36.助けて
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「冷たい……」
私はレンの手をこすり温めようとしました。
「大丈夫。もうすぐ助かるから。大丈夫」
「お姉さぁん、もうその人助からないよぉ。命と体を繋ぐ線がもうすぐ消えるよぉ。もう一人の男の子は今この土をどかせば助かりそうぅ。よかったねぇ」
「何が良かったですか! レンが死ぬはずがありません! また王都で逢う約束をしたんですから」
「ふぅん。それよりお腹すいたよぉ。お姉さぁん、おやつ持ってないぃ?」
「さっき何でもしてくれるって言ったでしょう。レンを助けて。そうしたらおやつ好きなだけあげるから!」
私は動かないレンの腕を少しでも温めようと抱きしめました。
「本当ぉ?」
「おやつでもなんでもあげる! 早く! レンを助けて」
私の必死の願いが届いているのかいないのか、白ネコは私の周りを回りながら匂いを嗅ぎ始めました。
「くん。くん。お姉さんなんだか美味しそうな匂いがするぅ」
この子のおやつってもしかして魂?
それでも……。
「それでもいい! 私の命だってあげるから!」
「えぇ~怖いなあぁ。命なんかいらないよぉ。僕が食べたいのはお姉さんの魔力だよぉ」
「あげる。あげるから早く食べちゃって!」
レンの腕に全然体温が戻りません。
早く。早くしなくちゃ。
白ネコののんびりした話し方にも苛立ちがつのります。
もう、ネコでもネズミでもいいから、お願い。レンを助けて。
「やったぁ。じゃあ僕と契約ねぇ。ねぇ、僕に名前つけてよ」
「今じゃ無ければいけませんの?」
「名前つけてもらわないと契約できないよぉ」
なんでこんな緊急事態にネコの名前を付けなければならないの。
「へへぇ。格好いい名前つけてねぇ」
頭は真っ白でこれしか浮かびませんでした。
「シロ! あなたの名前はシロよ!」
「えぇぇ! やだあぁ。もっと格好いい……あっ」
白ネコの体が光り、私に繋がりました。
その瞬間、私の中にあった栓のような物がポンっと取れ、色々な物がぶわっと私の中を駆け巡ります。
その中には、私のセリーヌ=マクラインとして生きてきた14年間の記憶もありました。
まだ幼い日々の事、レンと初めて会った時の事……。
全て思い出しました。
ああ、レン。愛しいレン。
なんでこんなに愛しい記憶を忘れてしまっていたのでしょう。
しばらく記憶の波に翻弄されていると、
「あぁんもうぅ~。シロで契約されちゃったよぅ」
白ネコ改め、シロの泣き言が聞こえてきました。
今は思い出に浸っている場合ではないわ。
「無事レンが助かったら、じっくり名前を考えて差し上げます! だからお願い早くレンを助けて」
「約束だよぉ。格好いいの付けてよぉ」
「分かりましたから。まずはこの土砂をどかしてください」
「いいよぉ」
私の焦りと反比例するかのように、シロはのんびりと答えました。
ああ、お尻を叩いて「さっさとしなさい」と怒鳴りたい。
そんなことを考えていたら、シロがトトトっと私に近づいてきました。
「早速お姉さんの魔力いっただきまぁすぅ」
私の中から白い光がシロに向かって流れていきます。
「思った通り美味しいぃ~♪ それじゃぁ~いっくよぉ」
シロは体をぶるっと震わせ丸くなると、遠吠えをするようなポーズで一気に光を放出しました。
光は土砂を囲み、ふわっと持ち上げるとそのまま横滑りに移動して、またふわっと地面へ着地しました。
「レン!」
土砂からは、レンとレンに抱えられた黒いフードを被った男の子が出てきました。二人の下には血だまりができています
私は急いでレンに駆け寄りました。
レンが抱えている男の子は気絶しているだけらしく、呼吸するたびに肩が揺れていました。
レンは……。
動かない。
頬を叩いてみますが、反応がありません。
「シロ。早くレンを助けて!」
「さっき思ったより魔力使っちゃったぁ。お姉さんの今の魔力じゃぁ足りないやぁ」
「そんな……」
私は自分の手の平をレンに当て、魔力を直接注げるかやってみました。
実際に注げているかは分かりませんが……。
でも、もしかしたら……。
「たった今魔力の栓取れたばっかりのお姉さんに、魔法はむりだよぉ。それにお姉さんは……」
「でも、何もしないとレンが死んじゃう」
私は令嬢にあるまじき、涙と鼻水でぐちゃぐちゃの姿で、レンに魔力を注入し続けました。
レン、動いて!
レンはピクリとも動きませんでした。
肌も唇も生気が全くありません。
いやだ!
私はレンの唇に私のそれを重ね、人工呼吸で魔力の注入を試みます。
触れたレンの唇は、氷のように冷たく硬く、蝋人形のようでした。
「レン。私のレン。起きて。私記憶が戻ったのよ」
今朝、屋敷を去った時のレンの姿を思い浮かべます。
まさかあれが最後になるなんて。
「そんなの嫌よ。レン。起きて。レン」
それでもレンは全く反応しません。
「レン、愛してるわ」
もう一度、今度はそっと口づけを落としました。
「レン……うっ、うっ、うっ……わあああああ」
私はレンの胸に縋って、泣き崩れました。
お読みくださりありがとうございました。
最近雨の予報で洗濯物を干せずにいますが、そこそこ天気のいい日が続いています。
明日から7月ですね。1か月お付き合いくださりありがとうございました。
来月からもよろしくお願いします。




