リポート 02
案の定。
雨がしとしとと降りだした。
この村は、1984年に最後の子連れの親子が下山してから廃村になった。けれど、廃村はボロボロになっていて人がいないだけで昔のままだったのだ。
「懐かしいなあ。これくらいなら、まだまだ人が住めそうだ。あそこに駄菓子屋がある。昔、よくラムネを買ったんだ。あ、あの寂れた神社も子供の頃に行ったなあ。来我くんの家も西野ちゃんの家もある」
俺が懐かしさで歓喜していると、後ろでは鈴木と日台は互いにスマホを持ち出し打ち合わせを始めていた。恐らくどうせならここを取材しようという魂胆だろう。
さすがに電車は一本も来ないが、無人の駅もある。
雨が本降りになると視界が悪くなって下山できないので、もう戻ろうかと思った頃。
「ふーん。そうですか。それなら会社へ電話してもいいでしょう。観光スポットもいいですが、たまには意外性もあってもいいんじゃないですか、廃村スポットの配信もいいと思いますね」
鈴木が日台と商談をしていた。
二人共商魂たくましい。
静かな小雨が降り続ける中。
カラスの鳴き声が木霊している荒れ果てた小道をひたすら三人で歩いた。その小道が前は手入れをされた畑だったとわかると、俺たちは無言になりだした。
「あれ? 日台さん。どうせなら、あの廃病院から行きましょうよ。日台さんはあっちの神社へ行こうとしているんじゃないかと思うんですが……やっぱり心霊スポットの定番は、ぼくはどちらかというとあの廃病院かと思うんですよ」
後ろを歩く鈴木がスマホでどこかへ電話をしながら、こちらに目線を向けた。丁度、この小道を右に曲がると廃病院は近かった。
「あれ? スマホが繋がらなくなった……あ! あれあれ!! 人が!! イィッ!」
途端に、鈴木が廃病院の方を指差して、奇妙な声を上げた。しばらく口をパクパクさせて硬直する。
「うーん。こっちも、電話は繋がらなくなったよ」
日台がいぶかりながら廃病院の方へ向くが、一瞬で顔全体が信じられないほど青白くなった。
驚いた俺もその目線の方を向くと……。
廃病院の二階に、一人の女性が立っている。
白衣を着ていて、黒い髪の前髪が二階の窓から下の地面へとたどり着くほど長かった。きっと、後ろ髪もそうなんだろうなと思考が停止したはずの頭で俺はふと思った。
窓際から首が地面へと……ボトリと落ちてしまった。