SS1.3 初めての贈り物
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翌日、いつものように自分のサイズに合わないダボダボの服を着て、窓際で本を読んでいたら、オルランドがこっそり部屋に入ってきた。もう一人の護衛が休憩に入り一人になったタイミングを見計らってきたらしい。
気づかないふりで、あえて放っておいた。
さて、どう出るか。
オルランドは俺のそばまでくると、観察するようにこちらを見ろしてきた。
俺は目一杯おびえた表情で、本の上から少しだけ顔を出し、オルランドを見上げた。
「あ、怖がらせるつもりはなかったんだ。ごめん、ごめん」
本当に慌てたように両手を振りながら後ずさった。
「朝ごはんは食べた?」
俺はそれに軽くうなづく。
「それは良かった。たくさん食べてもっと体に肉をつけないとね。これ、庭になっていておいしそうだったから。どうぞ」
オルランドは俺の手を持つと、リンゴを乗せてくれた。つやつやとしていて、確かにとてもおいしそうだった。見ているだけでよだれが出てくる。
そういえば新鮮な果物を見たのはいつぶりだろう。
「細いな……あなたは……、いえ。すみません。お名前を伺っていませんでしたね。お伺いしても?」
「皆はアノニマスって僕のことを呼ぶよ」
「アノニマス(名無し)……」
オルランドは考え込んでしまった。そりゃ、誰でもアノニマス(名無し)なんて言われたらとまどうだろう。
誰も名前を付けてくれなかった。勝手につけて罰せられると怖いと思ったのか、いつの頃からか俺の事を話す時は「アノニマス」と言うようになった、と元侍女が言っていた。
オルランドは思案顔を隠し、笑顔を俺に向けた。
「私の祖父の国では【アノ】は「唯一の・特別な」と言う意味があります。これから二人の時は、あなたのことを「アノ様」をお呼びしてもよろしいでしょうか?」
「……勝手にすれば」
そっけなく応えてしまった。
いけない。地が出てしまった!
そんな俺をオルランドは優しく見つめ、頭をなでた。
なんだか目の奥がヅキヅキする。
「もうそろそろ行かなければ。また来ますね」
オルランドが部屋から出ていくまで、出て行ってからも、ずっと顔を本にうずめて動けなかった。
次の日も同じような時間帯にオルランドは来た。
ちょうど11時前後に片方の護衛の休憩が入るらしい。通常だと休憩中は代わりの者が来るものだけれど、俺は捨てられた王子。そこまで人員を割けないのだろう。
「こんにちは、アノ様」
俺は今日も窓辺で本を読んでいる。当然顔を上げない。
「今日はアノ様にプレゼントがあるんです」
そういってオルランドは、懐から小さな本を取り出した。
「どうぞ」
俺はしばらくその本を見つめた。
なかなか受け取らない俺を見かねたのか、オルランドは俺の手を取り半ば強引に手渡してきた。
いつも届けられる本に比べ、紙の質は悪く表紙もペラペラだった。タイトルには「体術指南書」と書いてある。
「アノ様は本ばかりを読んで、体を動かしていないように見受けられます。部屋の中でもできる体術書をお持ちしました。私も子供の頃この本で習ったのですよ」
ペラペラとめくると、真新しい書籍に見えるけれど、ページにはめくった時にできる折り目ができ、ところどころ線やメモがしてあった。閉じると、裏表紙に「アノ」と書かれていた。
「私が教えられたらいいのですが、時間が限られていますし。一応大切な個所に印をしましたので、見ながらやってみてください」
「なんで……」
なんで、俺にこんなことしてくれるの? 何の得があって?
俺の疑問を勘違いしたらしく、
「いつか外に出られた時、思いっきり走れるよう体力を付けましょうね」
そういうと、俺の笑って頭をなでた。
その手はゴツゴツとしていて温かかった。
オルランドが去った後、改めてもらった書籍に目を通してみる。
そういえば、オニイサマからのおさがりに、体術関係の書籍は無かった。多分そっち方面は好きなのだろう。
今まで7年間全く運動をしてこなかった。同い年の兄のおさがりの服と自分を比べてみても、明らかに俺の方が小さい。
まずは基礎的な体づくりか。
「腕立て伏せ? ……やってみるか」
書籍通りにうつ伏せになり、両手で体を持ち上げ……られない。1㎜も持ち上がらない。
「……これならできるかな」
今度を仰向けに寝て、お尻を持ち上……がらない。
次の日、オルランドが部屋に入ってきた時、僕は窓辺で膝に顔をうずめて座っていた。
「どうされましたか?」
オルランドは、自身も身をかがめ、今日も俺の頭をなでた。
それ、なんだかムズムズするから止めて欲しい。
オルランドは俺のそばに開いたまま置いてある体術書を持ち上げた。
「ああ、なるほど」
納得したような顔をすると、オルランドは、
「少し一緒にやってみましょう」
と言って、俺を立ち上がらせた。
「これになんの意味があるんだ」
俺は軽く体をほぐす運動をさせられた後、部屋の中をオルランドと一緒に早歩きで歩いている。
ちなみにおびえるふりも止めた。こいつと接していると、演技が馬鹿らしく思えてきた。
べつに本性がばれてもいいや。何を失うわけでも無いしな。
「まずは基礎体力をつけましょう。ほら手が下がっていますよ」
「くそ」
腕を大きく振って、足幅を広く、早足で歩く。部屋が狭いのであっという間に一周できてしまう。
かれこれ5周くらいはしただろうか。
動物図鑑に載っていた、ハムスターが滑車をクルクル永遠に回し続ける図を思い出していた。
あからさまにぶすっとしていると、上から忍び笑いが聞こえてきた。
「そういう顔もするんですね」
キッっと睨んでやった。
「私はもう行かなくては。アノ様はあと5周歩き、最初にやった体をほぐす運動をして終わらせてくださいね」
「え、ちょっと……」
部屋を出ていこうとするオルランドに声をかけようとしたら、
「あ、そうでした。渡し忘れる所でした」
オルランドは懐からまた何かを取り出した。
「その服だと動きにくいでしょう。これをどうぞ」
俺に何やら布を手渡すと、今度こそ本当にさっさと出て行った。
開くと、華美な装飾がない着心地の良さそうな朝のシャツとズボンのセットだった。
袖を通してみる。
ぴったりだった。
俺は頭に手を置き、ため息をつくと、早歩きと体をほぐす運動を一人で終わらせた。
お読みくださりありがとうございます。
昨日スイートポテトをジャガイモで作ってみました。美味しかったです。
芋は偉大です。




