プロローグ
――回る回る。
――景色が回る。
かつて目にした情景が紙芝居のようにいくつも現れ、そして消えていく。いくら手を伸ばしても届かない過去。
そのひとつひとつの記憶に、今更感情を動かされることはないけれど。未練なんてひとつもないけれど。
それでもこうやって振り返ってみて、自分に幸福な記憶が見つからないことに空っぽの胸は痛む。
――私はいつだって、我慢してばかりだった。
走馬灯は次々と場面を変え、月日を辿っていく。
小さかった私はあっという間に大きくなり、少女へと成長して……そして、あの日を迎えていた。
「悪魔召喚に手を出し、ティアラを呪殺しようとした魔女め!」
断罪する彼の声が、それほど広くないパーティ会場に響き渡る。
――私はあの時、何と返したのだったか。そして、何と返すべきだったのか。
改めて当時の状況を突きつけられても、答えは出ない。
あっさりと場面は飛び、舞台は牢獄の中へと移動する。
あぁ、こんな死の直前のことまで再現されるのか……もはや他人事のような気持ちで走馬灯を眺めていた私は、胸の裡でひとりごちた。
「後は悪魔を召喚したお前が死ねば、すべては闇の中だ。最後くらい俺の役に立って、大人しく死んでみせろ」
相手のことを何も考えていない声。そう言って突き刺されたナイフは、氷のようで。
私はその痛みよりも冷たさに驚きながら、地面へと崩れ落ちたのであった。
――ああ、何度振り返っても同じこと。
私の人生に、良いことなんてひとつもなかった。楽しいなんて全然思えなかった。
もし、この死の床に彼が言っていた「悪魔」が現れたとしても。
きっと私はこのままの穏やかな死を望むだろう。もはや自分を陥れた彼らへの復讐すら、望みはしないだろう。
すり減ってすり減ってすり減って……もう私は、疲れ切ってしまった。
早く、楽になりたい。死なせてほしい――動かす身体もないくせに、私はそんなことを想ってゆっくりと目を閉じる。
そんな私の声が届いたように、泥のような眠りが私を温かく包み込んでいく。
ゆるやかに意識を手放しはじめた私を、灰緑の瞳がいつまでもじっと見つめていた――。