渇きの森
森、森林、原生林……視界に広がる景色には様々な言い方があるが、とにかく全部が緑色だった。
「これ……本当に現実なんだろな?」
唐突過ぎる状況下だが、今は受け入れるしかないのが現状みたいだ。
「と、とにかく、ここは冷静になるためも一度家に戻って……え?」
振り返ると、さっきまであった家はそこにはなかった。
「な、なんだよこれ……」
どうしようもない状況に心が折れかけるも、落ち込んでいる余裕はない。なので改めて周りを見て状況を確かめる。
「進むしかないみたいだな、この森を……」
明らかに困難と思われる道なき道。だけど、それ以外の選択がないのは明白は事実だった。
――――歩き始めて数時間が経過した頃だ。ここで重大な問題が発生する。それは……
「暑い!」
熱帯地なのかは知らないが、とにかくこの森は異常に蒸し暑い。しかも、急激な状況変化による緊張感と疲労感も重なるせいか想定していた以上に喉が渇き、早くも二本あった五〇〇mlのペットボトル一本を飲み尽くそうとしている始末。
「くそ、こんなのが長く続いたらどうなるかわからないぞ!」
危機感を持ちながらも、さらに数時間歩き続けていると?
「それにしても暑いな……」
ますます苦しくなる状況に翻弄され、既に二本目のペットボトルに手をつけ始める。
「これは……川でも見つけて水を補給しないとマジに危ないな」
そんな焦りを抱くオレの危険信号は、黄色を灯していた。
――――日没、結局は何もないままに日は沈んでいく。
「ど、どうやら今日はここまでみたいだな」
半日以上歩きぱなしで疲労困憊のオレは、リュックを枕代わりにしてそのまま地面へ寝っ転がる。
「……疲れた」
本来ならば絶対にこんな場所では寝ようとは思わない。でも、この時ばかりは疲労も手伝って何の抵抗もなく素直に横になれた。
――――翌朝。夜明け前に目が覚める。
「イタタ……やっぱりこんな場所で寝るもんじゃないな」
地面の固さからくる痛みに苦しまながらも、オレはどうにか身体を起こす。
「さてと……飯を食ったら、さっそく出発だな」
リュックに入っていたゼリーを胃に流し込むと、昨日と大して代わり映えしない緑の世界を進み始める。
「はぁ、はぁ……相変わらず暑いな。ここは一度水分を……いや、まだダメだ!」
水を飲もうと思ったが、今は節約と思い我慢する。
――――数時間後。真上から照らされる太陽のせいで気温はますます上昇していく。
「限界だな……水分を補給するか……」
リュックから取り出してペットボトルのフタを開ける。たったこれだけの動作なのにひどく負担に感じてしまうのは、それだけ消耗してる証拠だろう。
震える手で水を一口飲み、一息つく。
「ふぅ、いつまでもこんな――――ハッ!?」
何だ!? 今一瞬、目の前が白く……え、地面が目の前? 倒れたのかオレは!?
「は、早く立たないと……なっ!? 」
身体を起こそうとした瞬間、視界には絶望的な光景が飛び込む!!
「う、嘘だろ……?」
何と、水が入っていたはずのペットボトルが地面に倒れていたのだ!
「まさか、意識を失った時に……」
急いで拾い上げて中身を確認。しかし、不運にもフタを開けっ放しだったので残っていた水は一口分にも満たない量を残すのみ。
「そんな……」
愕然とするオレの危険信号は、完全なる赤へと変わる。
「ハ、ハハハ……何だよ……まったく、笑えないジョークってヤツだな……くそっ!!」
あまりの腹立たしさと不甲斐なさに、足元にあった石を思い切り蹴り飛ばす!
「くそっ!」
こんなことをしても無駄だとはわかっている。でも、それでも何かに当たりたいオレは、取り憑かれたが如く視界に入る石を次々に蹴り飛ばしていく!!
「くそっ!」
「くそっ!」
「くそっ!」
ポチャン!
「くそっ!」
「く……?」
……今、途中で何か聞こえなかったか?
石が飛んでいった方向を頼りに、その“何か”の正体を探す。
「たしか、音はこの向こうからだったはず……」
邪魔になる茂みを掻き分けた次の瞬間、オレは神の存在を心から信じた。
何故なら、そこには透き通った水が悠々と流れる……
「川だぁぁぁーーーー!! 水だ!水!!」
まずは問答無用で勢いよく頭を突っ込み、これでもかっと水をガブ飲みする。
「ごくごくごぼごぼ……がはぁ!」
呼吸の概念を忘れて飲み続けたせいで危うく溺れかけるも、どうにか息を吹き返す!
「はぁ、はぁ……助かった」
気持ちが落ち着いたオレは何気に周囲を見回して辺りの状況を確かめる。すると、川沿いの二〇メートルくらい先に白い何かが目に入った。
「何だアレは?」
正体を確かめるため、ゆっくり近づいてみると……
「人間!?」
そこには、白いマントを羽織った若い黒髪の女性が倒れているではないか!
「この人は一体……いや、それ以前に……消えていないのか!?」
念のために、目を擦ってもう一度確かめる。
「間違いない!この人は確実にここにいる!」
だけど、どうしてこんな場所に倒れていたんだ?
突然の出来事で困惑するオレは、今後の展開について考えあぐねたいた。