12.今夜は月がきれいですねですわ
お越しくださりありがとうございます。
今日ものんびりゆっくり悪役令嬢(仮)始まります。
6/7少し修正しました。
「嗅覚」「聴覚」に関する事項を追加しました。
「足もと気を付けてね」
先ほど「ちょっとよろけてしまって」と言い訳をしたために、タレンツィオ様が必要以上に過保護になってしまいました。セリーヌ=マクラインです。
一歩上がることに立ち止まるので、なかなか目的地へたどりつけません。
でも本当のことは言えないので、ここはぐっと我慢です。
先ほどのバタバタのおかげで、心にも余裕ができました。折角なので図書室を観察することにします。
建物の入り口を背にして右と左(私には東西南北は分かりません)に登る階段があります。私たちは右の階段から登りました。2階3階は吹き抜けの為中央部分はなく、全面の壁にぎっしり本が並べられています。
階段の横にも本がびっしり収められています。上に行くにしたがって専門書が増えてきました。先々代の当主が、体の弱い奥方様の為に、奥方様の好きな本を1階に集めたのでしょうか。なんだかほっこりします。
天井一杯ガラス窓になっていて、月が見えました。今夜は満月です。
上がる毎に天窓からの月の光が強くなり、逆に魔石ランプは消えています。前を歩くタレンツィオ様の銀髪が、月の光に青く照らされてとてもきれいです。なんだかこのまま月まで連れていかれそうです。
「今夜は月がとてもきれいですね」
なんてスラっと昔の日本の物書きさんが「I Love You」を訳したと言われているセリフが、口をついて出てきてました。
あら、嫌だ。私ったら愛の告白みたい。でもタレンツィオ様には分からないかな。
なんて考えていたら、
「私の太陽は宵闇の中でも光り輝いていますね」
なんて、耳元でささやいてきました。まだ少年らしさの残る少し高い声が耳に心地よく、私の体を震わせます。
そして、あろうことか! そのまま私の髪を一房掬って口づけされました!
「ほぁっ⁈」
思わず変な声が漏れてしまいました。
タ、タレンツィオ様、私と同じ14歳ですわよね?
なんですの。その酸いも甘いも嚙み分けたような大人な仕草は?
きっとこんな月明かりだけな場所でも、私の顔が赤いのは丸見えでしょう。
私は腰に力が入らずよろめいてしまいました。
タレンツィオ様はとろけるような笑顔でそんな私の腰を支えてくれました。
その際、ベルガモットのような柑橘系の香りが鼻をかすめました。
あ、私の好きな香り。
タレンツィオ様は、私の腰を抱いて、そのまま階段を上り始めました。
3階まで上がると、ゆっくり奥へと進んでいきます。
「着いたよ」
そこには本棚と本棚の間に隠れるように出窓がありました。
タレンツィオ様は躊躇なく出窓に座ると私を呼びました。
「おいで」
私もタレンツィオ様の横に並んで座りました。そんなに広くないので膝同士がくっつきそうで、少々どころかかなり居心地が悪いです。
なるべく離れようと端に寄ると、タレンツィオ様ももっと寄ってくるため、最終的に逃げ場が無くなりました。
私お風呂に入りましたし、匂いませんわよね。夕飯にニンニクは入っていたかしら?
