女王がいなくなった国は終わりです
女神様は怒ってます!シリーズの第3段です。
クヴァール国では半年前に女王が亡くなった。
それからまだ半年しか経っていないのに、跡を継いだ王がパーティーを開いた。
本来なら一年は喪に服さなければならないというのに、年に四回ある行事の時ではないのにパーティーを開いたのである。
招かれた貴族たちは下卑た笑いを口元に張り付けながら、王族が登場するのを待っていた。
この国の王には二人の王女と生まれたばかりの王子がいる。そのうち、亡くなった女王との間に王女が一人、側妃だった現王妃との間に王女と王子が生まれた。
が、側妃と言っているが本来なら許される立場ではないということに、気が付いている者はいなかった。
さて、貴族たちの騒めきが大きくなったころ、王族の登場を告げるファンファーレが鳴り響いた。
国王は第二王女の手を引き、王妃は嬰児を抱いている。その後ろから第一王女が入ってきたが、おどおどとした様子に貴族たちから失笑が漏れた。
中央の玉座の前に王が立ち、その隣に第二王女を居させた。隣には嬰児を抱いた王妃。第一王女は玉座があるところより一段下がったところに立たせた。
ちなみに今現在、第一王女は六歳で第二王女は五歳であるが、年の瀬の誕生日を迎えれば第二王女も六歳になる。
……つまり、そういうことである。
居並ぶ貴族の様子に満足そうな顔で頷いた王が口を開いた。
「本日は我の呼びかけによく集まってくれた。さて、皆も知っているように、ひと月前に我に待望の王子が生まれた。これにより、次期王太子を第一王女エバンジェリンより、第一王子のダルタロスへと移行することにした。皆もそう、心得るように」
王の言葉に手を打ち合わせて、歓喜の声を上げようとした貴族たちは、手を打ち合わせる寸前の状態で動きを止めた。突然身動きができなくなり、貴族たちは混乱した。
そこに響き渡る美麗な声。
「良いわけないでしょう!」
突然自身の後ろから聞こえてきた声に、王は後ろを振り向いた。
そこには豪奢な金髪に縁どられた端正な顔を、不機嫌なことを隠そうとせずに歪めて佇む女性がいた。
王は理解できなかった。先ほどまで、そう、自身が玉座に上がるまでそこには誰もいなかったはずで……。
そもそも玉座とは王族のみが上がることを許されているはずの場所では……。
などと考えている王に次の瞬間、信じられないことが起こった。
「お前、何を勝手なことを言っているのかしら? 王になる資格のない分際で! 邪魔よ! どきなさい!」
女性はそう言うとおもむろに右足を上げて ーースリットが入ったスカートから美脚が露わになり、男どもの鼻の下がだらしなく伸びたーー 王を蹴り落とした。
広間にいる人々は目をむいてその様子を見ていたが、先ほどから足どころか、指先でさえ動かすことができずにいる。
女性の視線が王子を抱く王妃と第二王女へと向いた。びくりと体を震わす王妃と王妃に縋りつく第二王女。
「お前たちも、ここにいる資格はないわ。蹴り飛ばされたくなければ、自身の足で降りなさい」
王妃と第二王女は足をもつれさせながら王のそばへと降りて行った。
呆然と第一王女はその様子を見ていたが、はっとした顔をして自分も王妃たちに続こうと階段を降りようとした。
「あら、エバンジェリンは降りる必要はないわよ。それよりもこちらにいらっしゃい」
女性が優しく微笑んでエバンジェリンを手招きした。母が亡くなってから優しくしてくれる人はいなかったので、エバンジェリンは固まってしまった。
「あらあら。驚かせてしまったようね」
目を細めて優しく笑った女性がそう言うと、エバンジェリンの体はふわりと浮かび上がり、女性のそば……いつの間にか現れた玉座より豪奢で座り心地のよさそうな椅子に座った女性の膝の上に収まっていた。
