44.希望
お読みくださりありがとうございます。
本日は短めです。
初めてレン視点で書きました。
【レン視点】
マクライン邸に背を向け、馬車に乗り込んだ。
馬車はゆっくりと走り出す。
窓から外に目をやると、マクライン家の者たちが直立不動の姿勢で見送っていた。
みんなから一歩引いた場所で悲し気にたたずむ、エメラルドグリーンの瞳を持った少女。
君は誰だ。
皆が、私の従者達さえ、口々に彼女は私の婚約者たという。
とても仲の良いカップルだったという。
全く思い出せない。
そもそも婚約者がいた記憶がない。
なのに、なぜ私は彼女の屋敷で目覚めたのだろう。
確か、王立学園に入る前に領地経営を学ぶため、ラジヴィオラ公爵領に戻っていたはずだ。
「うっ!」
思い出そうとすると、霞がかっらように輪郭がぼやけていき、激しい頭痛に襲われる。
急いで、お守り代わりに持ち歩いている、心をいやす魔法陣の描かれた魔法石を取り出した。
「ん?」
巾着袋がちがう。
普段入れていたのは、ラジヴィオラ家の紋章の入った巾着袋だ。
「これは、なんだ?」
ひどく不格好な刺繍が施されていた。
カエルのような……花にも見えるか?
一つ見知った文様を見つけた。
「魔法陣か」
よく見ると、心をいやす魔法陣だった。
「ふっ。下手くそだな」
でも見ていると心が癒される。
「ん?」
魔法石が一つしか入っていないはずなのに、複数の感触があった。
開けてみると、見慣れている魔法石の他に2つ入っていた。
「何だこれは?」
アクアマリンの宝石を中心に、円周に突起物がある丸い魔法石と、エメラルドのはまった長方形の魔法石。長方形の方は、宝石が光っている。
「見たことのない魔法陣だな」
あちこち押してみたが反応が無い。
「オベリナント」
公爵家で使用されている、魔法解除の呪文を唱えてみる。
「なんの反応も無い、か」
戻ったら調べてみるか。
「はて……」
確か私は、魔法陣の研究は父上から反対され諦めていたのでは?
なぜ今自然と魔法陣の研究をしようとしているのだ?
何かが頭に引っかかる。
この光るエメラルドもそうだ。
彼女の瞳もエメラルドのようだった。
この宝石は彼女の瞳を模したものなのだろうか。
自信は無かった。
でも、なんとなく彼女の寂しげな瞳がなかなか瞼の裏から消えなかった。
レンの一番大切な物「セリーヌ=マクライン」の記憶を代償に命が助かったレン。
すべての記憶が奪われたかと思えたけれど、実は一握りだけセリーヌの記憶がレンの中に残った。
契約遂行の際、セリーヌが最後の力を振り絞ってリッカに送った魔力が、全て奪う一歩手前で踏みとどまらせたのだった。
レンも、セリーヌも、多分契約を行使したリッカさえ知らない事実。
それは、記憶と呼べるほど大きくはない。いわば、可能性を秘めた「希望」。
希望が膨らむか、そのまま塵となって消えるか……。
それはセリーヌとレン二人次第。
そのことに二人はまだ気づいていない。
お越しくださりありがとうございます。




