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31.出立の日

お越しくださりありがとうございます。

レン、やっと出立しました。

 ベッドサイドに置いてある送受信用魔法石を持って部屋を出ます。

「それも持って行くんだ」

「うん。持っているとなんだか落ち着くの」

 レンはポケットをまさぐり、巾着袋を出し、自分用のを取り出しました。

「実は僕も」

 今度レンとおそろいの巾着袋を作りましょう。


 朝食を食べたら、早々にレンは出立することになりました。

 暗くなる前に次の目的地まで行くにはもう出なくてはならないそうです。

 私の為に出立を遅らせたから、一日の移動距離がかなり長いのね。


 エントランスにマクライン家総出でお見送りをします。

「セリーヌ、また王都で会おう」

「レン、お気を付けて。これ、お弁当です。しっかり休憩取ってくださいね」

「ありがとう」

「……」

「……」

 言いたいことはたくさんあるのですが、口にする前に消えてしまいました。

「あ……」

「そろそろ出ないと、暗くなる前に目標の町まで行けないんじゃないかな」

 ……お父様、馬に蹴られますわよ。

「じゃあ、そろそろ行くよ」

 レンは苦笑しつつ言いました。

「じゃあねセリーヌ」

 レンは馬にまたがり、エントランスへ向かいました。


 またね、レン。


 あら? レンが引き返してきます。何か忘れ物でしょうか?

「レン、何か忘れ物?」

「大切なことを言い忘れていたよ」

「大切なこと?」

「メッセージ、毎日送ってね」

「もちろんですわ」

 レンは、ほっとした顔で背を向けました。

 と、すぐに戻ってきて、

「あ、それと……」

「ラジヴィオラ公爵子息、早くお行きなさい」

 お母様の笑顔の威圧、さすがです。

 ああ、また売られていく子牛が見えますわ。


「ああみえて、タレンツィオ君、とても優秀なのよ。セリーヌさえ関わらなければ」

 私の横に立っているお母様がため息交じりに言いました。

 たった3日ですが、それはすごく伝わりました。

「ええ、知っていますわ。お母様」


 途中まで売られていく子牛だったレンは、途中から気持ちを切り替えたのか、ものすごいスピードで去っていきました。


 さようなら、レン。


 もうすでに寂しいわ。


************************


 なんて思っていたことがありました(数十分前ですが)。

 デジャブですわ。


 レンと別れて5分後。魔法石のアクアマリンが光りました。

 応接室に家族と座り、侍女がお茶を用意してくれているのを待っている間の事でした。

「早っ!」

 もしかして故障かしら。こんなに早く来るはずないわよね。

「お姉さま、何を見ているんですか?」

 ロバートの声に、お父様、お母様もこちらを向きました。

「実は……」

 レンが私と連絡を取るために頑張って作ってくれた通信用魔法石、少し自慢を込めて家族に説明しました。

「うわぁ……」

 ロバート、なぜ引いてるの?

 お父様もお母様も思っていたのと違う反応だけど、どうしてかしら。


 世紀の杯発明だと思うのだけれど。

 なぜか皆どん引いた格好で固まっています。


「執念がすごいな」

 お父様、何かつぶやきまして?

「と、取り合えずメッセージ? 私たちにも聞かせて頂戴な」

「もちろんですわ。お母様!」

 あ、愛のささやきとかだったら恥ずかしいですわね。

「先に一人で確認させてくださいませ」

 私はテラスに出てこっそり合言葉を唱えました。

「セリーヌ=マクライン」

 自分の名前ってなんだか味気ないわね。後で替えましょう。

「マチニツイタ(街に着いた)」

 これなら聞かせても大丈夫そうですわね。

「レンからこんなメッセージが来てました」

 先ほどのメッセージを家族に聞かせます。

「まあ、本当に魔法石から声が聞こえるわ」

 ね! すごいでしょうお母様。

「え、街ってただ坂を下りただけ……」

 マクライン家は少し小高い場所にあります。確かに屋敷から見た街は坂を下りてすぐでしたわね。

「あ、また光ってる」

 確認します。

「マチノナカキタ(街の中来た)」

「まあ、時間的にそうでしょうねぇ……」

 なぜ私がいたたまれなくなっているのでしょう。

 

 お茶が来るまでに後2件メッセージが来ました。

 お茶が来る直前のメッセージが、

「セリーヌノモキキタイ(セリーヌのも聞きたい)」

 でした。

 送りたいのはやまやまですが、レンからのメッセージが早くて返信しきれません。 

 それでも必死で、光るアクアマリンを横目に急いでメッセージを打っていたら、家族が心配そうな顔で見つめていました。

「セリーヌ、本当にこのまま婚約続けて大丈夫かい?」

「お姉さま……」

「セリーヌちゃん……」  

 愛されていて幸せねと祝福されるのならともかく、なぜそんな顔をされるのでしょう?

 解せません。


 こんな調子がずっと続いています。

 家族とのお茶会の間中アクアマリンは光り、都度私が返信しようとしていたので、

「セリーヌちゃん、お茶会の時は受信魔法石しまいなさい」

 と怒られてしまいました。

 私ったら中学生のようですわね。

 あ、そういえばまだ14歳でした。


 お茶会の後、お父様は仕事に、ロバートは剣術の稽古に出かけました。

 私はこのままお母様と残り、刺繍を教えてもらうことになりました。

「お母様、できました」

「どれどれ」

 自分の刺繍を置いて私のを見たお母様の美しい眉間にしわが寄りました。

「これは……、ごめんなさい。何を塗ったのか教えて?」

 なんかすみません。

「……「レン」と縫いました」

「あ~、そ、そうね。ここら辺のカーブなんて斬新的な縫い方でいいわね」

 やはり美術関係は壊滅的なようです。

 しゅんとしょげていると、お母様が私の手に自分の手を重ね、優しく微笑みました。

「あなたは、そうね。タレンツィオ君と出会ったころからかしら。色んな事に取り組みだしてね。ダンスも教養もマナーもめきめき上達していったのよ。それはもう王子殿下との婚約を打診されるくらいね」

「え、そうなのですか?」

 王子殿下との政略結婚など、それこそ悪役令嬢まっしぐらです。

「ええ。でもタレンツィオ君のさくりゃ……ん、ん……。あなたとタレンツィオ君の絆がとても強くて、この話は流れてしまったのだけど」

 お母様、なんか言い換えました? 

「そんなあなただから、母として教えられることが何にもなくて寂しかったのよ」

「お母様……」

「だから、あなたに刺繍を教えることができて嬉しいわ。これからビシビシ鍛えて差し上げますからね」


 お母様の娘で良かったなあと改めて思いました。

お読みくださりありがとうございます。

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