時間稼ぎ
「待ちな! ここから先は簡単には通さねぇぜ!!」
舞台上から逃走する春野さんを助けるため、ワイマンさんを含めた四人の騎士相手に立ちはだかるキド。その険しい表情からは相当以上の覚悟がみてとれていた。
「けっ、通さねぇって言うなら無理矢理に通るまでだ。そうだろな野郎共!?」
「「おおおーーーー!!」」
一方、すぐに彼女を追いかけたい側のワイマンさんは、仲間の騎士達に発破をかけて士気を上げる。
「調子にのりやがって、ギタギタにしてやるぜ!!」
「おお! さっさと片付けちまえ!」
「そうだそうだ。早く終わらせて“暴れ馬”にしけ込もうぜ!」
……それにしても柄悪いなこの騎士達。
だが、どんなに柄が悪くても彼等は騎士。颯爽と剣を抜くと、目の前に立つ一人の“敵”に向かって容赦なく一斉に襲いかかる!
「「でゃあああああーーーー!!」」
四方向からの同時攻撃。しかし、これに対するキドは怯むことなく凄まじい連続蹴りで彼等を次々に返り討ちにする!
「ぐぼっ!」
「ぎゃ!」
「ごはっ!」
「どはぁ!」
それぞれが腹や顔を蹴られて床に転がる騎士達。そこへ追い討ちとばかりの挑発が続く!
「どうした、どうしたぁ!? お前達の実力はそんなものか!?」
巧みにワイマンさん達を翻弄するキド。春野さんが逃走する時間を稼ぐがために奮闘してるが、裏返せば彼自身が逃走する機会を狭めることにも繋がる。
そして、それがみて取れる大男は神妙な面持ちで言う。
「キド……やったか? このままやとアイツ、確実にワイマンはん達にやられるで」
「やられるって……キドが負けるってことですか?」
「せや。今はまだ体力があるから大丈夫やろうけど、相手は剣を持った騎士四人や。このままいけばいずれはバテて、やられてまうのが目に見えとる」
的確な意見だ。そして、それは戦っている本人達が一番わかっているらしく……
「何だ? 騎士達がキドの周囲を囲み始めたぞ?」
「あれは……仕留める気やな」
「仕留めるって……まさか!?」
「殺す……かまでは知らんが、それなりの傷は負わせるつもりやろな」
「なっ!」
それじゃキドが倒された後は春野さんが……!!
「ダ、ダメだ……そんなことをやらせては!!」
とはいっても、あの多勢に無勢の状況ではそうなるのは時間の問題。
「くっ、ならばどうする!?」
自身の行動をどう選択すればいいのかと頭を抱えていると、不意に入学式の時に見せた彼女のはにかんだ笑顔が思い浮かんだ。
「そうか……彼女は……よし!」
腹を決めたオレは大男に声をかける。
「頼みがあります!」
「な、なんや、あんちゃん? いきなりそないな顔で?」
オレがどんな顔をしてるかについては、この際どうでもいい。ただ、今やるべきことは……
「春野さんが遠くへ逃げるための時間。オレ達で稼ぎませんか?」
「なんやて!? あんちゃん、それがどないな意味かわかって……モガァ!」
「声が大きい!」
オレは慌てて大男の口を塞ぐと、考えてることそのまま伝える。
「いいですか? キドが倒れたら、騎士団は間違いなく春野さんを追いかけます!」
「そ、そりゃそうなるわな……」
「だから、彼女が安全に逃げ切るためには、少しでもキドに粘ってもらって時間を稼ぐ必要がありますから……」
「ありますから……次、なんや? なんぞ悪い予感はするが?」
たぶん、悪い予感は当たってる。
「オレ達が直接キドと戦い、わざと騎士達の邪魔になって春野さんが遠くへ逃げる時間を稼ぐんです!!」
「はぁ!? そないバカみたいなことが……」
「バカなことでも何でも、彼女を救うにはこれしか方法ないんだから言うことを聞け! アンタ、春野 香に惚れてんだろ!!」
「!!!」
このセリフに大男は一瞬固まってから……
「あ、あんちゃんの言う通りや。ワシはカオリはんに惚れてる……ああ、間違いなく惚れてるで!!」
目の色を変えて覚悟を決めた!
――――その後オレ達は戦いを観察しつつ機会を窺い、彼等の距離が離れた一瞬の隙間を見計らって……
「今です!大男さん!!」
「おう! やったるで!!」
「「うおおおおおおおおおーーーーーー!!!」」
二人揃って一気にキドへ向かって突進を開始する!
「なっ、ボウズ! 何をする気だ!?」
「そんなの決まってるじゃないですか! オレ達も加勢するんですよ!」
「せやでワイマンはん! ワシ等の一世一代の晴れ舞台を見たってや!!」
口から出任せを吐くオレ達は、思い思いのやり方で騎士団の邪魔になる形でキドへ組み付く!
「ちっ、何で今さらお前達が……」
相手は鬱陶しく抵抗するが、ここでどうにか耳打ちを行う。
「そのまま抵抗するふりをするんだ! オレ達がお前にくっついてる限りは、騎士団は手出しできないからな!」
「せやで。それにその方がカオリはんが遠くへ逃げられるやろ!?」
「カオリ? お前等がどうして!?」
「そ、そんなもん、彼女に惚れてるからに決まっとるやろ! あんちゃんは!?」
「オ、オレは……彼女を助けたいだけだ!」
「助けたい……だと?」
この時、キドの抵抗する力が僅かに弱まる。
「そうさ!彼女はオレと同じ世界の人間。それに……」
「それに?」
「クラスメートだ!」
「クラスメート……ハハハ、この期に及んでそんなことを言うヤツがいるとはな……」
キドは穏やかな口調で話す。
「なぁ、導 輝道? 正直、オレはお前が憎い。だが、それでも香のために行動を起こしてくれたことは素直に感謝したい」
「え?」
「ありがとう」
そう伝えられた直後、オレと大男を思い切り突き飛ばされる!
「オ、オイ!」
「フッ、時間なら十分に稼がせてもらったさ。それに……ここらが潮時なんでな」
「キド……」
「城戸 進だ」
「え?」
「オレの名前だ。別に覚えなくてもいいぞ」
そう名乗った直後、城戸は懐から缶コーヒーくらいある筒状の何かを取り出す。
「……宴もたけなわだ。ここは潔く幕を下ろさせてもらおうか?」
言い終わった城戸は筒から何かを引き抜く!
「なっ……まずい!みんな伏せろぉぉぉーーーー!!」
ドオオオオォォォォーーーーーンンン!!!
ワイマンさんが危険を知らせると同時に弾ける爆音と閃光。気がつけば、辺り一帯が白い煙によって覆われていた。
「くそ、爆弾かと思ったらただの煙幕かよ……」
近くから聞こえる腹立たしさがこもる騎士の声。どうやら、城戸はこの場から逃げ仰せたらしい。
「ふぅ、どうやら上手くいったみたいですね」
「せやな。これでカオリはんも安心なはずや」
オレと大男は自分達の行動に満足すると、誰にも見られぬようひっそりと拳をぶつけ合って健闘を称え合うのだった。




