第1部 1.私は山田花菜ですが
のんびりほのぼの悪役令嬢(仮)生活始めました。
目が覚めるとそこは、天蓋付きの5人くらい余裕で寝られそうなベッドの上でした。
ここはどこでしょう? あたりを見回すと、メイド服を着たメガネをかけた女の子がいます。
メイドカフェ?
メガネのせいでいまいち分かりませんが、目があったと思われる瞬間、女の子は騒がしい足音をたてて扉を開いて出ていきました。途中ガチャンという音がしたので、なにかにぶつかったのかもしれません。
ドジっ子メガネっ子メイドさん? 属性が多すぎます。
「お嬢様がお目覚めになられましたーー!!」
しばらくぼうっとしていたら、複数人の足音が近づいてきました。
「セリーヌ!」
扉が勢いよく開いたと同時に、おじさんが叫びながら私に近づいてきます。
誰?
なかなかのイケオジです。30代半ばくらいでしょうか。知らない西洋風な顔立ちのオジサマに突然抱きしめられるのなんて、生まれてこのかた26年、初めての経験です。
とっさに反応できずにいると、
「セリーヌ、あなたは馬から落ちて、二日も眠ったままだったのよ。痛い所はない? 無事でよかったわ」
誰?
ゆるくウェーブがかった金髪を腰まで伸ばしたなかなかな美女が、涙をハンカチで押さえながら話しかけてきました。
「姉上。ご無事で何よりです」
まあ、イケメン。誰?
イケメンが私を見て目をウルウルさせています。なんだか庇護欲を誘う光景です。
でもこうしてはいられません。なんだか私のことを皆さん「セリーヌ」と呼んでいらっしゃいますが、私はそんな大物歌手のような名前ではありませんし、ましてやクリスチャンでもありません。れっきとした山田花菜という名前があるのです。
なにかのどっきりでしょうか? なんだかその可能性が高い気もしますが、もし皆さん真剣だった場合、皆様に恥をかかせることになってしまいます。
ですので、最初から冗談と決めつけずに、しっかりと否定だけはしておこうと思います。
「すみません。どなたかと勘違いされているようですが、私はセリーヌではありません。失礼ですが、ここはどこでしょう?」
「「セリーヌーーーーーー!!!」」
「お姉さまーーーーーー!!!」
「「「「「「お嬢様ーーーーーー!!!」」」」」」
一瞬ビックリするほどの静寂に包まれた後、部屋中に阿鼻叫喚の声が響き渡りました。
その後が大変でした。メイドカフェの店員さん(もとい私の侍女らしいです)、がお医者様を呼びに行き、残ったイケオジ、美女、イケメンがそれぞれ、我先にと自分のことを紹介し始めました。
いわく、彼たちは私の父、母、弟とのことです。
どういう事でしょう? 私の父母はこんな西洋人顔ではありません。弟もおりません。小さな頃は欲しいと思っていましたが。話が逸れました。
家族(仮)がどんどん情報を入れてきます。
目を白黒させていると、侍女と医者が部屋に入ってきました。
「お嬢様はまだ絶対安静にしていなくてはなりません。しばらく休ませてあげましょう」
とお医者様が言ってくださり、家族(仮)は何度も振り返りながらも部屋を出ていかれました。
正直助かりました。完璧キャパオーバーです。
診てくれたお医者様によると、ケガの状態はかなり良くなってきているとのこと。それは良かったです。
ただ、事故のショックで記憶に障害が出ているだけだろうから、まずはしっかり休むようにとのことでした。
そうね。なんだか疲れましたわ。今はもう何一つ考えたくありませんわ。
私は再び気絶するように意識を手放したのでした。
侍女の「お嬢様~!」という叫び声が遠くで聞こえた気がします。