SS1.2 オルランド=マルトスという男
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侍女が俺について、そろそろ4年。当初はひょろっとした、そばかすの浮いた顔が純朴そうな少女だったが、仕事もせず俺の食事を食べまくった結果、ブクブクに肥え、態度も大柄になっていた。まだ10代後半だろうに、腹だけ中年の貫禄がある。あいかわらず侍女としての仕事は放りなげ、今日も俺のおやつを食べながらくだらない話に興じている。
「今日の新しい護衛すっごいタイプ。帰る時話しかけてみようかな。隣の気難しそうな護衛いなくなってればいいのに、でも……」
特に殴ってくることも無いし、こいつのおかげで言語を習得できた。たまにストレス発散か、ヒステリックに罵声を浴びせてくることはあったけれど、それだけだ。
俺にとっては、ある意味良い侍女だった。
でも、もういらないな。
こいつは業務終了間際まで、物言わぬ俺を相手に好きなだけしゃべり倒すと、自分で平らげた皿を持って扉を叩いた。
外から護衛と言う名の監視が鍵を外して扉を開いた。
俺が反抗したことがないからこいつも油断したんだろう。扉を開けたまま、新しい護衛とやらに色目を使って話しかけている。
その隙をついて、俺はできる限りの悲痛な顔をして、護衛の前に走り出た。
「た、助けて…くだ……さい。何でもします。ご飯を食べ…させ……て」
人に自分から話しかけたのは初めてだ。おかげでいい具合に自然とかすれ声が出た。
「なっ! さ、先ほど食べたではありませんか」
こいつは慌てて取り繕う。
「ヒイッ! ごめんなさい。許してください。殴らないで」
俺は怯えたふりをして体を小さくして震わせた。
「何を言ってるの!」
ヒステリックに叫び、瞬間手に持っていたカトラリーが床に落ちた。
「ヒイイ!」
殊更怯えたふりをする。
こいつが虐待しているように見えるように。
こいつ曰く気難しい護衛がこいつの腕をつかんだ。
「話を聞かせてもらおう」
「な、何を言っているんですか! 全部こいつの狂言です!」
「王勅命の保護者をこいつ呼ばわりか。年々肥えて来たとは思っていたが。まさか保護者の食事を盗んでいたとは。不敬罪に値する」
王勅命の保護者……、侍女は俺が王子だと知っていたが、護衛には王子とは知らされていないのか。かなり俺の出生は秘密にされているらしい。
「ご、誤解です!」
まあ、ブクブクのこいつとガリガリの俺を見比べても真実は明らかだ。
「黙れ! 全て報告させてもらう」
「痛い! 何するのよ」
「大変失礼いたしました。新しい食事をお持ち致しますので、部屋に入ってお待ちいただけますでしょうか」
「うん」
「おい、これを侍女長まで連れていく間、ここを任せた」
「は!」
「私は何もやってない!」
ぎゃんぎゃん叫ぶ声が廊下に響き渡り続けた。
バイバイ。お前の幸せを願ってるよ。
無理だろうけどね。
「では部屋にお入りください」
「うん」
普段他の護衛はそのまま鍵をかけてしまうのだけど、この新人護衛は一緒に中へ入ってきた。
「?」
そのまま部屋を見回している。
スカイグレーの髪を腰のあたりまで伸ばし、1つに結んでいた。年は20代前半くらいだろうか。ダークグレーの目が綺麗だと思った。
なるほど、元侍女が騒いでいただけある。なかなか爽やかな甘いマスクをしている。
かわいそうに。俺の護衛なんて。出世コースを外れたんだな。
「掃除が全くされてませんね」
新人護衛はケホケホと咳をして、窓を開けようとした。
「え、開かない?」
窓は固定され、割らない限り出られないようになっていた。
いくら今日が初日とはいえ、何も聞いてないんだな。急遽休んだ奴の代行かもしれない。
「普段外へはどうやって行かれるのですか?」
ここはどう答えるのが正解か?
正直に話してみるか。
いや。信用ならない。ここから逃げ出す意思があるかどうか探りに来たのかもしれない。
もし見た目通りちょろい奴だったとしても、上に報告されでもしたら、今の環境が改悪されることはあっても、改善させることはないだろう。
ここは……、
「お願いです。黙っていてください」
無垢なおびえる少年で行こう。
「だが……」
俺は悲し気に首をふるふる振った。
「……!」
勝手に察してくれたらしい。これ以上このことに関しては何も言わなかった。代わりに、
「あなたのお名前を伺っても?」
どうしたものか。さすがに名字は言うべきではないだろう。では名前は……。
「どうしましたか?」
逡巡していると、俺が恥ずかしがっていると思ったのか、片膝をついて、俺の手を握った。
「私の名前はオルランド=マルトスと申します。今日からこちらに配属になりました。よろしくお願いします」
屈託のない笑顔で笑った。
名字があるということは貴族か。
俺に近づいてくるなんて、何か魂胆でもあるんだろうか。
でも、
こんな笑顔を誰かに向けられたのは初めてだった。
変な奴。
「もうそろそろ持ち場に戻らなければ。またお会いしましょう」
そういって扉から出て行った。扉を閉める前に、
「鍵を閉めるのは心苦しいのですが……」
と謝りながら鍵を閉めた。
本当に変な奴。
お読みくださりありがとうございます。
今日ジムで15分走れました。明日は16分目指してみたいと思います。




