11.この世界にクッション材はありませんわ
お越しくださりありがとうございます。
のんびりゆったり悪役令嬢(仮)進行中です。
夕食後、タレンツィオ様が私を部屋まで送ってくださるということで、一緒に席を立ちました。
お父様とロバートが「私も」「僕も」とおっしゃっているのを、お母様が引き留めて下さっています。
タレンツィオ様は、私の歩幅に合わせてゆっくり歩いてくださっています。
改めてタレンツィオ様の横顔をじっくり見てみました。
癖のない銀髪を後ろで軽く結んでいます。スッキリした目元はアクアマリン色の瞳によく合います。無言で立っていたら「氷の君」などというあだ名を付けられていそうです。
素晴らしいわ。ほくろ1つ無い肌。
「セリーヌ、もう疲れた?」
廊下をまっすぐ歩き、2階の私の部屋へ上がる階段のところまできて立ち止まりました。
「だ、大丈夫ですわ」
じっと見ていたので、突然こちらを向かれ少々焦ってしまいました。
「ならもう少しだけ付き合ってほしいのだけど大丈夫?」
「はい」
タレンツィオ様は私の手を取り、階段を上らず、そのまままっすぐ廊下を歩いていきます。
男の子に手を握られたのなんてもしかして幼稚園の遠足以来かもしれませんわ!
手汗が、手汗が!
握られている方の手に意識が全集中してしまい、頭が真っ白です。
「着いたよ」
目の前には一際大きな扉がありました。開くと、
「うわあ!」
図書室でした。
古本独特の匂いが空気に乗って鼻をかすめました。
3階部分まで吹き抜けになっていて、壁面全てに本画びっしり並んでいます。1階部分は勉強机やソファが、上手く本棚で区切られて配置されています。昼間は司書さんがいるようですが、今は誰もいません。
あまりにもすごい蔵書量に手汗の事など吹き飛んでしまいました。
一貴族が所蔵するには凄い量です。それともこの世界ではこれが当たり前なのでしょうか。
顔に出ていたのか、
「先々代の奥方が体の弱い方で、あまり外に出られなかったんだ。奥方を溺愛していた当主が、奥方の好きな本を集めらしくて、マクライン家の蔵書量は国内でも1、2位を争うんじゃないかな。もちろん我がラジヴィオラ家よりもね。しかも……」
タレンツィオ様は手近な本棚から本を取りました。
「女性が好む蔵書数で言えば、王立図書館よりも多いよ」
私の手に載せて下さった本には男女が手を取って見つめ合う絵が描かれていました。恋愛小説のようです。
「セリーヌも大好きで良くここで本を読んでいたよ」
婚約者様に恋愛小説好きがバレているのはなんだか気恥ずかしいものがあります。でも、異世界の恋愛小説なんて素敵です。是非読んでみたいです。
はてしかし、私は読めるのでしょうか?
試しに手の中の本をめくってみました。この世界には活版印刷があるようです。手書きではありませんでした。
セリーヌの記憶なのでしょうか。不思議なことに、全く知らない言語のはずなのに、しっかりと意味を持った文字として認識できます。
色々なことに感動して読みふけっていると、そばから苦笑する声が聞こえてきました。
「その本気に入った?」
うっかりタレンツィオ様の存在を忘れていました。私は昔から本が好きで、読み始めると周りが見えなくなってしまいました。
「すみませんタレンツィオ様」
「本はまた後でね」
タレンツィオ様は私が手にしていた本を受け取り、後ろに控えているサラ=アンに声を掛けました。
「少しだけセリーヌと二人だけにしてくれる?」
え、ふっ……ふふふふふふ、二人ですの?
「外の扉の前で待機しております。少しだけ扉を開けておきます」
そういうと静かに出ていきました。出ていく際肩を扉にぶつけていました。
結構大きな音がしたけれど大丈夫かしら。
「サラ=アンなら大丈夫だよ」
私の手を引いて歩きだしました。
「行こうか」
また、手汗が~~!
タレンツィオ様に手を引かれ、静かな図書室を2人でゆっくり階段へと向かいます。魔法石を入れたランプの明かりと天窓から差し込む月明かりで、夜でも結構明るく、歩くのに困りません。
夜に素敵な男性に手を引かれているなんて最高のシチュエーションです。でもそれどころではありません。心臓の音が凄いです。タレンツィオ様に聞こえてしまいそうです。
足音をもう少し大きくしたら聞こえないかも。少し力を入れてかかとを下ろしてみようかしら。
ガンッ!!!
「お嬢様、大丈夫でございますか?!」
「え、セリーヌどうしたの?」
足を下ろした先は、絨毯の切れ目でした。
……ゴムの無い世界の靴底は、想定をはるかに超えて響くようです。
お読みくださりありがとうございます。
お気に召していただけましたら、評価お願いいたします。
また今週も頑張ってください。




