あなたはだあれ?
おしゃれなテラスからの陽光で、日台の顔が輝いている。日台は俺の東京での友人の一人だ。頼んだエスプレッソを美味しそうに飲んでいた。
「面白いじゃないか! 行ってみようよ」
二つ返事でOKがでた。商売柄取り分けてこういう話は好きだったのだろうから真っ先に聞いてみたのだ。日台はフリーの心霊写真ライターをしている。
「蛇白村かー。当然だが一度も聞いたことがないな」
「ああ、そうだろうね。俺の生まれ故郷だけれど、人口が200人くらいしかいなかったからな」
「ふーん。それで今じゃ廃村かあ」
日台がタバコに火を点けた。
「うーん。確かに誰かの悪戯でもなさそうだね。ほら、この手紙の紙……パロンケントだよ。多分、1980年代のバブル期に買ったんだろうな。パロンケントは高級な原料から作られているんだよ。君の少年時代が1980年代だから、丁度その時はバブル期なんだねえ」
「ふーん……知らなかったな。俺の村でそんな高そうな紙使う奴が?」
ふと、なんだか奇妙な気分になってきた。それも日台も同じようでニンマリとしている。まるで早く俺に聞けともいいたげの目をしている。
「なんだかなあ。ちょっと、背筋が寒くなってくるような奇妙な話だが、その手紙は俺の友達の一郎が昔に書いたものなのか?」
「ドンピシャだとは思うぞ! そうだよ! 1980年に書いたんだよきっと」
「ふーん」
「あんまり気が乗らないようだな。こういう話はダメなのか? それとも怖いのか? いや、こわいわけじゃないよなお前は。もしかして、急に興味がなくなったとか言いだすなよ。こんな面白い話は他にはないぞ」
俺もタバコに火を点けた。
「いや、何もかも懐かしいんだ。そうノスタルジーさ。できることなら例え幽霊でも会いたいと思ってな」
日台は大笑いして、その拍子に手に持ったエスプレッソを少し零してしまった。
近くを歩いていた気の利いたウエイトレスがすぐにテーブルを拭いてくれた。
「まあ、あれだな。お前さんは要するに懐かしいんだろ。昔の死んだって言う友達に会うのが目的でいいんだな。俺の目的は金さ」
フリーの心霊写真ライターである日台は家賃のやり繰りで大変なのだろう。昔はその道ではちょっとした有名なライターで、ファンも多かったようだ。だが、このご時世で収入が激減したとも言っている。
正直、俺は今の時点では弘子のことは眼中になかったように思う。
洒落た喫茶のテラスから降り注ぐ陽光で、相変わらず日台の顔が眩しかった。