SS1.7 森へ
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やっと本編と繋がりました。
そうして、目覚めたら粗末な馬車の中だった。
体中が痛い。そしてだるい。
これが馬車か。車輪の軋む音、馬の嘶き、蹄の音。
案外うるさい。それに思った以上に乗り心地が悪い。
雨が振っている。明かり取りのための隙間から、雨がどんどん入ってきて、体温を容赦なく奪っていく。
何時間走ったのだろう。
やっと馬車が止まり、閂が開けられた頃にはお尻の感覚は無かった。
離宮を出た時はまだ薄暗かったが、すっかり夜は明けていた。
雨が降っているため時間はよく分からないが、まだ夕方には早そうだった。
目の前は森か。死体を隠すのにうってつけというわけか。
「下りろ」
腕を引かれ下りる瞬間に、首から下げていたペンダントが頭からすっぽりと抜けたが、
あっと思う間もなく森に引っ張って行かれた。
寒さとだるさで足がまともに動かない。歯が自然とガチガチ音をたて、体が勝手に震える。先ほどから雨が激しくなってきた。
でも森に入ると木々で上空が遮られ、幾分かはしのげた。その代わり下は土がぬかるんで歩きにくい。
狭い獣道を俺の前に1人、俺の後ろに2人並んで歩いた。俺がつっかえるたびに後ろから蹴られた。
「うっ!」
蹴られてそのまま地面に四つん這いに倒れ込んだ。
初めて触る自然の土はドロドロでまとわりついて不快だったけれど、触っていると幾分だるさが和らいでいく気がした。
「いつまで休んでいる。さっさと立って歩け!」
髪を掴んで無理やり立たせられる。
「どこに連れて行く気だ」
「まだしゃべれる力が残っていたか。ならさっさと歩け」
男は質問に答えることなく、今度は背中を思いっきり押された。
もういい。誰にも愛されなかった人生だ。
『アノ様、あなたは生きなければならない人だ!』
最後のきいたオルランドのセリフを思い出す。
オルランド、そんなことないよ。俺のせいでお前は……。
オルランドの優しい笑顔や頭をなでてくれる節くれだった大きい手を思い出した。
ごめん、オルランド。
「……殺せ」
「はん? なんだって?」
「もういい。早く殺せ」
「物わかりのいいこって。もう少し頑張りな。すぐに楽にしてやる」
もういいって、いってるだろ……う……。
バシャンッ
俺は地面に倒れ伏した。
もう二度と動きたくない。
「ちっ、もう少し奥に行きたかったんだが、しょうがねえ。ここでやっちまうか」
剣が刺さるのを待っていると、
「ぶはっ」
頭から液体をかけられ、両目にまでしみ込んできた。
「よし変わったな。あんたも顔だけじゃなく髪も目の色も父親そっくりじゃなきゃ、ただ捨て置かれたんだろうに。お気の毒にな」
男は俺の顔を掴むと、近くの水たまりに顔を映した。
俺の髪と目の色はどこにでもいる栗色に変わっていた。
「死んだら一生色が変わらない液体だ。髪と目の色が違やあ、この国の王の子とバレることも無いだろうよアノニマス」
こいつ、どこまで内情知ってるんだ?
ああ、そうか。こいつも捨て駒か。
自分では大物に気に入られ、内密の仕事に任命されたと思ってるだろうけど、報酬を貰いに行ったとたんお役御免だ。
そう思うと笑いがこみ上げてきた。
せいぜい今だけ悦に入っとけ。
「なに笑ってやがる。不気味な奴だ。もういい、さっさと遣っちまえ」
俺は目をつむり、水たまりに顔を浸した。
「ぎゃあ!」
剣が振り下ろされるのを待っていると、俺のものでは無い悲鳴が聞こえてきた。
うるさいなあ。目をうっすらと開けると、目の前に銀髪の長い髪が映った。
オルランド?
上半身だけ起き上がった。
目の前に腰までのシルバーの長い髪の、線の細い背中が見えた。
「君、大丈夫か!」
少し高めの、変声期を迎えたばかりの少年と青年のはざまの声だった。
オルランドじゃない。
よく見れば、オルランドのスカイグレーの髪とは違うし銀髪だし、こんなに華奢じゃない。
「何をぼうっとしている! 行くぞ」
俺の腕を引っ張り立たせた彼は、オルランドの落ち着きのあるダークグレーの瞳と違い、綺麗なアクアマリンをしていた。
彼は手中から何か取り出し投げると、煙が辺りを包んだ。
俺は彼に腕を取られ、引きずられるまま移動した。
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