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第2部 43.猶予は1年

お越しくださりありがとうございます。


第二部始まりました。

登場人物一気に増えます。


今後ともよろしくお願いします。

 王立エリュカレーヌ学園入学まであと10日に迫った今日、私は王都の伯爵家タウンハウスの庭園でお茶を飲んでます。

「静かねぇ」

「さようでございますね」

「お姉さぁん、クッキーのおかわり所望するよぉ」

 サラ=アンに追加のクッキーを頼み、南から吹いてくる風に目を細めました。

 王都の風は潮の代わりに花の香りを届けてくれます。

 ここ最近の騒動を思い出し、私はため息をつきました。

 ああ、本当に大変だった。

 今まであった事を振り返りました。


 まず、目覚めたレンが私のことを忘れていた。

 それはもう笑ってしまうくらいきれいさっぱりと。


「君は……誰?」

 起きて第一声がこれって心臓に悪すぎるわよね。

 でもあの時は必死で、

「レン? 私よ。セリーヌよ。あなたの婚約者の」

「婚約者? 私に婚約者はいないはずだが……」

 深い皺を眉間に刻ませて言ったセリフには、冗談で言っているようには感じません。

 私が呆然としていると、ドアを大きく開いてお父様、お母様、ロバート、サラ=アン、そしてレンの従者たちがやってきた。レンの事故の知らせを受け、急いでラジヴィオラ公爵領からやってきた者たちだ。

 それからは怒涛の展開。

 レンは私だけでなく、私に関する記憶全てを失っていた。

 つまり「セリーヌ=マクラインに関するすべての事」。

 私と会った事は無いし、もちろん婚約もしていない。

 森で少年を助けたことは覚えているけれど、なぜあそこを通ったのかは覚えていない。


 そう。レンの一番大切な物は「セリーヌ=マクライン」だった。


 レンらしい。


 私は本当に愛されていた。

 でも今はついこう考えてしまう。


 私が2番目だったら良かったのに。

 公爵家の長子としての役目とか、お金とか。

 どんなものでも私以外だったら、失ってもレンのそばにいられたのに。

 

 私以外にも、私の家族、レンの信頼しているであろう従者達まで私との婚約のことを話し聞かせたけれど、レンにはいまいち伝わらなかった。

 マクライン家の主治医に診てもらったところ全く問題が無かったレンは、一日休んで次の日早々に立ち去ることになった。

「レン、ずっと意識が無かったのだし、もう少し休んでから帰ってはどうかしら?」

「セリーヌ嬢、申し訳ないが私のことをレンと呼ぶのは控えていただいてもよろしいだろうか。どうも私が誰かにそのような呼び方を許すとは思えないのだ」

「レン……いえ。承知しましたラジヴィオラ様」

「すまないね。少々疲れたようだ。一人にしてもらっても構わないかな?」

 きれいな社交スマイルを向けてきた。

「……かしこまりました」

 取り付く島も無かった。家格的に上のレンにこれ以上言い募ることはできない。そのまま退室し、結局次の日この地を立つまで部屋に閉じこもっていた。


 翌朝、

「この度は手厚いもてなし痛み入る」

 レンは、礼をして下を向いている私たち家族に向かって、儀礼的な挨拶を送った。

 お父様がそれに応える。

「旅の安全を祈願しております。また何かの折にはお立ち寄りください」 

 お父様の返礼が終わると同時に、私たちは顔を上げた。

「では、失礼する」

 レンは馬車に向かう一瞬、私の方を見た、気がする。

 一瞬だし、見間違いかな。

 でも結局何も言わずに馬車に乗って、早々に立ち去ってしまった。

 

 今回レンが、私および私に関する全てのことを一切忘れた経緯を、私の記憶が戻った事と一緒に、昨晩全て家族に話した。

 家族たちは私の記憶が戻ったことを心から喜んでくれた。

 そうしてレンのことは……、

「いくら代償が必要だからってセリーヌのことを忘れるとは、許しがたい所業。セリーヌ、さっさと婚約解消してしまいなさい」

「お父様、精霊に一番大切な物と引き換えにするお願いをしたのは私ですから」

「タレンツィオ君にとってセリーヌちゃんが一番大切な物だったなんて……まあ知ってましたけど」

「それでも、あの態度は酷くないですかお姉さま」

「その通りだ。忘れていたとしても、仮にも婚約者にとる態度ではないな」

 どうなのだろう。私は私の事を好きなレンしか知らない。でも案外他の興味のない人たちにはいつもあんな態度なのかもしれない。

「お父様、婚約解消はしばらく待ってください。学園での生活も始まりますし」

「そうね。あなた、セリーヌとタレンツィオ君の婚約に関しては貴族なら誰でも知っているもの。今婚約解消してしまうと、学園での生活でセリーヌが噂の的になってしまうわ」

 お母様の言い分にお父様も考えているようです。

「では、一年だ。一年チャンスをやろう。そもそも精霊に払った代償だ。文献をもっと詳しく調べてみる必要はあるが、大抵の場合は跡形も残らず奪われると言われている。辛いことを言うようだが、タレンツィオ君の中にセリーヌを思う心は全くないと考えた方がいい」 

 お父様は、私の肩を優しく抱きしめました。

「はい。分かっております」

 私は唇をかみしめました。

 分かっていたことだ。代償をレンが支払わなければならなかったことは。

 ただ、自分がそばにいられない可能性は全く考えていなかっただけで。

「セリーヌ、与える一年は、タレンツィオ君の心を戻す為の期間ではない。お前がタレンツィオ君を諦める為の猶予だ」

 私は何も言う事が出来ず、ただ俯いていた。

お読みくださりありがとうございます。

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サラ=アンのスピンオフストーリーも不定期でアップしています。

(セリーヌが生まれる前のお話なので、読まなくても大丈夫です)


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セリーヌが生まれる前のサラ=アンの物語を不定期で連載しています。こちらもどうぞ!

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