49.幼なじみ
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帰路の馬車の中は静かだった。
馬車の音がいつもよりうるさく感じる。
対応を間違えた。
今までレンに対してどう接したらいいかなど迷うことはなかった。どんな事を言っても笑顔で聞いてくれ、私がやりたいと言ったことはいつも一緒にやってくれたから。
レンの優しさに甘えていたのね。
先程も何が気に触ったのか皆目検討がつかなかった。
サラ=アンは普段なら馬車で話しかけてくるのに、今日はずっと外を見ている。彼女の気遣いが嬉しい。今話しかけられても返せる自信は無いから。
空気を読んだ……訳ではないのでしょうが、リッカはサラ=アンの膝の上でぐっすり眠っている。
馬車が止まり、外からバルドが声をかけてきた。
「到着しました」
ドアを開けてもらい、バルドの手を借りて外へ出る。そのまま屋敷へ向かおうとしたら、バルドが私の手をそのままギュッと握った。
「バルド?」
「セリーヌお嬢様、少し幼なじみに戻ってもよろしいでしょうか?」
「ええ。いいわ」
バルドが改まってこういう時は何かある。まあ今回は察するけれど。
「じゃあ」
バルドは一呼吸して、
「あのタレンツィオの態度はなんだ? 喧嘩したのか? それにしても酷すぎるだろう」
「ラジヴィオラ様ね」
いくら怒っていても呼び捨ては立場的に危ない。一応注意しておかなくては。
「そんな事どうでもいいんだよ。あいつ、本当にタレンツィオか?双子の生き別れた兄弟がいたとかじゃないのか?」
私は困った顔をした。
「残念ながら本人よ」
「はあ? あり得ないだろ。頭でも強く打ったのか?」
「惜しい!」
まあ、当たらずとも遠からずってところでしょうか。
「なにおどけてんだよ。お前はそれでいいのか?」
「いいわけじゃないけど事情があるの」
どう説明したものか。
「その事情は俺に話せないものか?」
バルドはいつも私のそばで見守ってくれたお兄ちゃんのような存在。今も私のことを心から心配してくれている。
「色々と事情が込み合っていて、今ここでは話せない」
「いつかは話してくれるんだな?」
「うん。必ず話すから」
「お前がそう言うんなら分かった。今は口を出さない」
バルドは大きなため息をつきながらも、一応は納得してくれた。
「ありがとうバルドお兄様」
「その呼び方懐かしいな。。辛くなったらいつでも兄様を頼りするんだぞセリーヌ」
おおきな手で頭をなでてくれる。ごつごつした大きな手が安心を与えてくれる。
呼び方を変えるだけで子供の頃に戻ったようだ。本当の兄のような存在のバルドをすっかり忘れていたなんて信じられない。
「はい、お兄様。では中に入りましょう。あら?」
私の手はまだバルドと繋がられたままだった。
「今日は特別に妹をエスコートして差し上げよう。俺にエスコートして欲しいっている令嬢は多いんだぞ」
「まあ」
私たちは昔のように笑い合いながら、おどけたバルドのエスコートで屋敷の中に入っていった。
「ありがとうバルド」
「夕飯までゆっくりお休みなさいませセリーヌお嬢様」
バルドは部屋の前まで着くと、いつもの護衛としての挨拶を真面目な顔でした。
「ふふ」
つい笑ってしまった。
「笑うなよ。また後で迎えに来る」
バルドは兄の顔でそういうと、すぐ表情を戻し去って行った。
「ありがとうバルド」
バタン。
薄暗い部屋は、ドアを閉めると静寂が訪れた。
今はサラ=アンに頼んで人払いをしてもらっている。
そのまま電気をつけず、外の明かりだけで部屋を横切り、化粧台の椅子に座る。
一番上の引き出しを開けた。そこにはレンと沢山やり取りした送受信用魔法石が入っていた。私は受信用の魔法石を手に取った。
アクアマリンが輝いている。
「セリーヌ=マクライン」
解除ワードを言うと、魔法石から機械的な音が出てきた。
「セリーヌ」
レン……。
「セリーヌ」
「セリーヌ」
「セリーヌ」
何度も繰り返す。機械的な音のはずなのに、先ほどレンに名前を呼ばれた時よりも熱を感じた。
魔法石をギュッと抱きしめた。
私はそのまま魔法石の解除ワードを変えた。
「レンの声が聞きたいよ」
私は声を掛けられるまで、レンの送ってくれたメッセージを聞いて過ごした。
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