21.レンの回想②
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セリーヌとレンの幼少期のお話です。
レンから私との出会いを聞いていたら、サラ=アンが昼食の準備ができたと、呼びに来ました。
それにしても……。
「その怪しい侍女って、サラ=アンですわよね」
「ああ。あの当時はサラ=アンの事を知らなかったからね。本当に怪しかったよ」
サラ=アン、「それが何か」ってすました顔で立っていますけど、分かってますわよ。
「何度か同じ道を歩いた」って、絶対迷ってましたでしょう。
さすがドジっ子特性。
それよりも、なんだか気になるワードがたんまり出てきましたわね。
サラ=アンったらこの頃から支えるのが上手だったのね、とか。
8歳前後のご令嬢の皆様ませていらっしゃいますわね、とか。
……いえ、これらはそれほど重要ではありませんわ。
第一王子とそのお友達4人。
そう、これです!
5人それぞれ違う性格のイケメンハイスペック男子!
これは攻略対象者達にちがいありませんわ。
しかも将来の王太子の婚約者選びって……。
第二王子様の婚約者が悪役令嬢に違いありませんわ!
では、私はもしかして悪役令嬢の取り巻き?
もしそうなら、自分が悪役令嬢かしらと、主役級だと思っていたのは恥ずかしいですわね。
「セリーヌ大丈夫?」
頬を抑え真っ赤になっていると、レンが心配そうに下から覗きこんでいました。
キュンッ。
可愛い仕草に思わずときめいてしまいます。
「休憩もせず資料を探していたんだし、疲れたよね。抱っこして連れて行こうか?」
レンが早速私の膝裏に手を入れようとします。
これはいわゆるお姫様抱っこ?
「だだだ……だ、大丈夫ですわ! 一人で歩けます」
「そう……」
残念そうですわね、レン。
~レンの回想 続き~
「あ、僕の魔法石!」
君は僕の魔法石を大事そうに両手で持っていた。
「あなたの? はい、どうぞ。さっき庭で拾ったの」
「ありがとう。大事なものだったんだ」
「返せて良かったわ。もしかしてあなたも休みに来たの?」
ん? 君の侍女らしき人に連れてこられたんだけど、と思って辺りを見回したけれど、彼女は既にいなかった。
「あなたも座ったら?」
別に休みに来たわけではなかったけれど、会場へも戻りたく無かった僕は素直に君の隣へ座った。
「へへ~。私いいもの持ってきてるのよ」
はい、とハンカチに包んだクッキーを僕と君の間に置いた。
あ、オレンジクッキー。
「さっきね、美味しそうなお料理やお菓子がたくさんあったからお皿に取っていたの。そうしたら、とっても可愛らしいご令嬢が「こんな場所でお菓子をそんなに召し上がるのなんてはしたないですわ」なんて言うのよ。お茶会でお菓子食べない方が変じゃない?」
文句を言いつつ、令嬢を可愛いと褒めつつ、お菓子をパクパク食べる君がなんだかおかしくて、気づけば先ほどまでの不安も、会場で感じた息苦しさも消えていた。
だからかな少し油断していたんだ。
「ねえ、その魔法陣どんな効果があるの?」
君が僕の手の中の魔法石を指して訊ねてきた。
「これはね緊張をほぐす効果があるんだよ」
「へえ~。魔法陣の事よく分からないけど、とてもきれいな魔法陣ね」
「ありがとう。ここら辺とかちょっと苦労したんだけど……」
しまった! と思った時には遅かった。自分で描いたことをばらしてしまった。
魔法陣を描くのは職人の仕事であり、貴族がやるようなことでは無い。恥ずべきことだと両親や家庭教師に言われ続けた僕は、どう言い訳しようかで頭が一杯になってしまった。
でも、
「わあ、すごい!」
君から発せられたセリフは侮蔑でも上辺のお世辞でもなく、素直に称賛の言葉だった。
「これは職人の仕事であって貴族の仕事ではないから、おかしいとか思わない?」
「なんで? きっととても沢山練習して、これだけ綺麗な魔法陣を描けるようになったんでしょう? それは凄い事だよ。それだけ1つのことに夢中になれるのって凄く素敵!」
僕は涙が出そうになった。初めて認められた気がして。
「実は僕の将来の夢は魔法陣研究家なんだ」
「あなたにぴったりね」
彼女の言葉は嬉しかった。でも、
「僕が公爵家嫡男でも?」
試すようなセリフが僕の口からこぼれた。
きっと僕が公爵家の跡継ぎだと分かったら、彼女の見方もきっと変わる。そしてお茶会にいた令嬢たちのように媚を売り始めるに違いない、と。
「え? 公爵家の嫡男って魔法陣研究家になっちゃだめなの?」
「は?」
ぼくは素っ頓狂な声をあげてしまった。
「だって、公爵の仕事をしながら魔法陣の研究だってすればいいじゃない」
「でも貴族の仕事ではないから……」
「だったらあなたが変えたらいいじゃない。魔法陣の第一人者が公爵様って素敵! あ、逆かな公爵様が魔法陣の第一人者?」
目からうろこだった。僕にそんなことを言ってくれる子なんていなかったから。
今度こそ涙が止まらなかった。泣いたのなんて随分久しぶりの事だった。
「え、あっ、こ、公爵の仕事が嫌なら逃げちゃえばいいのよ! やりたいっていう子供探してきて養子にしてさ」
僕が、公爵の仕事を続けながら片手間で魔法陣研究家になればの提案に傷ついたと思ったらしい。君は僕の涙を自分のハンカチで拭きながら、そこそこ物騒な別提案を出してきた。
それが可笑しくって、涙は止まらないのに笑ってしまった。
「ありがとう」
「どういたしまして?」
なんでお礼を言われたか分からないのだろう。首を傾げている。
そのしぐさが、とても自然で裏表を感じなくて。
とにかく、とても可愛かった。
僕はつい見つめていたのを悟られないよう、そっと目線をクッキーにずらした。
「なんだかお腹が空いてきちゃったな。クッキー貰ってもいい?」
「もちろん。たくさん食べて」
君は聞きたいこともあったろうに、何も聞かずにもくもくと一緒にクッキーを食べてくれた。ほおばる姿も可愛い。
「僕、オレンジクッキー好きなんだ」
「私も、オレンジクッキーもオレンジジュースもそのまま食べるのも全部好きよ。一緒だね」
「うん。一緒だ」
そういえば、彼女からは爽やかなオレンジの香りがした。先ほど甘ったるい香水の波に飲み込まれ気持ち悪くなっていたから、彼女の香りにすごく癒された。
ずっと彼女の匂いを嗅いでいたい。
ずっと彼女とこの会が終わるまで一緒にいたい。
でも、もうそろそろ会場に戻らなければ。
自分でも自分のことはちゃんと分かっている。僕は優良物件の一人だから。今でも女の子たちが探し回っている事だろう。
2人だけの秘密の時間を誰かに知られたくなかった。
行かなくちゃ。
「もうそろそろ戻るよ。その前に名前を聞いてもいい?」
「セリーヌよ。あなたは?」
「僕はラジヴィオラ公爵家のタレンツィオだ」
「タレンテ……タレンツ……」
一所懸命発音しようとするけれど、僕の名前が言いづらいらしく何度も言い直している。
そんな姿も尊く、とても可愛い。
もうこのころには君に関しては「可愛い」の言葉しか出てこなくなっていた。
「レンでいいよ」
「レン! よろしくね」
可愛い!
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