34.森へ
お越しくださりありがとうございます。
今日も良い日でありますように。
私は今、降りしきる雨の中、馬車に乗って森に向かっていた。
「レンは森にいるわ!」
「セリーナ様、根拠をお聞かせ願っても?」
「昨晩レンは私の好きな実のなる森を通ると言っていたの」
「なるほど……。ただ、雨の中森を通るのは大変危険な行為です。雨は瘴気を濃くし、魔物を呼び寄せます。川を渡った直後に雨が降ったことを考えると、進路変更をした可能性も十分にあるかと」
「でも……」
なんとなくだけど、レンが進路を変更する姿がイメージできなかった。
逡巡していたら、お父様が助け船を出してくれた。
「では隊を2つに分け、1隊はガイナスの指揮で森へ、もう1隊は副団長ユリナスが率いてもう一つの道を調べろ」
お父様が号令をくだします。
「私も連れて行ってください!」
「だめだ。危険だ。屋敷にて待っていなさい」
「でも! レンと連絡を取れるのは私だけです。もし森の奥に迷い込んでいて、私にヒントを送ってきたら? ここで待っていては間に合いません!」
「しかし……」
「お父様!」
「……ガイナスの指示に従い、危険に近づかないと約束できるかい」
「はい。誓いますわ」
お父様は大きなため息をつきました。
「ガイナス、セリーナを頼んだ」
「承知いたしました」
「お父様、ありがとうございます」
「自分の身を一番に考えるんだぞ」
「ありがとう、お父様」
私はお父様に礼を言うと、すぐにサラ=アンに手伝ってもらい、動きやすいドレスに着替え、サラ=アンと二人で馬車に乗りこみました。
雨は大分小雨になって来ています。
馬車の中で何度かレンにメッセージを送ったけれど、アクアマリンは一度も光りませんでした。
大丈夫。レンは大丈夫……でももしかしたら……。
「お嬢様、タレンツィオ様はお強い方です。きっと大丈夫ですわ」
サラ=アンは強く握りしめすぎて冷たくなっていた私の手をほどきました。
「そうよね。レンならきっと大丈夫……」
走り始めてそろそろ1時間が立とうとしています。
もうそろそろ森に着くころかしら……。
ドントン。
馬車の窓が叩かれる音がし顔を向けると、騎士団長ガイアスがいました。
「セリーナお嬢様」
窓を開けると、大分雨脚は弱まったとはいえ、馬車の中に雨が一気に入ってきました。
「レンが見つかったの?」
「いえ」
私のあからさまな落胆の顔を見て、慌ててガイアスは付け加えました。
「ですが、先発隊から、森の入り口でラジヴィオラ公爵子息の乗っていた馬が見つかったとの連絡がありました」
「レンはいなかったの?」
「はい。馬は繋がれていたようなので振り落とされた訳ではないようです。森の奥に入った痕跡があるか確認中とのことです」
「そう。あとどれくらいで着きそう?」
「あと20分ほどで森の入り口に着くかと思われます」
「分かったわ。なるべく急いで頂戴」
「はっ」
ガイアスは隊の先頭に走って行ってしまいました。
やっぱりレンは森の道を選んでいた。
もし別の道だけを選んでいたらと思うとぞっとします。
でもなぜ馬を置いてレンは森の奥へ入って行ってしまったのかしら……。
レン、無事でいて。
ほどなくして、レンが馬を繋いでいた地点まで隊が到着しました。
再度ガイアスが声をかけてきました。
「お嬢様、到着しました」
「何か進展はあって?」
「入口近辺は雨で痕跡は全て流されているのですが、奥の雨があたらない場所で、複数の新しめの足跡を見つけました」
「複数? ではレンは盗賊に遭遇したという事?」
「馬が無事なので、盗賊とは限りませんが。ラジヴィオラ公爵子息からの連絡が無いという事は限りなく危険な相手とみるべきでしょう」
危険な相手。そんな者たちをレンは一人で相手にしているの?
全身から震えが止まりません。でも今それを見せるわけにはまいりません。
両手を膝の上で組み、震えを抑えるため爪を手の甲に付きたてました。
「承知しましたわ。また何か分かったら知らせて頂戴」
「はっ。我々も今から先発隊に加わって調査をしてまいります。何名かは護衛で残していきますが、もし何かございましたらこちらのベルを鳴らしてください」
それは、図書室で司書さんが渡してくださった音が遠くまで響くベルでした。
「分かりました。私は馬車の中で待機していますわ」
窓が閉まり、しばらくするとガイナスの号令と草を踏み分ける足音が聞こえ、徐々に小さくなっていきました。
雨は大分止んできました。
レンからメッセージは来ません。
私が森にいると知ったら、場所のヒントを教えてくれるかもしれない。
再度レンにメッセージを送りました。
「モリニツキマシタ(森に着きました)」
そのまま魔法石を握りしめました。
ビカッー
アクアマリンが光りました!
「来た!」
レン! 手が震え、魔法石を落としそうになります。
サラ=アンが支えてくれました。
セリーナ、落ち着いて。落ち着いて。
「セリーヌ=マクライン」
急いで暗号を唱えます。
「セリーヌ」
それだけ?
ドンッ!
グワッシャアァ!
バキバキバキ!
メキッ!
バアァーーーーン!!!
直後、爆音が辺り一面に響き渡りました。
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今猫が、ありえない姿で寝ています。すごく寝心地割るそうです。




