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46.第二王子

お越しくださりありがとうございます。


 リッカを捕まえたまま会え鏡になっていると、聞き慣れた声が頭上から聞こえてきました。

「フィリップ殿下」

 そこにいたのは、驚いた顔をしたこの国の第二王子、フィリップ=エヴァン=ブレジール様だった。

「あら、セリーヌじゃない」

 そして、フィリップ殿下の腕に絡みつくようにして立っていたのは、婚約者である侯爵令嬢のロザリーヌ=ロゼリア様です。

「あ、し、失礼いたしました。王国の輝く炎に置かれましてはごきげ……」

「そういうのはいいよ。僕たちはみんな幼なじみだろう」

 私は急いで立ち上がると、淑女の礼をしましたが、フィリップ殿下によって遮られました。

「ありがとうございます」

 私は儀礼の言葉は省き、軽く頭を下げながら2人を伺い見ました。


 私がレンと出会った、フィリップ殿下の婚約者探しのお茶会で、私とレン、そしてフィリップ王子とロザリーヌ、他にも3組婚約が成立しました。私が8歳の時です。

 以来この5組で会うことは度々あり、いわゆる幼馴染の関係を築いてきました。

 前は全く気にならなかったけれど、いかにも乙女ゲームの開始前の設定よね。ハイスペック男子5人とその婚約者。しかもフィリップ殿下の婚約者の名前がロザリーヌって……、いかにも悪役令嬢な名前。

 ロザリーヌ様は見た目も赤髪縦ロールとザ・悪役令嬢なたたずまいです。

 フィリップ殿下はこの国は炎の国だけあって、王家の方は赤髪でオレンジダイアモンドのように輝くオレンジ色の瞳をしています。

 前世を思い出してすぐに「王太子の髪はブロンドに違いありませんわ!」と考察していたのがもう随分前のようです。

 懐かしいわ。

 思わずその時のことを思い出してくすりと笑ってしまいました。

 まだレンと再会する前だったわね。

 まさかこんな未来が待っているなんて……。


 フィリップ殿下がセリーヌの笑顔を見て少し顔を赤らめ、すぐに咳ばらいをしました。

 でも、自分の思考に夢中になっているセリーヌはそのことに気づかなかった。


「いつまで抱っこしてるのぉ。早く下ろしてよぉ。マカロンがぁ」

「あ、ごめんなさい」

 リッカを下ろすと、たたっとマカロンの方へ走って行きました。

「あら、セリーヌったらネコとお話しているの? お可愛らしい事」

「あ、あははは。お恥ずかしい所をお見せしましたわ」

 いけない。人前でリッカと会話してしまったわ。でも今のは普通のネコに話しかけるのとそう変わらないわよね?

 今度からはもっと注意しなくては。それにしても今日のロザリーヌ様口調がきついわね。いつもはもっと優しく接してくれるのに。

「ふふ。セリーヌがネコを可愛がっているなんて、意外な一面があるんだね」

 そんな事を考えていたら、フィリップ殿下が微笑みながら話しかけてきた。

「意外過ぎて似合いませんわね。不釣り合いなイメチェンはお止めになった方がよろしくってよ」

 あ~、これ嫉妬だわ。普段フィリップ殿下とお会いするときはレンと一緒だから気づかなかったけど、ロザリーヌ様、かなり嫉妬深い方みたいね。ここは早く逃げるが勝ちだわ。

「マクライン様、制服のご用意ができました」

 ナイスタイミングですわ!

「では、私の制服の準備ができたようですので失礼いたしますわ」

 そそくさと立ち去ろうとした私を、またもフィリップ殿下が呼び止める。

 もう、行かせてよ~。

「そういえば、タレンツィオは一緒じゃないのかい? 珍しいな」

 フィリップ殿下がキョロキョロ辺りを見回した。

「ええ、まあ」

 あははは、と笑うしかない。

 本来ならレンと楽しくお買い物デートするはずだったのに……。

「……」

 フィリップ殿下が考える仕草をした。

 いけない。気を遣わせてしまったかも。今考えるのは止めましょう。私は無理に笑顔を作ってフィリップ殿下を見上げた。

「すみません。もう行かなくては」

「呼び止めて悪かったね」

「いえ。では失礼いたします」

「セリーヌ」

 ああ、もう行かせてよ。

 なんておくびにも出さずに笑顔を向ける。

「そのオレンジ色のワンピースも良く似合ってるね」

「はあ」

 なぜそんなことで、去り際の私を呼び止めたの? と思わなくはないけれど、そこはお礼を言って、今度こそ背を向けた。

 

 その時、ロザリーヌ様の顔が青いことに気づかないセリーヌだった。


「さあ、さっさと制服を確認して次に行きましょう」

 私がサラ=アンに手伝ってもらいながら制服を試着している間、リッカは夢中でお菓子を食べていました。

「おいしいぃ」

 この子、私のところに来てから、食べて寝ることしかしてないわね。もう愛玩用のペットにしか思えなくなってきましたわ。

「サラ=アン、バルド、どう?」

 試着室から出てお披露目する。

「まあお似合いです! セリーヌお嬢様の為に作られたと言っても過言ではありませんは」

「いや、それは過言だろう」

「バルド、口調が幼なじみに戻ってるわよ」

「は、失礼いたしました」

 失礼とは思っていない顔で敬礼をした。

 

 ちらっとフィリップ殿下とロザリーヌ様の方を伺う。

 楽しそうにお茶を飲みながら制服が来るのを待っていた。

 在りし日の私とレンに姿が重なった。

 

 サラ=アン達との時間も楽しいけれど、やっぱりここにレンがいて欲しい。

 そっとため息をついた。


 寂しげなセリーヌの横顔を伺うフィリップ殿下と、厳しい顔つきでセリーヌを睨むロザリーヌ様にセリーヌは気づかなかった。


お越しくださりありがとうございます。

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