正当な報酬
「ダルさーーーん! お掃除終わりましたーーー!」
オレは“噴水”の後始末終了をカウンターにいるダルさんに報告する。
「フフッ、ありがとうテルミチ君。色々やらせてすまなかったね」
「いえいえ、オレも色々と勉強になりましたから」
最後の掃除までは、勉強したくなかったけど。
「そう言ってもらえると助かるよ。それはそうと、キミには何かお礼をしないといけないね」
「お礼? 別にそんな気を遣わなくても……」
「遠慮する必要はないよ。ボクはただ正当な報酬をしたいと思ってるでけなんだからさ」
正当な報酬か。それなら……
「それじゃあ、せっかくだから一つ聞いていいですか?」
「聞きたいこと? ボクでわかることなら何でも答えるよ」
「で、では……」
オレの聞きたいこと。それはズバリ!
「最近になって、この辺りで急に現れた人……もしくは現れた人達をご存知ありませんか?」
「急に現れた人? また妙なことを訊くね」
「そう思われてる自覚はあります。ですが……」
「ああ、キミが真面目に訊いてるのはわかるよ。でも、わるいけど……」
「そう……ですか……」
オレはガッカリと肩を落とす。
「あ、でも……」
「何か知ってるんですか!?」
「あ、いや……急に現れたで思い出したけど、二年くらい前におかしな噂を聞いたことがあったんだよ」
「おかしな噂?」
「うん。確かあれは、レナトスの街から西へかなり離れた場所にある廃集落にて、謎の集団が現れたというものだったかな?」
謎の集団……時期は二年前だけど、少し気になるな。
「テルミチくん?」
「あ、続けてください」
「……何でもその場には男女年齢関係なく様々な人達がいきなり現れたようで、中には揃いの服を別々に着た若い男女も何人かいたらしいんだ」
「揃いの服……それはどういった?」
「さぁ詳しくは……ただ色だけは聞いたよ」
「色?」
「紺色さ。ちょうど今のキミが着ている服と同じだ」
「オレの着ている服と?」
そう言われても、今着ている服は通う予定だったはずの渚崎高校の制服。
「あの、ダルさん。他に何か気になることは……?」
「すまない。二年も前の話だから、さすがにこれ以上は……」
「そう……ですか」
まぁいいか。オレの知りたいことに関係あるかもわからない話だしな。
そうやって、一息ついた時だった!
ガバッ!
「だあぁーーーー!?」
な、何だ? このいきなり背中から伝わるふくよかな感触は!?
「シルベ~! 何してんの~!」
「え? お姉さん!?」
酔っ払っているのか、ネイさんはオレの背中にガッチリとしがみつく!
「ちょ、お姉さん? そんな……うっ、酒臭っ!」
「アハハハ~! シルベ~、もう離さないよ~♪」
「は、離さないって、こっちは別に離れようとも思っては……いやいやいや! やっぱり一度離れて……」
「シルベ~♪ ふぅ~」
「あ、ああ……耳元に当たる甘い吐息が思考を奪っていく~」
そんな妖しい色香によって、酔い潰されそうになっていると?
「コラ、ネイ! いつまでじゃれてるんだい!? シルベが迷惑してるだろ!」
バーバラさんだ。どうやらネイさんの行動をみかねて叱ってくれてるようだった。
「アハハハ、バーバラ怖~い! シルベぇ~助けてよ~!」
だが、酔っ払ったネイさんには梨の礫らしく、結果として余計にしがみついて背中に当たる感触をより明確にする!
「あ、ああ……もういっそこのままでも……」
しかし、そんな怠惰な時間がいつまでも続くわけなく、事態は唐突に終焉を迎える。
「いい加減にしなさい!」
さすがにバーバラさんの怒りが頂点に達したのか、ネイさんは強引にオレの背中から引き剥がされてしまうのだった!
「いやぁ~ん、シルベ~!」
「あ、あの、バーバラさん。できれば穏便に……」
「いいんだよ、酔っ払いにはこれくらい厳しい方が。それに、親友としてこれ以上の醜態は見てられないよ!」
親友……どうやら彼女とネイさんの付き合いは、それなり濃密な様だ。
「さぁネイ、今日はこの辺でお開きにして家に帰るんだ。いいね?」
まるで面倒見が良い姉が聞き分けのない妹へ言い聞かせるように、バーバラさんはネイさんを諭す。
「ハイ! ネイ=サンは帰ります! 自分の家へ帰るであります!」
勇ましく答えてるが、この状態ではまともに歩いて帰れるとも思えないので……
「ほら、お姉さん。オレが家までおぶっていきますよ」
そう告げてから彼女の前に屈み、背中を向ける。
「へへへ、ありがとうシルベ♪」
無邪気な赤い笑顔を浮かべたネイさんが背中に乗っかると、オレは彼女が落ちないようにしっかりと両腕で支える。
「じゃあダルさん。バーバラさん。オレ達はこれで失礼します」
「うん、夜道は暗いから気をつけて帰るんだよ」
「テルミチ、ネイのことをお願いね」
オレは見送る二人へ軽く一礼すると、そのまま暴れ馬をあとにするのだった。
――――帰宅する夜道にて、オレはネイさん自身の重みと背中に当たる感触を感じながら歩を進めていた。
「そういえばダルの噂話。今思えば、あからさまに気になる部分が一つだけあったなぁ」
“揃いの服を別々に着た若い男女”……あの部分だけはどうしてもひっかかった。それと服の色がオレの服と同じ色……ん?
「待てよ? これって……」
一つの結論が出そうになっていると背中から声が?
「う~ん」
「お姉さん?」
「…………」
「寝言? なら、このままでいいや」
安らかな寝息を立てる彼女を起こさぬように気を遣いながら、一歩一歩と進む。
「若い男女、揃いの服、色はオレの服と同じ……ここから連想するとしたら学校の制服で……ハハハ、まさかな。二年も前の話だぞ?」
自らが導き出した答えを“ありえない”と一笑に伏すと、この問題にさっさと蓋してしまうのだった。