キョトンとした目を女性へと向けるエバンジェリンを、愛しそうに見つめてほほ笑む女性。
「(う~ん、かわいいわ~)ごめんなさいね、エバンジェリン。この半年つらい思いをさせてしまって。でも、もう大丈夫よ。これからはあなたを大切にしてくれる人たちと幸せに暮らすことができるから」
エバンジェリンはそう言われて戸惑った。父である王は、王妃とその子供たちが大事で自分のことをかえり見てくれたことは一度もなかった。それがこれからは自分のことを見てくれるようになるというのだろうか、と考えた。
「貴様、突然現れ、私を蹴(り落しておきながら、何を言っているのだ!) ? !!」
やっと立ち上がった王が女性へと抗議の声を上げたが、なぜか途中から言葉が聞こえなくなってしまった。その王へと冷ややかどころか、冷酷にみえる冷たい目を向けた女性。
「エバンジェリンとの楽しい会話に割り込むなど! お前の声など、聞きとうないわ。しばらく他の者どもと同じに止まって黙っておれ!」
それから女性は睥睨した目で広間を見まわしてから、小さく息を吐きだした。
「やはりこの国はもう駄目ね。初代国王の血筋を大事にするという、私との約束を守れなかったのですもの」
広間にいる人々の顔に浮かぶのは ? マークだろうか。一様に言われたことがわかっていないようである。
「ねえ、エバンジェリン、あなたは私が誰か、わかるかしら?」
「女神様!」
優しい目線をエバンジェリンへと向けた女性は、エバンジェリンの答えに満足そうに微笑んで頷いた。
またも一様に驚愕の表情を浮かべる人々。
その様子を一瞥した女神は、深々と息を吐きだした。
「そうねえ、長引かせるのもなんだし、ちゃちゃっと済ませちゃおうかしら。私は今日でこの国、クヴァール国の加護を終わらせることにしたわ」
にっこりと笑ってそう宣言した女神様。
人々は声は出せないが心の中で様々に罵倒した。
しばらくして不敵な笑みを張り付けた女神が言った。
「お前たち、心の中言っていることが私にわからないと思っているの? 私は女神なのよ。それくらいわかって当然でしょ」
女神の言葉に顔色を悪くする人々。
「まあでも、なんでこの宣言をされたのか分からないようだから、わかるように話してあげるわ。
そうねえ、まずはお前たちも『神書』のことは知っているわよね。
女神である『私』の言葉が書かれた書物よ。
その冒頭に書いてあったと思うけど、この世界は人のために作られた世界ではないということはもちろん覚えているはずよね。
私は人のいない世界としてこの世界を作ったのよ。
それがある時、ほかの神の世界で大変なことが起きて、人や動物を避難させなくていけなくなったの。
でも、ほかの神々の世界で、受け入れできるところがなくて、このままではその世界の生き物は死滅して、一からやり直すしかない状態に陥ったわ。
だから、私は仕方なくこの世界に、受けいれることにしたの。
しばらくしてその世界が落ち着いたので返すことになったのだけど、人の中にこの世界に愛着を持ってくれた人達がいたの。
元の世界に戻らずにこの世界にいたいといわれたわ。
かの神と協議した結果、その者たちはこの世界に残ることになったのよ。
だけどね、この世界って人のために作られてないから、本当に暮らすのは大変なの。
彼らを受け入れた時には彼らに元の世界の神が加護を与えて、人体に悪影響が出ないようにしていたのよ。
残った人々はその世界から切り離されたのだから、勿論加護もなくなったわ。
それでも苦しい思いをしながらも、人々は国を作り開拓を進めていったの。
それだけでなく、私へと信仰心を捧げてくれたのよ。
そうなると、想いに応えないわけにはいかないというものよね。
私は国の指導者と話をして、加護を与えることにしたわ。
