45.マダムジョセフィーヌ服飾店
お越しくださりありがとうございます。
レンが去った後は、家族でゆっくりと過ごした。
ぎりぎりまでマクライン領で過ごし、入園準備のため家族と別れ王都のタウンハウスへ来たのが2日前だ。
我が家は領地での経営が忙しいため、お父様、お母様、そしてまだ入学前のロバートは社交界シーズンの夏以外は領地で暮らしている。
「入学まであと10日か」
10日後にまたレンに会える。
楽しみなような、怖いような。
空のカップをテーブルに置いたタイミングで、サラ=アンが声をかけてきた。
「お嬢様、そろそろお出かけになる準備をしませんと」
「そうね。今行くわ」
「まだ食べ終わってないよぉ」
「リッカはまだ食べていていいわよ。支度が終わる頃いらっしゃい。でも、来ないと置いて行っちゃうわよ。王都の街へ行くのは初めてでしょう?」
「分かったぁ」
こちらも見ずに、慌てて口にクッキーを詰め始めた。
体の堆積に比べ明らかにおかしい量を食べているけれど、どこに入っているのかしら。
「今日はどのような装いで行かれますか?」
「そうね。今日は風が少し冷たいから、厚めのワンピースをお願い。」
少し暖かくなってきたとはいえまだ肌寒い季節です。私は少し厚めの動きやすいシンプルなワンピースに、ロングブーツ、ショールを羽織った恰好で出かけることにしました。
「お嬢様、こちらのワンピースはいかがでしょうか?」
サラ=アンが選んできたワンピースは目にも鮮やかなスカイブルーのワンピースです。形はシンプルだけれど、襟の刺繍が高級感を漂わせている。
私の一番のお気に入りだったワンピース。
だってレンの瞳の色に似ていたから……。
私はふるふるっと首を振ると、
「今日は気分を変えてみようかしら。オレンジ色のワンピースが良いわ」
今はあまりレンのことは考えたくない。
大好きなオレンジの色で気分を上げていきましょう。
着終わった後に、そういえばオレンジはレンをイメージする香り……なんて思い出しても、後の祭りだった。
私は鬱鬱とする気分と共に馬車へ乗り込んだのでした。
マクライン家のタウンハウスは、王都の貴族が邸宅を構える一等地にあり、ここから街までは馬車で10分程度と、かなり好立地な場所に建てられている。
馬車に乗って数分で、往来の喧騒が聞こえてきた。
「セリーヌお嬢さま、到着しました」
あっという間に街の中心で、護衛のバルドが扉を開けてくれる。
バルドは私の一つ年上で、現在王立エリュカレーヌ学園の騎士科で学んでいる。学園内での私の護衛をしてくれる予定だ。彼が学園に入ってからは、学園にいる間は寮に住み、休みの間はタウンハウスの護衛を担当していた。そのため、マクライン領にいなかったから、記憶を失っていた私はしばらく彼のことを忘れていた(ごめん)。お父様の侍従セバスチャンの息子で、小さい頃から一緒に育ってきた。いわゆる幼馴染だ。
「ありがとうバルド」
バルドの手を借りて馬車を下りた。
「うわぁ。美味しそうなにおいが沢山するぅ」
リッカはやっぱり真っ先に食べ物に反応している。
「うふふ。私の用事が終わったら、カフェでお茶でもしましょう」
「やったぁ」
「リッカ様、街でうろうろしていては野良猫と間違われてしまいます。この籠にお入りください。お運びします」
サラ=アンの用意した籠の中に入ると。可愛く「にゃ~ん」と鳴いたらしい。
「か、可愛い~」
サラ=アンが見悶えている。
でも、サラ=アン、訳すと「我を運ぶことを名誉に思えぇ」とかほざいておりますわよ。
サラ=アンが喜んでいるので、あえて言いませんが。ある意味winwinな関係ですわね。
乗ってきた馬車は、私たちを下ろすと、最寄りの馬車待機場へと去って行った。
「じゃあまずは制服からね」
私たちは制服をオーダーしているマダムジョセフィーヌ服飾店へ向けて歩いた。
途中、今流行りの観劇のポスターが貼ってあった。
「へえ、今こういうのが流行りなのね」
王子様風の男性と平民風のワンピースを着た女性が手を取り合っていた。
「王子様と平民の女性の恋物語ですね。どうも、今のこの国の陛下の若い頃をモデルにした実話らしいですよ」
サラ=アンもこの観劇に関しては知っているらしい。
「まあ、なんて……」
乙女ゲームのようね。という事ははすんでの所で飲み込んだ。
色々見ていると、あっという間にマダムジョセフィーヌ服飾店の前までやってきた。
制服はマクライン領に戻る前に採寸しオーダーしている。今日は試着して調整する日だ。もし問題なければそのまま持ち帰り。もし調整が必要であれば、入学まで学園生活の間暮らす寮まで届けてくれる。
街のメインストリート上にある、大きなショーウィンドウに流行りのドレスを飾っている白い戸建ての店にやってきた。
制服を扱っている店は何店かあるけれど、ここは特に上流貴族ご用達の服飾店となっている。
カラン カラン
扉を開けると、涼やかなベルの音が店に優しく響いた。
「これはマクラインお嬢様、良くお越しくださいました」
私の顔を見たとたんに笑顔で店のオーナーであるマダムジョセフィーヌが挨拶しにやってきた。顧客の名前がすぐに出てくるなんて、さすが貴族ご用達店。
「制服を取りに来ました」
「はい。お待ちしておりました。こちらにおかけになってお待ちください。すぐに持ってまいります」
私たちはうまい具合に仕切られ、出口から見えないようになっている場所に用意されたソファに座った。
私が座るとすぐにお茶菓子がテーブルにセットされた。
「お菓子ぃ」
リッカが速攻反応し、籠をカリカリひっかき始めた。
「ここはまだ出られないわ。カフェに付いたらすぐに出してあげるから」
人差し指を口に当て、静かに注意していると、
「あら、可愛い猫ちゃんですね。ドレスをひっかいてしまわないようでしたら出していただいて大丈夫ですよ」
お茶を持ってきてくださった店員さんが、優しく言ってくれた。
「話分かるねえぇ」
リッカは上機嫌で短い尻尾をピーンと立て、すまし顔で籠から出てきた。
「あ、マカロンがあるよぉ」
前足で器用にマカロンを取ろうとして、床に落ちてしまった。床に落ちたマカロンはそのまま転がって入り口へ向かっていった。
「まってぇ、僕のマカロン~」
「リッカ、そちらへ行ってはダメよ」
私は慌ててリッカを追いかけて入口へ向かいました。
「こおら、捕まえた」
カラン カラン
「おや、セリーヌじゃないか」
お読みくださりありがとうございます。




