事件発生
ネイさんからの許しをもらい、胸を躍らせるオレは地下にある研究室へ繋がる入口の蓋を開く。するとそこには、地下へ降りるために使う三メートルくらいの梯子があった。
「よし、ではさっそく……」
梯子に足をかけて降りようとした時、不意にネイさんが“暑さ”について懸念していたことを思い出た。よって、その対策として蓋は開けっ放しの状態のままにしておくことにする。
「――――へぇ、これはすごいな……」
降りて到着した研究室は上の部屋と同じくらいの広さがあり、中央に設置された畳一枚分の広さがある木製机の上には、つい先程まで何らかの実験を行っていたことを窺わせるたくさんの器具が乱雑に放置されたままになっていた。
また壁側には幾つかの陳列棚が並び、その中には何に使うかわからない道具や鉱物の破片らしきものがところ狭しと並べられてる。
「これが錬金術師とやらの研究室か……まるで学校の理科室みたいだな」
なんて感心しながら見回してると……ガタッ!
「ん、何だ?」
ガタッ! ゴト!
「上の方で何かやってるのかな?」
取り敢えずは戻って確めようと思って梯子に手をかけるが?
「あれ? 入口の蓋が閉まってる?」
見上げた先には、降りる時に開けっ放しにしていた蓋がなぜか閉じられていた。
「何かの拍子に閉まったのかな?」
なんてことを頭に過らせながら梯子を上り、外に出るために蓋を開け……あれ?
「開かない? まさか、ネイさんがさっきの仕返しにと押さえて……いや、彼女もいい大人だからさすがにそれはないだろう」
けど、そうなると疑われるのは蓋そのものの不具合か? だとしたら少し強引に……ん?
「何だ? 何かが微かに聞こえて……」
オレは梯子に捕まったまま、耳を澄ませる。すると?
「……ミチ……イが……さらわ……た」
聞き取り辛いが、バーバラさんの声だということはわかる。
「あの、バーバラさん。上で何が……?」
「テルミチ……ネイが拐われた……」
「なっ、ネイさんが拐われた!?」
予想もしてない衝撃の事実を告げられ、オレは閉じられた蓋を叩きつつ訊ねる!
「バーバラさん!何があったんですか!? バーバラさぁぁーーーーん!!」
「…………」
「くっ、ダメだ! これは彼女の身にも何かあったのか!?」
もはや、のんびりしてる猶予はまったくない。そう判断したオレは、必死になって閉ざされた蓋を叩くたのだが……!
「ダメだ!これでは埒があかない。やはり、この蓋を破壊するしか……」
だが、こんな梯子に捕まった不安定な体勢ではそこまでの強い力が出せる訳が……いや、あの方法ならイケるか!?
閃いたオレは、身体を裏返してから後ろ向きになって梯子へ捕まる。次に腹へあらん限りの力を込めて両足を真上に持ち上げる動作……いわゆる高難度の腹筋運動であるドラゴンフラッグの要領で頭上に塞がる蓋を思い切り蹴りつける!
「うおぉぉぉぉぉーーーーーー!!」
バキィィィーーーー!!
蹴られた蓋は見事なまでに粉砕。そして、ようやく待望の出口が見えた!
「よし!!」
――――十数秒後、どうにか元いた部屋へ戻ってこれたオレは肩で大きく息をする。
「はぁ、はぁ……やっと出られた……ぞ」
破壊した蓋の周辺を見ると、部屋にあったガラクタが一緒に散らかっていた。おそらくだが、何者かがこれらを重石の役割にして蓋に細工をしていたに違いない!
「けど、どうしてそこまでして……いや、今はネイさんとバーバラさんだ!!」
息つく間もないままに部屋から飛び出すと、すぐそこの廊下には赤髪の女性が倒れているのを発見する!
「バーバラさん!」
オレはすぐに彼女へ駆け寄ると、慎重に抱き起こしてから呼びかける。
「バーバラさん、しっかり! バーバラさん!!」
「う……テ、テルミチかい?」
よかった、どうにか無事だ!
「そうです!テルミチです!大丈夫ですか!?」
「ああ……でも、やられたわ。まさか騎士団団長であった私がこうも簡単に出し抜かれるなんて……」
俯いて悔やしがる彼女。だが、オレはそんな様子を気の毒いながらも躊躇なく訊ねる!
「スミマセン、バーバラさん。何があったかを話せますか!?」
すると、彼女は唇を噛み締めながらも答える。
「黒いフードよ。ネイは黒いフードのヤツ等に拐われたわ!」
「黒いフード……そいつ等がネイさんを拐ったんですね!?」
オレはすぐにでも追いかけようとするが……
「待ちな、テルミチ!!」
その行動はバーバラさんの一喝によって止められてしまう。
「今から追ってもヤツ等には追いつけやしない。それに、闇雲に動いても時間を無駄にするだけだ!」
彼女が言っていることは正しい。しかし!
「お言葉ですがバーバラさん。ここで何もしなかったら、それこそ時間は無駄になるだけです!!」
「そんなことはわかってる。だから、策を弄するんだ!」
「策ですって!?」
「騎士団に助けを求めにいくわ」
そう答えた彼女は、ゆっくりと立ち上がる。
「バーバラさん……?」
「私なら大丈夫……薬で少し痺れていただけだからね」
「そ、そうですか。でも、なぜ騎士団に助けを?」
この問いに彼女は、手を軽く握ったり開いたりしながら答える。
「騎士団はこの街の治安を司る組織であり、あらゆる情報が集まる場所だからよ」
「なるほど……では、オレも一緒について行きます!」
「それはかまわないけど、私の足についてこれるの?」
かつての騎士団団長であるバーバラさんは、品定めでもするような目でオレを見つめる。
「フッ、見くびらないでください。これでも、けっこう鍛えてますからね!」
実際、中学の部活を引退した後でも毎日の走り込みだけは欠かしたことがない。
「ふ~ん、気遣いは無用って訳だね?」
「もちろんです!」
「よし決まった! じゃあ、さっそく今から向かうよ。騎士団の詰所はレナトスの街中心部にあるから、急げば十五分で着けるはずだよ!」
「了解です!」
こうしてオレ達は、ネイさんを救出するための助力を得るために大至急で騎士団へ向かった!