そんな私の心の葛藤を知ってか知らずか、頭を人撫ですると、優しい声でタレンツィオ様は話し始めました。
「ここはね。僕とセリーヌがいつも一緒に本を読んでいた二人の秘密基地なんだ」
はいどうぞ、と先ほど私が読んでいた本を渡してくれます。タレンツィオ様自身が読む本もいつの間にか持っていました。
「またセリーヌと一緒に本を読みたくってさ。僕のわがままに少し付き合ってくれる?」
眉毛を下げ、困ったように笑う顔がなんだか不安げな子犬のようです。
なんだかきゅんとします。これが萌えポイントと言うものでしょうか。
タレンツィオ様のこの表情を見ていると、凄く温かい気持ちになりました。
「ふふっ。是非ご一緒させてくださいな」
なんとなく前もこんなことがあったなと思いながら、ほっとしたような顔のタレンツィオ様と顔を見合わせると、お互い自然と笑い合いました。
先ほどの本の続きをめくります。王子様が城下町にお忍びで出かけた時に、平民の美しい女性と出会って恋に落ちる物語でした。
王子様の婚約者様の妨害、すさまじいですわね。
ノートを破るとか、ドレスを隠すとか仲間外れにする等生易しいものではございません。
裏から手をまわし少女の両親の店をじわりじわりと追い詰め、借金まみれにし……。あら、ハニートラップまで。
すさまじいですわ~。14歳かそこらの生粋のお嬢様にこんな悪事思いつけるとは思えないのですが……あら、やっぱり黒幕が……。
「セリーヌ」
夢中で読んでいると、タレンツィオ様から声をかけられた気がしました。
「なあに。レン」
「!」
まあ、黒幕は、お嬢様の義母の弟の友人のお父様!
もうそれは他人ですわ~
「セ……セリーヌ……」
「レン、ちょっとお待ちになって。今いい所なの」
なんてことでしょう! お嬢様の義母の弟の友人のお姉さまは王子様の婚約者候補の一人だったのですね! それで自分の娘を王子様の婚約者にしようと、お嬢様の義母の弟の友人のお姉さまのお父様が色々画策なさったと……ふむふむ……。
「セリーヌ」
タレンツィオ様が私の頬を両手で持ち上げました。至近距離でタレンツィオ様と目が合います。
いけない。私ったらタレンツィオ様を無視してしまったようです。
「ご、ごめんなさいタレンツィオ様。本に夢中になり過ぎてしまいましたわ」
「そんなことはどうでもいいんだ。それよりセリーヌ、今僕の事『レン』って呼んでくれたね」
「そうでしたでしょうか? すみません。本に夢中で覚えていませんわ」
「ねえ、また僕の事『レン』って呼んで」
タレンツィオ様はいとおしそうに私の頬を撫でながら懇願してきます。視線がとても甘いです。
無自覚ならさらっと言えたようですが、意識してはかなり恥ずかしいです。勘弁してくださらないかなと上目づかいでタレンツィオ様を伺いますが、タレンツィオ様の真剣な目は言うまで許してくれなさそうです。
意を決して口を開きました。
「レ……レン……様」
緊張で掠れています。
「様はいらないよ。もう一度」
「……レ……ン」
名前を呼ぶだけなのに凄く恥ずかしいです。
「もう一度」
「レン」
「もう一度」
「レン」
「もう一度」
「これ以上は勘弁してください!」
私は両手で顔を隠した。顔が熱い。
「うん。ごめんね、でも」
タレンツィオ様は謝りながら、私をそっと抱きしめました。
「あと一度でいいから僕の事『レン』って呼んで」
またベルガモットの香りがしました。
私、やっぱりこの香り好きだわ。
「……レン」
こそっとささやくように名前をつぶやくと、タレンツィオ様が抱きしめている腕にぐっと力が入りました。
「うん。セリーヌ。僕はレンだよ。君だけのレンだよ」
タレンツィオ様の肩が震えています。
私はタレンツィオ様の背中をそっと撫で、頭に浮かんだセリフを言いました。
「私の泣き虫レン。大丈夫よ。泣かないで」
レン。
そうです。私はずっとタレンツィオ様の事をレンと呼んでいました。まだ何も思い出せないけれど、それだけは確かな気がしました。
私たちはしばらく無言で抱きしめ合いました。
レンのすすり泣く声だけが広い図書室に響いていました。
お読みくださりありがとうございました。
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今日も
おはようございます。
いってらっしゃい。
お疲れ様です。
お疲れ様でした。
お帰りなさい。
おやすみなさい。
また明日。