彼らが開拓した国に加護を与えることにしたのだけど、国に加護を与えるのって曖昧なのよね。
開拓が進めば国も広がるし、国民も流動的だわ。
だからね、その国を作った国王の血筋に加護を与えることにしたの。
そうすれば、国が広がろうが国民が増えようが、国王が認めたものがその国ということになるじゃない。
ええ、私も無慈悲ではないのよ。頑張っている人々を応援し、守ろうと思ったわ。
だからね、大変な思いをして国を作った王及びその血筋を大切にするようにと、わざわざ神書に明記させたの。
国民にとっても簡単なことでしょう。
ただ、王族を敬い、その血筋を大切にするだけなのですもの。
でも、どこにでも馬鹿はいるものよね。
国が安定しているのを見て、王族になり替わろうとする馬鹿が。
一番わかりやすかったのは、王妃となった者が不貞をして王の血筋ではない者の子供を王の子と偽ることね。
そんな者が王座につくことを『私』が認めるわけなどないのに。
そんなこともわからない馬鹿は、ことごとく国を滅ぼしてしまったわ」
女神はそこまでで言葉を止めた。人々は続きの言葉を待ったが、女神は口を開く様子はなかった。
疑問を口にしたくても、言葉を発することが出来ない……それ以前に身動き一つ出来ない人々は、困惑して立っていることしか出来なかった。
女神は人々のことを無視して、膝の上に乗せたエバンジェリンの髪を手で梳いていた。
「この年の子供としては、少し小さいかしら。髪の艶も悪いわ。あまり手を掛けていなかったようね。敬うべき女王に対してなっていないわね。でも、これからはあなたを敬う人々に傅かれる生活が待っているのよ。すぐに髪も肌もつやつやになるわ」
エバンジェリンは女神の膝の上で困っていた。
亡くなった母から『女神様はいつでも私たちを見守ってくださっているのよ。だから毎日感謝のお祈りを捧げてね』と言われていた。
つまり滅多に会うことは出来ないお方だと認識していた。
そんな方の膝の上に座っていていいのだろうか。
いや、その前に直接お会いできたのだから、感謝の気持ちをお伝えした方がいいのではないか。
そうなると膝から降りたほうがいいだろうか。
撫でている手を止めさせる?
何と声を掛けて?
グルグルといろいろなことが頭の中を回っていた。
女神はそんなエバンジェリンの混乱している様子を愛し気に見つめていた。
そこに慌てているのか、靴音高く広間に近づいてくる足音がした。
女神は目を扉へと向けた。
バタン
「申し上げます! 国境より……?」
勢いよく入ってきた伝令は、広間の異様な雰囲気に言葉を止めた。玉座に居るはずの王の姿が見えない……どころか、見たこともない女性がもともとの玉座より立派な椅子に腰かけて、第一王女を抱いていた。
伝えないといけないことがあるのに、異様な雰囲気にのまれて言葉が出てこなかった。
「そこのあなた、伝令なのでしょう。伝えることがあるのなら、役目を果たしなさい」
女神にそう言われて、伝令はピシッと背筋を伸ばした。
「申し上げます。国境より伝達あり。突如現れた一団が、検問所を突破して王都へと進行中とのことです!」
「あら。思ったより早かったわね。あなた、各都市に伝えなさい。彼らを阻むことなく通しなさい。抵抗しなければ、彼らは何もしないわ」
「は? えっ? あっ……はい! 一団の行く手を遮ることをしないようにと、各都市に申し伝えます!」
伝令は困惑しつつも急いで伝達するために出ていった。
女神は機嫌が良くなったようで、鼻歌交じりにエバンジェリンの髪をいじりだした。
待つこと一時間、窓から馬の嘶きや鎧などの金属がこすれる音が聞こえてきた。
その音に広間にいる人々は目を見開いて驚愕していた。
国境から、どれだけ急いでも馬でも半日はかかる距離だ。それをたった一時間で王都まで辿り着いたのだ。
