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39.もしかしたら

お越しくださりありがとうございます。

 私はそれから毎日レンの元を訪れ、看病をしました。

「お嬢様にそんなことはさせられません」

 当初サラ=アンや他の侍女たちは、私を必死に止めましたが、

「ごめんなさい。でも何かしていないと不安に押しつぶされそうなの」

 そういう言うと、困った顔をしながらも少しずつやり方を教えてくれました。


 浄化魔法石を使用して体を清めていきます。

 浄化魔法石で上からなぞると、着ている服ごと身体が浄化されました。

 なんて便利なのかしら。

 定期的に体の向きを変え、手足のマッサージを施します。

 最初全く力が入らなかったのですが、レンの看病をしているうちに、大分マッサージらしくなってきました。

「お嬢様、大分上手になりましたね」

「ふふ、ありがとう」


 すべての作業が終わると、私は皆にお願いしました。

「少しレンとお話させてね」

 それを合図に、サラ=アン含め侍女たち全員外に出ていきます。今は部屋にレンと私の二人きりです。


 これは、看病を始めた初日に私からお願いしたことでした。

「少しの時間でいいから、レンと二人きりになりたいの」 

 誰も異を唱える者はいませんでした。

 それ以来少しの時間レンと二人きりで過ごすのが日課になりました。

 

 皆がいなくなるのを確認し、ベッドわきの椅子に腰かけると、レンの手を両手でギュッと握り祈りました。


 レン、目を覚まして。

 

 私は祈りながら、先日の主治医達との会話を思い出していました。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「まず、あの量の土石流に押しつぶされ、原型をとどめているだけでも奇跡です」

 あの時は夢中で考えもしませんでしたが、確かにあの土石流の下であの程度で済んだのは奇跡としか言いようがありません。

 もしかしたらと想像するだけでもぞっとします。

「他にも、ラジヴィオラ公爵子息様の体に数か所、何者かに切られてような刀傷がありました。特にひどかったのが肩から胸にかけて切られた傷です。公爵子息が倒れていた所にも大量の血が流れた痕があったとの事ですので、致命傷レベルのケガなのは間違いありません」

「そんな……、ではレンは……」

「いえ、それが不思議なことに全ての傷はふさがっていました。現在治癒魔法を使える聖女様はこの国にはいないはずなのですが……」

 私の魔力を、シロを通してレンに送って治癒したのよね。それって誰にでも使える魔法ではないのね。

「例外もなく聖女様以外に治癒魔法は使えないんですの?」

「さようでございます。というより、治癒魔法が使えた時点で聖女様として認定されます。もしかすると、あの場に光魔法を発現したばかりの者がいたのかもしれません」

「セリーヌちゃん、あなた魔力が解放されていたけれど、もしかして……」

 ここはどう答えるべきでしょう。正直に答える?

 でも、たしか聖女認定されると、光の神殿に連れていかれ一生そこで過ごすことになるとか聞いたような……。

 私が答えに窮していると、

「まあ、それは適性診断を受ければ分かることだ。それにあの場にはタレンツィオ君が助けた少年と、あと村の少女がいたのだったかな」

「はい。ガイナス騎士団長からの報告によりますと、10歳前後と見られる村の少女が迷ったらしく森の中にいました。現場とも近かったため、団員が村まで直接送り届けたそうです」

 父の言葉に、素早く父の侍従セバスチャンが答えました。

「少年も10歳前後だったし、あまり関係ないかもしれないが、聖女だった場合、色々手続きが必要になる。村の少女共々一応確認しておいてくれ」 

「承知しました」

「他に報告は?」

「実は、ラジヴィオラ公爵子息様が倒れていた箇所の他にも2か所ほど血だまりができていました」

「それは、まさかレンの?」

「いえ。場所や量から言って、違う者の血でしょう。あれだけの量ですと死んでいるか、生きていても動けない程の重症だと思うのですが……」

「なんだ?」

 お父様が続きを促します。

「そういった人物は見当たりませんでした。おそらく味方が連れて森を出てしまったのでしょう」

「ラジヴィオラ公爵子息を襲った輩だ。慎重に調査を進めろ」

「承知しました」

 一礼すると、セバスチャンはすぐに部屋を出ていきました。

「レンが助けた男の子は無事でしたか?」

 今まで怒涛の展開で聞く暇がありませんでした。

 でも、レンが身を挺して助けたのだもの。無事であって欲しい。

「体の方は無事だそうだよ。ただ……」

「ただ?」

「自分のことは名前以外何も話さないそうだ」

「お名前をお聞きしても?」

 お父様は何か書類を確認しながら答えました。

「彼は……、オルランド=マルトスだ。マルトスは土の国クレイドに多い名字だね」

「クレイド国……そういえばレン達は崖の無い所で土砂に埋もれていましたね』

「ああ、大いに関係がありそうだ。タレンツィオ君の切り傷も、この少年に関する者による犯行かもしれない。彼については既に調査を始めている」

「狙われていたかもしれないのですよね? 大丈夫なのでしょうか」

「念のため厳重な警備の元、ガイナスに身柄を一任してある」

「一度オルランド様に合って事情を……」

「セリーヌ、お前は目覚めたばかりだ。今は安静にし、事情聴取は他の者に任せなさい」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 そうしてこの日は、またほぼ強制的にベッドに横にさせられ、会話は終わってしまいました。

 もっと聞きたかったのに。


 これも何か乙女ゲームのシナリオなのかしら。

 でもまだゲームがスタートするには役者がそろっていない気がします。

 何か私が知っていれば、レンがこうなる前に事前に防げたかもしれないのに……。


 それに、

 もしかして私は聖女かもしれない。

 

 あの時、私の命令で、私の魔力を使用してシロがレンを生かしました。

 まるで聖女のように。


 どうか、私よ聖女であれ。


 もし私が聖女ならば、魔力を注ぐことによって、レンは目覚めるかもしれない。


 お願い。レン、目を覚まして。


 私は祈りながらレンの手を握り続けるのでした。

お読みくださりありがとうございます。

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