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SS1.4 サンドウィッチとリンゴジュース

お越しくださりありがとうございます。

 体中が痛い。

 初めて10周歩いた次の日、俺はベッドから全く起き上がれなくなっていた。

 オルランドめ。謀ったな!

 今オルランドに入ってこられ、口と鼻を塞がれたら抵抗する間もなく死んでしまう。

 昨日オルランドと一緒に歩いた記憶を思い出す。

 誰かと会話なんて初めてだった。

 くそっ! なんでこんな時にオルランドの笑顔がちらつくんだ……。

 なんだか鼻の奥がツンとする。


 ガチャ ガチャ

 

 扉の鍵が開く音がした。

「あれ、寝てらっしゃるんですか?」

「来るな!」

 殺される!

「あれ~、あははは。アノ様筋肉痛ですか?」

 なんとも間の抜けた笑い声が聞こえてきた。

「筋肉、痛?」

「もしかして体が動かないんじゃないですか? 運動をした後は、体中が痛くなるんですよね。特にアノ様は今まで運動してこなかったから、きついんじゃないかな」

 オルランドが謀ったのではなかった?

「あれ、アノ様なんだか嬉しそうですね」

「う、うるさい! いたっ!」

「ほらほらゆっくり起き上がりましょう。まだ朝食も召し上がっていないではありませんか」

「い、今から食べるところだ」

 俺はそろそろと起き上がり、朝食を口に突っ込んだ。

「食べ終わったら、また昨日の続きをしましょう」

「今日もやるのか?」

 体中が痛いのに、体を動かして大丈夫なのだろうか。やはりこいつ……。

「当然です。体が痛いという事は、アノ様の体が力をつけようと頑張っている証拠です。続けていれば力が付き、どんなに運動をしても痛まなくなります。分かりましたね?」

 俺は無言でパンを口に詰め込んだ。


「はい4周終わりです! よく頑張りましたね」

 俺は足を引きづるようにゆっくりと部屋の中を歩いた。

「では私は行きますが、残り6週も頑張ってくださいね。そんな恨めしそうな顔をしてもだめですよ。あ、そうそう。はいどうぞ」

 オルランドは、俺の手のひらにリンゴとカラフルな包みで包んだ、小さな丸っこいものが入った袋を置いた。

 リンゴは初めてもらった日より毎日届けてくれていた。宿舎横にリンゴの木がなっているらしく、毎日そこから1個拝借してくるらしい。

「あ、僕の分もなんで2個でした」

 なんて笑っている。

 で、この包みは何だ? カラフルな紙に包まれた丸っこいものがたくさん入っていた。

 俺の反応を見て、俺が知らないのに気づいたのだろう。

「これは飴と言って、甘いおやつです。こうやって包装紙を取って口に入れます」

 オルランドは袋から1つ取り出し包装紙を取ると、中に入っていたつやつやしたガラス玉みたいなものを口に頬り込んだ。

「ほら、アノ様もおひとつどうぞ」

 毒が入っている可能性も……。

「どうしました?」

 首をかしげてこちらを見るオルランドは無垢な顔をしており、それよりも、なんだかオルランドの口から漂う甘い匂いに、食べたいという衝動が勝った。

 まあ、死んでも特に後悔の無い人生だしな。

 俺はオルランドを真似て飴を口に放り込んだ。

「かたっ!」

 噛もうとして、がりッという音がした。

「飴は舐めて溶かしながらゆっくり味わうんですよ」

「……知ってたし」

「そうですね。失礼しました」

 オルランドはまた頭をなでた。

 飴は甘い果物のような味がした。


 俺は毎日歩いた。最初の2、3日はキツかったが、徐々に痛みを感じなくなってきた。

 今日はもう少し歩けそうだな。

 今日はもっと行けそうだ。

 もう少し早く歩けそうだ。

 走ってみようかな。


 今では朝、晩50周ずつ走っても痛みはなく、疲れも無くなった。

 少しずつオルランドに教わりながら、体術書に載っている運動や技なども練習し始めた。

 最初は全くできなかったのが、練習を重ねるうちにできるようになるのは楽しかった。

「すごいですねアノ様!」

 オルランドに褒められるとむず痒い感覚はあるものの、悪くなかった。


 ただ、1つ問題があった。

「腹減ったな」

 相変わらず本を読み、合間に運動し、合間に本を読む生活をしているうちに、時が経った。

 9歳になった俺は大分肉も付き、ハロルドオニイサマのおさがりの服も徐々に合うようになってきた。

 しかし、外の世界で俺は年を取らないと思われているらしい。

 食事の量がここ2、3年変わっていない。以前は全く動かなかったのでそれでも問題なかったが、最近では毎日何時間も体を動かしているからすぐに腹が減る。

 朝・昼・晩の食事だけ。間食は無し。

 一度、食事を運んでくるメイドにもう少し増やせないか聞いてみたことがあるが、無言で配膳をして終わるとさっさと出て行ってしまった。

 夜はオルランドが持ってきてくれる飴を少しずつ舐めながら空腹をしのいだ。


 ある夜、腹が減り過ぎて眠れず、飴と水で空腹をしのぎながら腹を抑えていると、鍵が静かに開く音がした。

 ついに刺客が来たか?

 俺はとっさにベッドの下にもぐりこんだ。

 影がゆっくり音をたてないようにベッドにやってくる。

「おや?」

 その声を聞いた途端、

 ぐうううう~

 俺の腹の虫が鳴った。

「アノ様、そちらにいらしたんですね」

「何の用だ」

 俺はことさら冷たく訊ねた。

 でも顔が真っ赤なのは月明かりでも分かってしまうかもしれない。

「いえね。今日の夜の護衛担当が騎士舎で寝ているのを見てこれはチャンスかなと思って来てみました」

「寝てる?」

 そんなに俺の警護は甘いのか。色んな意味で衝撃だった。

「そうなんですよ。数か月前に夜の担当になった護衛がさぼり癖があるらしくて。もっと早く知っていればもっと早く来られたんですけど。すみません」

「い、いや。お前が謝ることじゃないだろう」

「それよりほら!」

 よく見たら、オルランドの足元に木箱があった。

 開けると、中にはドライフルーツや干し肉、日持ちしそうなお菓子等が入っていた。

「いつまた夜来られるか分からないんで、なるべ日持ちするものを持ってきましたよ」

「食べても?」

「これは、私が来られない時の為にどこかに隠しておいてください。今日はこっちです」

 ジャーンと効果音がしそうな勢いで木箱の横に置いてあった紙袋を俺の目の前に掲げた。

 受け取り、中を見ると、両手で持っても零れ落ちそうなほど大きなビーフサンドウィッチと、氷まで入ったたっぷりのリンゴジュースだった。

「それ凄いでしょう。騎士舎名物ジャンボサンド、さあ召し上がれ」

 たまらずかぶりついた。


 最初の2,3口目まではお腹がすき過ぎて味が分からなかった。

 4口目くらいから美味しいと感じるようになった。

 10口目くらいでそろそろお腹が膨れてきた。

 

 なのに、サンドウィッチがまだ残っている!

 

 今までお腹が一杯になるまで食べ物が残っていたことなんて無かったのに。

 

 オルランドがハンカチで俺の目の周りを拭いた。

 いつの間にか涙が溢れていたらしい。

 気づくともう止まらなかった。

「う、うえ、うぇあああああ~」

 

 俺は声を出して泣いた。

お読みくださりありがとうございます。


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