荒々しい足音が聞こえてきて、広間の扉が開かれた。
そこには白銀の鎧を着こんだ騎士を先頭に数名の騎士たちがいた。
騎士たちは異様な様子は歯牙にもかけずに広間をつかつかと横切ると、玉座の前で片膝をついて跪いた。
「女神様、お召しにより参上いたしました」
「よく来てくれました。というか、早かったわね。どうやったの?」
女神は手振りで騎士たちに立つことを指示しながら聞いた。
「女神様のお言葉に応えるべく、すぐさま動ける我が第一師団の者を引き連れて国を発ちました。クヴァール国までの間にある各国も協力くださいまして、国境から国境まで跳ぶことの許可をいただき、最速で参りました」
「だからといって、ヴェスト神国の王太子ある貴方が来ることは、なかったでしょう」
「いえ、私は長子ということで王太子を拝命しましたが、私の下には優秀な弟たちがいます。何かありましても困ることはございません」
キリッとした顔で女神に応える白銀の騎士が、ヴェスト神国の王太子だと知った人々は顔から血の気が引いて行くのを感じた。
この世界で初めて女神に認められた国であり、女神様を崇拝している国として有名だった。それだけでなく、『神国』と名乗る許可を与えられた、ただ一つの国である。
女神教の総本山だと言える国の王太子が、物々しい鎧姿で駆けつけたのだ。
どうやらクヴァール国は女神の不興をかったのだ、遅ればせながら人々は気がついたのだった。
そんな人々の不安を煽るように、王太子は広間の人々をギロリと一睨みしてから女神に言った。
「それで、そちらにいらっしゃるエバンジェリン女王陛下を保護した後は、瓦礫一つ残さずに破壊すればよろしいのでしょうか」
王太子の物騒な言葉に女神は形のいい眉を寄せた。
「エバンジェリンの前でそのようなことを言わないで頂戴。というか、余計なことはしなくていいわ。貴方は直ちにエバンジェリンを保護してヴェスト神国に連れて行ってくれればいいから」
女神の言葉に王太子は秀麗な顔に不満そうな表情を浮かべた。
「ですが、女神様のお言葉を蔑ろにした者どもです。女神の信徒である我らに鉄槌を下す許可をいただけませんか」
「駄目よ。というより、そんな無駄なことをしなくてもいいのよ。エバンジェリンがこの地を去れば、加護は消えるのだから」
「ああ。そうでございましたね。わかりました。後続の必要はないと、国に伝えます」
王太子は目を丸くして女神の膝で話を聞いていたエバンジェリンに優しい笑みを向けた。
「クヴァール国女王、エバンジェリン陛下。私はヴェスト神国王太子、シュタイン・ヴェストと申します。女王であられるエバンジェリン陛下を蔑ろにするこの国は、陛下がいらっしゃるには相応しくないと女神様がおっしゃっています。どうか、我が国にいらしてくださいませんか」
真摯に言い募る王太子に、エバンジェリンは首をコテンと倒して困ったように言った。
「えーと、この国の王は父ですけど?」
「いいえ。あの者は前女王の王配でしかなく、王位につけるものではありません」
「で、でも、父は公爵家の出です。公爵家というのは、王家の血筋なのでしょう? だから王になれるのではないですか」
「ああ、エバンジェリン陛下は知らないのですね。この国にある公爵家はどれももう王家の血を引いていないのです。今ではエバンジェリン陛下のみが初代国王の血筋となります」
反対側に首をコテンと倒したエバンジェリンは、先ほどの女神の話を思い出した。
王族になり替わろうとした『馬鹿』の話を。
……つまり正当な私を後継者から外そうとしたことで、この国は女神様の怒りを買ってしまったのだろう。
父親のほうを見ると、なにやら口をパクパクとさせていた。
そんなことがあるはずがない、とかいっているのかな?
