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19/62

19.奥が深いですわ

お越しくださりありがとうございます。


のんびりレンとセリーヌの1日が過ぎて行きます。

ごゆっくりご覧ください。

 魔法陣コーナーへ着くと、司書さんは来た時の10倍くらいの速さで去って行きました。

 去り際、 

「御用の際はこちらのベルをお鳴らしください」 

 と魔法石が取っ手の上についた小さなベルを渡してくれました。

 試しに降ってみます。 


 ゴルゥーン! ガッラァーン!


 思った以上の音が出て、思わず耳を塞ぎました。レンが慌ててベルを床に置いて止めました。

「セリーナ、そのベルは風魔法石で、音が何倍もの大きさで鳴るようになっているから取り扱いに注意してね」

 あまりの大音量に声にできず、首を縦にブンブン振ります。

「お呼びでしょうかー!!」

 司書さんが慌てて戻ってきました。

 申し訳なかったですわ。



 魔法陣と一概に言っても色々ありました。

 同じ作用、例えば「物を風で浮かす」でも、時代や発明者が違えば魔法陣も違います。

「色々ありますのね」

「魔法陣も進化していくしね。発明者によってはよりシンプルな形にこだわったり、高さにこだわったり、持久力にこだわったりと、色々こだわりを加えることによって魔法陣の形の違っていくんだ」

 奥が深いですわ、魔法陣。

 思わずつぶやくと、

「魔法陣だけで一つの魔法学のジャンルがあるくらいだしね。何に使用するのか分からないような魔法陣も無数にあるよ。4月から僕たちが通う学園にも、魔法陣を研究する社交クラブがあるんだって。行ってみる?」

 レンったらなぜ急に早口なのかしら。

 それにしても魔法陣を研究する社交クラブですか。素人が興味本位に軽い気持ちで行ってしまうと痛い目を見そうな気がいたします。

「やめておきますわ」

「そう……」

 レン、なぜ残念そうですの?


 手紙を飛ばすことを考え、重さに耐えられ且つ少ない魔力で飛距離を稼げる魔法陣を試してみることにしました。

 魔法石は丸っぽっく平たい形をしていて、手でぎゅっと握って隠れるくらいの大きさです。小さいですが、平たいので描きやすそうです。

「これに魔法陣をどうやって描きますの?」


 レンは得意げに懐を探ると、「よくぞ聞いてくれました」とでも言うように束おような物を出してきました。

「これで描くんだよ」

 銀色のコンパクトをケース開くと、白と黒の太・中・細そろったチョークが入っていました。一番細いチョークは、先が削れ鉛筆のような形をしています。全ての先端には布のような物が巻き付けられています。

「この魔法陣作成キットはね、土の王国クレイドでも老舗の道具屋マリッツィーニで今、新進気鋭の職人として有名な、あのバラス作なんだ」

 得意げにチョークを手に取って見せてくれます。

 あのと言われても、どの? としか応えられませんが。

「バラスは、チョークの原料となる石灰に魔法陣で効果を付与した魔法石を砕いて混ぜることによって、使い手の魔力をチョーク自体にも入れられるようにしたんだ。でもこれを他のものが石灰に魔法石を込めても、魔法石の効果は全く発現しないんだ。バラスだけが編み出した技術で、今のところバラス以外は誰も作れないだよ。僕もこのチョークを手に入れるために3年も待ったんだ。しかもこのチョーク、魔力が込められるだけじゃなくて……」

 レンたら、また、なぜそんなに早口ですの。

 チョークのすばらしさを、息継ぎする間もなく話す様子にビックリして目を丸くしていると、レンが突然話を止め、困ったような、なぜか傷ついたような顔で笑いました。

「あ、ごめん。また話し過ぎてしまったね。こんな話つまらないよね」

「急に勢いよく話し始めたからびっくりしただけですわ。レンは本当に魔法陣が好きなのね。だからさっき、私が魔法陣を研究する社交クラブ断ったらがっかりした顔をしたのね」

「ま、まあね」

「くすっ。学園に入学したら、是非魔法陣社交クラブに行ってみましょう」

「え、いいの?」

「私は多分あまり魔法陣に詳しくないから、レンがちゃんとフォローしてね」

「もちろんだよ」

 レンったら今度は泣き笑いの顔になりました。私がおべっかか何かで言っていると思われたのでしょうか? ここはしっかり誤解を解いておかなければなりませんわね。

「好きなものに夢中になれるって素敵ですね。魔法陣のお話、レンからもっと聞きたいですわ」

 レンは突然私を抱きしめました。

「レン?」

「ありがとうセリーヌ。記憶が無くなってもやっぱりセリーヌはセリーヌだ。今の、6年前に君に初めて出会った時、僕に言ってくれたまんまだ」

 レンは私の肩に頭を乗せ震えています。私は彼の背をそっと撫でました。

「僕は子供の頃、人と話すより魔法陣の本を読んでいる方が好きな子供でね。当時の僕の夢は魔法陣研究家でさ」

「レンにぴったりなお仕事ですね」

「ふふ。そういってくれるのは昔からセリーヌだけだよ。何度か人に魔法陣研究科の夢を話したことがあるんだけど、「折角公爵家に生まれたのに、そんなつまらない夢は早く捨てろ」とか「魔法陣を描くのは職人の仕事であってお前がやっていいものではない」とか「公爵家の責務が」とばかり言われて、早々に夢は言わなくなった。僕に価値があるのは「公爵家の嫡男」ってだけなんだ、ってね」

 記憶を失くしてからまだ少ししかレンの事を知りませんが、既に良い所をいっぱい知っています。前のセリーヌの体に刻まれた記憶のせいだけではなく、今の自分もレンに惹かれています。

 この気持ちしっかり伝われ! と願いを込めてレンの背に置いた手に力を込めました。

「そんな訳無いではありませんか」 

「でも僕は公爵家の嫡男だからね。恵まれた環境なのは間違いないよ。貴族としての責務もあることは子供のころから理解しているつもりだ。それに公爵家の嫡男としてふさわしくなるよう厳格な両親からしつけられたのもあって、表向きは社交性のある立派な公爵家跡取りに成長していたよ」

 私と会ったころはまだレンも8歳ですわよね。8歳なんて前世では小学生です。夢を語ってなんぼな生き物ですわ。今だって、14歳なんて部活やアイドル、ダークマターのことばかり考えても許される年頃のはずです。

 何やらふつふつと怒りがこみ上げてきました。

「泣き虫なのも矯正されて、人前で泣かない代わりに感情も無くなった。もちろん魔法陣研究家なんて夢とっくに葬り去った」

「8歳の子供が夢を捨てなければならない世界は間違っているわ!」

 レンは優しく微笑むと、私の髪を撫でました。


「そんな時ね、セリーヌと出会ったんだ」


お読みくださりありがとうございます。

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