もう帰れない?
無事に早朝を迎えた俺たちは、まずは鈴木にここ蛇白村をよく知ってもらうために、下調べに村の探索をすることになった。
まずは俺の提案で不思議と水かさが増す川へと向かった。
「うわー、ここ壊れていますよ。なかなか大きな家ですねえ。誰の家だったんですか?」
「ああ。確かあまりよく話したことはないけど、村で唯一電化製品を取り扱っていたお店のおじさんがいて、その人の双子の兄が住んでいたんだ。ひどい無口な人だった」
「へえー、やっぱり海道さんはこの村が懐かしいんでしょうね。過疎化の影響で住民が集団移動してしまった村は確かに何十年もすると廃村になりますけど、たまに住んでいた人が村へ戻ってきて家を建てることもあると聞きます。やっぱり唯一の故郷ですものねえ」
鈴木が関心を持って俺に聞いて来た。日台は目の前の家の不気味な染みを見つめては、急に無言になりだした。
日台の仕事は、心霊写真ライターだから恐らく構想を練っているのだろう。
「こ、これは売れるぞ!」
しばらくして、急に日台が叫ぶと「俺たちだけ……俺たちだけの……」と呟いている。
家の染みに何かあったのだろうか?
確かにこんな体験をしていて、それを書いたら売れるのかも知れない。
鈴木が配信をし、日台が書く。
二人共こんな時でもいつもの日常を考えていて、しっかりとしているんだ。
真夏だが山の中だけあって、早朝は幾らか涼しくなった風と靄がでていた。ここへ来る際にピクニック気分で日持ちする弁当から非常食まで持ってきたので、一週間くらいは下山できなくても空腹でぶっ倒れることはないだろう。
「あの、鈴木さん。今思ったのですが、どんな機材で配信されるんですか?」
俺は懐かしいがボロボロになった家屋を見回して一つ疑問に思ったことを尋ねた。
「ええ。ぼくはライブカメラを使うんです」
「ライブカメラ?」
「コンピューターのネットワークによってリアルタイムで配信ができるんです。多分、電話は使かえないんですが、ライブカメラは使えると思うんですよ。きっとリアルな配信ができるんだなあ。早く下見を終えたいなあ」
「はあ、そうですか」
「おい。海道。あそこの川か?」