エバンジェリンは女神のことを振り仰いだ。まだ膝の上に座っていたので。
「どうしたの、エバンジェリン」
「女神様、私はこの国から離れていいんですか」
「ええ、もちろんよ。貴方はどこに行くのも自由なのよ」
王家の義務を果たす必要はないと言われて、エバンジェリンはちょっとだけ考えた。
「それなら私はヴェスト神国に行きます」
広間に居る人々から、声なき悲鳴が上がった。
愚鈍な者たちでも、先ほどの女神の話とヴェスト神国王太子の言葉から、この国がどういう状況に置かれているのかわかったのだ。
必死に目線と心の中で女神に懇願するが、もちろん女神が聞き入れるわけがない。
「さあ、決まったのならここに居る必要はないわね。エバンジェリン、身一つで……でもいいのだけど、どうしても持って行きたいものがあれば取りに行きましょうか」
エバンジェリンの私室に移動した女神とエバンジェリンと王太子。エバンジェリンは母から渡された手紙の束を大事そうに抱きしめた。
「これだけあればいいです」
そう言いながらも、母の肖像画を見たことに気がついた女神は、にこりと笑って言った。
「肖像画は全部送ってあげるわ。荷物になるなんて気にしなくていいのよ。あと、そうねえ、この服たちはエバンジェリンには似合わないから置いていくとして、マデリンが残したドレスは持って行きましょうか」
「で、でも、それは王妃様のもので……」
「あら、違うわよ。マデリンが娘のために残したドレスがあるのよ。それぞれ誕生日に届くように魔法がかけられているの。あいつらは触ることも出来ないのよ」
「お母様が……」
エバンジェリンの瞳に涙が浮かぶ。女王として忙しい母はそれでも娘を気遣って短い言葉でも直筆で手紙をしたためていた。エバンジェリンにとってその手紙が宝石よりも大事なものだった。
「う~ん、いいわ。私が選別してエバンジェリンに必要なものをあちらに送ることにしましょう。そうね、そうしましょう。早くこの国から離れましょうね」
もう一度広間に戻った女神たち。待っていたヴェスト神国の騎士と共に広間を後にする。
広間にいる人々はまだ動くことが出来なかった。
お城の外に出たエバンジェリンはシュタイン王太子と共に来た騎士や馬たちの壮観な様子に目を見開いた。
「申し訳ございません、エバンジェリン陛下。速度を優先させたため、馬車のご用意が出来ておりません。私と相乗りさせていただいてもよろしいでしょうか」
馬のことをキラキラとした目で見ていたエバンジェリンは頷いた。シュタイン王太子と一緒の馬に乗り、悠々と王城を出て王都の門も通過した。
「それでは国境まで送ってあげるわね。シュタイン、エバンジェリンのことを頼んだわよ。それと余計なことかもしれないけど、変に囲い込もうとしないようにと言っておくわ。貴方にエバンジェリンをと考えないこと。今だとロリコンだしね。年の差は……王族だし言うつもりはないわよ。でも、選ぶのはエバンジェリンよ。そこのところをよーく考えなさいね」
女神の苦言(?)にシュタインは引きつった笑いを張り付けて、女神へと頭を下げた。
女神に送られてヴェスト神国に近い国境へと一瞬で着いた。
検問所を通過して隣国へ。そこから跳んでヴェスト神国に近い国境へ。
これを三度繰り返してヴェスト神国へと一行は戻ってきた。
エバンジェリンはヴェスト神国で歓待された。
女神自ら動いて救い出した姫である。
女神様の愛し子として国民に受け入れられた。
成長するにつれ、エバンジェリンの聡明さが知れ渡り各国の王族から釣書が舞い込むようになった。
釣書を送ってきた各国の王族たちと交流し、エバンジェリンはヴェスト神国の第五王子と婚姻をした。
第五王子はエバンジェリンと歳が近く、ヴェスト神国に来たエバンジェリンを大切にあつかった。なにより、母を亡くしたばかりの一人の女の子として気遣ってくれたのが、エバンジェリンの心の支えとなったのだ。
二人は子宝に恵まれて幸せに暮らしたという。
さて、クヴァール国。
あの時王城の広間で動けなくなった人々は、エバンジェリンが隣国に入ったと同時に、解放された。
慌ててエバンジェリンを取り戻そうとしたが、もちろん一瞬で国境まで跳ぶことなど出来る者はいなくて、伝達されたのは翌日になってからだった。
加護が無くなったことにより、穏やかだった気候は人が住むには厳しい気候へと変化した。
国を捨て他国に移住しようとした人もいたのだが、そもそもクヴァール国民だとわかるとどこの国にも入ることは出来なかった。
各国との国交も途絶えてしまい、クヴァール国民は厳しい生活を余儀なくされた。
それなのに、王侯貴族は今までの生活を続けようと重税を課してきたので、怒った民衆によって王侯貴族は粛清されたのだった。
残った人々は、村単位で細々と暮らしていったのだった。