25.今度こそ
お越しくださりありがとうございます。
セリーヌとレンの二人芝居のようなやり取りをご覧ください。
昨晩と同じ本を開き文字を見てはいるのですが、全く頭に入ってきません。
レンも私と同じね、ページをめくる音が隣から全く聞こえて来ない。
私の神経は右側に全て集中しています。
私の右の人差し指とレンの指先が少し触れただけで、触れた所から電流が体中駆け巡ります。
「セリー……」
「失礼いたします」
司書さんが何やらかなり分厚い封書を掲げて立っていました。
先ほどまでの甘い雰囲気が一気に霧散し、レンのどす黒いオーラに染められます。
「ひいいいい」
司書さん、最高にタイミング悪いですわ……。
「僕たちの貴重な二人の時間を遮ってまで何か御用かな」
「ひ……ひえっ……も、申し訳ございません。ラジヴィオラ公爵様より急ぎの封書が届いておりましゅっ!」
噛みましたわ。
司書さん、ほぼ地面すれすれまで頭を下げた格好のまま封書を高く掲げ、全身で震えていらっしゃいます。
「そこに置いて」
レンは首で出窓の空いているスペースを指しました。
「ひゃ……ひゃいい!」
……司書さん、噛んでいない方が少ない気がしますわ。
封書を置くと、そのままの姿で後ずさり、少し離れたところで姿勢を戻してダッシュで逃げ……去って行かれました。
「今朝も手紙受け取ってましたわよね」
レンは眉間にしわを寄せて封書を眺めています。
「今朝のは「早く帰れ」って言うプライベートな手紙だったけど、これは仕事に関する案件みたいだ」
「明日帰るのにですか?」
「少し離れただけで怠けていると思われるようだ」
レンの顔が少しゆがみます。
お父様のこととなると、あまりいい顔をしないわね。
そういえばお母様の話をまだ一度も聞いていないわ。聞いてもいいのかしら。
ううん。レンが話してくれるか、私の記憶が戻るまで待ちましょう。
レンは私が馬から落ちたと聞き、仕事を投げ出して来てくれました。
今朝のラジヴィオラ公爵公爵からの手紙からだけでも、それがどんなに大変な行動だったのかが分かります。
私はレンの手に私の手を添えました。
「レン、自分の立場が悪くなってしまうかもしれないのに、来てくれてありがとう」
「正直、君が馬から落ちて目を覚まさないと聞いたときは何も考えられなかった」
レンは笑って首を触っています。
照れた時は首を触るのね。記憶を失くす前の私は知ってるのかな。
知ってるよね。レンのこと、今の私よりももっと。
記憶を失くす前の自分に嫉妬に似た、もやっとした感情が沸き起こります。
それをレンはどう勘違いしたのか、
「ごめんセリーヌ。すぐに確認しちゃうね」
と、レンは封書を手に取り、封書に押してある封蝋を何度か押しました。
「オベリナント」
封蝋がポロッと取れ、封が開きました。
「今のは魔法?」
「ああ、これ? これも魔法石だよ。ほら」
落ちた封蝋を私の手に乗せてくれました。
封蝋と思ったのものは小さな魔法石でした。
赤く塗られており、魔法陣の書かれた円の上下左右に突起があります。
「防御魔法が施してあるんだ。事前に決めた順に突起を押して、それに予め付与した解除ワードを唱えると開くようになっているんだよ」
おお、暗号化システムですか!
魔法石に暗号を付与するとは画期的ですね。
……あら、今頭の中に何か一筋の光が見えたような気がします。
「レン、魔法石には暗号を付与することができるんですわよね」
「そうだよ」
レンは書類を確認する手を止めずに聞いてくれています。
「では暗号に音を持たせることは可能ですか?」
「ん? どういう事?」
レンは書類から目を離しました。
私の中では、前世で使用していた生活必需品が浮かんでいます。
でも使用していただけで、どんな仕組みかは全く分かりません。
どうにか形にできないかと、細かくレンに聞いていきます。
「え~っとですわね……。例えばですよ。くっつく性質の魔法陣の片方に暗号化した音を付与しておきます。暗号化した音だけをもう片方の魔法石に送り、合言葉を唱えることによって暗号から音が出るように設定したら、遠く離れていても会話ができるのではないかしら」
そう。電話です。
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