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シルベ=テルミチのチートナシ異世界ライフの物語  作者: なめなめ
第一章 消える世界
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入学式

 オレの名は(しるべ) 輝道(てるみち)。やや細マッチョの十五歳だ。


 さてそんなオレだが、今日は真新しい紺色(こんいろ)の制服に身に(まと)とい、晴れてこの渚崎(なぎささき)高校にて入学式を迎えようとしていた。

 因みに制服は有名なデザイナーが担当しているらしく、それを目当てに入学した者も少なからずいたいう噂だ。


「まぁ、オレには興味ない話なんだけどね」


 っで、肝心の入学式はというと……既に会場である体育館にはオレを含めた初々しい新入生達がクラスごとに分かれた席に座って待ちかねいる状態だ。

 また、保護者側の席にはウチの両親を含めた新入生の親達がやや緊張した面持ちで座っているのが確認できる。


「両親か……そういえば、オレが今ここにいられるのは全てあの人達のおかげなんだよなぁ」


 受験の時、仕事でヘトヘトになりながらも遅くまで勉強に付き合ってくれた父さん。


 毎日毎回、美味しい夜食を作ってサポートしてくれた母さん。


 あの助けが……あの愛情がなかったら、オレは間違なくこの席に座ってなかったはずだ。 


『只今より第四四回渚崎高等学校入学式を開始します!』


 おっ、いよいよ式が始まったな? うっかり居眠りして怒られないように気をつけないとな。


『新入生起立!』


 司会のアナウンスに従い、新入生一同が椅子から立ち上がる。


『学校長による開式の挨拶!』


 言われて壇上に登場したのは、頭頂が薄い初老の校長先生で……


「クション!」


 くしゃみだ。どうやら隣の生徒がやったようだ。


「あ、大丈夫?」


 心配ながらも声をかける相手は、ショートヘアと黒淵メガネが似合う可愛らしい女生徒だった。


「ス、スミマセン。なんか緊張しちゃって……」


 恥ずかそうに謝る彼女。そんな彼女に向かって「お大事にね」と気遣うと……


「ありがとう。あ、私、春野(はるの) (かおり)と言います。その……よ、よろしく……」


 拙い笑顔と喋り方で自分の名前を教えてくれたので、オレも応える。


「オレは導 輝道。お互いに同じクラスだから仲良くしようぜ!」


 笑顔で自己紹介を済まし終わり、再び壇上へ注目する……が?


「アレ? 校長先生の姿がどこにもないぞ?」


 不思議に思っていたら、今度は周りがざわめき始める。


「え、今の何?」

「新入生を祝うパフォーマンスかな?」

「今、消えたよね?」

「校長先生が消えたよね!?」


 次々に聞こえる不可解な話し声からでは、イマイチ要領を得ることが出来ないので、仕方なく隣の彼女へ声をかける。


「ねぇ、春野さん。みんなが何を言って……え?」


 しかし、話すべき彼女の姿はそこになかった。


「こんな時にどこへいったんだ?」


 気になって辺りを見回してると、周囲の違和感に気づき始める。


「あれ? 体育館にいた人数がいつの間にか減って……いや違う! 消えている!? ここにいた人達がどんどん消えてるぞ!!」


 新入生、在校生、教師、保護者と大勢の人々が次から次へと消えていく! まるで消しゴムで消すかのようにスゥ~っとだ!!


「一体、これは……ハッ! もしかして、校長先生や春野さんも!?」


 そう考えてもう一度辺りを見回そうとすると、あちらこちらから悲痛な声や叫びが聞こえてくる!


「うあぁぁぁーーーー!! 人が消えてる!」

「助けてくれ~!」


 会場中のみんなが恐怖でパニックになり、なかには互いの手を握り合っている者や必死に(ひざまず)いて祈っている者さえもいる。


 だが、現実はそんなことは無意味だと嘲笑うかのやうに人は消えていき……


「そうだ! 父さんと母さんは!?」 


 オレは両親の存在を思い出して探し始める。そして……


「母さん!!」


 オレは急いで床にへたり込む母親の元へ駆け寄る!


「母さん!ここは危ないから早く逃げよう!」


 急いで手を引いて立たせようとした時、母さんは(うつ)ろな表情で呟いた。


あの人(父さん)が……」


 これを聞いた瞬間、背中からは大量の汗が吹き出たのを感じた。


「そんな……まさか!?」


 オレは即座に叫ぶ!!


「父さぁぁぁーーーーん!! 父さーーーん、どこにいるの!? 父さぁーーーーん!!」


 ……返事はない。聞こえるのは他人が発する絶望の悲鳴だけだ。


「う、嘘だろ……?」


 自身に広がる嫌な想像をかき消そうとした瞬間だった。


「え?」


 ふいに母さんの手を握っていた感覚が軽くなる。


「まさか……?」


 おそるおそる視線を戻すと……


「いない!いない!!」


 何と、ついさっきまで一緒だった母さんが消えているではないか!!


「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーー!!!」


 心が引き裂かれて目の前が暗くなる――――そして、気がついた時は会場である体育館を離れて全力で走り出していた。


「夢だ、夢だ、夢だ、夢だ、夢だ、夢だ! こんなの夢に決まってる!!」


 ただひたすらに、起きてしまった現実から逃避するが如く……だ。

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