」
この妻からのまさかの言葉には、当然の如く反論!
「オイオイ、何だよその如何わしいってのは? オレは別に彼女とそんな関係になりたくて……」
「そんな関係ですって!? 聞いた葉子? この人ったら、妻である私というものがありながら、アナタとそんな関係になるのを想像してるらしいわよ!」
「そんなの困ります! 私に言わせれば、導さんは……その……戦力外というか……」
「あ、あの、春野さん? 戦力外というのはひどくありません?」
「では、戦力内ならどうなさるつもりで?」
「あ、いや、それは……」
他所様の奥さんからキョトンとした顔をされて、しどろもどろになっていると?
「冗談ですよ。導さんは立派に戦力内だから安心してください」
「あ、いや、逆にそう言われたら、それはそれで困るんですけど……なぁ、明美はどう思う?」
訊ねられた本人は呆れた表情で答える。
「いいんじゃないの? 別に戦力外でも戦力内でも」
「ちょ! そんな言い方は……」
「私は信用してるから」
「へっ?」
「だから、ちゃんと信用してるって言ってるじゃない。それとも何? アナタには私がアナタを信用できないだけの理由があるとでも?」
明美がオレを信用できない理由だって? そんなものは……
「そんな理由がある訳ないだろ! オレはお前が信用するに値する男だ! 何故なら、オレはお前のことを愛してるし、お前もオレのことを世界一に愛して……って、どうしたんだ?」
妻への想いを熱く語っていると、いつの間にか妻本人である明美が自分の顔を両手で覆い隠していることに気づく。
「……ごめん。恥ずかしいから、もうやめて!」
なるほど……どうやら自分から振った話の流れに途中で気づいた照れたのか。まったく、耳まで赤く染めて……なんてやり取りを一部始終黙って眺めていた春野さん。彼女は深いタメ息を吐いてから開口する。
「ふぅ……あのですね御二人共。今は状況が状況なんですから、そういう仲良しこよしは後回しにして、そろそろ行動しませんか?」
呆れたかのような口調で言われて「ハッ!」としたオレと明美。ようやく本来の目的を思い出すと……
「よ、よし! それではさっそく集落へ向かうぞ!!」
「そ、そうよ! がんばって子供達を見つけるのよ!!」
取り繕うみたいに行動開始を宣言するのであった。
尚、春野さんからは生暖かい目を向けられっぱなしなのには気づいたが、そこは敢えて知らないふりで押し通すことに……っていうか、そうするしかない。色々とリアクションが取りづらいし……ね?




