青 ガ 沈 ム 愛 ヲ 知 ル
少し、ほんのちょびっと肌が焼け爛れた表現と、少しほんのちょびっと残酷な表現があります。
ゴポリ、
そんな音が鼓膜を震わす。そんな音を立てたのは自分の喉。
感覚は冷たい、いや何も感じないのか?
視界に写るのは綺麗に透き通る水。
どうやら水の中らしい。
ゴポリ、
息を吸おうと、酸素を求め喉が無意識に呼吸をしようとする。
手足が鉛が入ったように動かない、否動かせない。
そもそも手足なんてあるのか?
そんな感覚すらない、視界に足の爪先を捕らえたのであることは分かる。
だが、そんな事はどうでもいいのかもしれない。
ゴポリ、
水の中にいる事に恐怖はなかった、否心地がよいのかもしれない。
何故自分は溺死になるかもしれないとか、何故ここにいるとか考えないのだろう。
嗚呼、それもまたどうでもいいことか。
「っ!?」
突然、水が口のなかに入り暴れる。
喉が自動的に水を飲み込むが、圧倒的な水の量に口のなかがまた満たされる。
喉が酸素を求め、水が入り込む。
俺は無理矢理腕を動かし、藻掻く。
今の自分を見ればひどく滑稽で醜いだろうが命を落とす訳にはいかない。
上に、上に上がろうとすれば地上の重力と同じようにどんどんと水の中に落ちていく自分の身体。
落ちた底に何かあるのかは知らない、いつの間にか恐怖と言うものが全身を支配する。
ガポ、ゴポリ、
激しさを増す、水音。
自分が悪いのだが、藻掻く事以外に生きるすべが見つからない。
水は口から侵入するだけに飽き足らず、鼻から、耳から、果ては目から水が侵入してくる。
息苦しさ、抜け出せない苦痛、気が狂いそうだ。
どんどんと落ちていく自分の身体。
藻掻いても藻掻いても、掻き分けても掻き分けても、手を伸ばしても届かない地上。
くらり、意識を失いそうになる。
いっそのこと失った方がいいのだが、そんな事をすれば確実にもう二度と目覚める事はない。
だが苦痛しかないのに生きている意味等あるのだろうか。
自分の中で何かが戦う。
ゆらり、
ぼやける視界の中何かが揺らめく。
赤、それは綺麗な綺麗な鮮明な赤。
恐らく地上のものが反射して水の中にいる自分の視界に写ったのだろう。
自分の死に際なのに流暢な事を考えられるのは本当らしい。
ゴポリ、
自分の口が何かを発する。だけどそれが音になる事は水が許さなかった。
赤が人間だった事がわかった、しかもまだ幼い少女。少女は白く細い指で顔を覆い、泣き崩れた。
どうして水の中にいる自分が鮮明に彼女の姿を捉えられたかは知らない。
彼女は自分には気付かないようで恐る恐る顔から手を離し水面を覗き込む。
ゴポリ、
息を飲む。
事は出来なかった、ただ水が喉で暴れる。
少女の顔は美しいとは言いがたい顔立ちだった。
元からの顔立ちではなく、肌が焼け爛れていた。
火傷か何かで負傷したものであろう。
そしてひどく印象的だったのは燃え上がるような赤い目と長く伸びた赤髪。
どくり、心臓が跳ね上がる。
自分は不覚にも綺麗だ、と思った。
顔は確かにひどく焼け爛れているが、その赤い目と赤髪には似合っている気がした。
まるで一つの絵画みたいだ。
目を奪われた、自分の死に際に。
ゴポリ、
少女は赤い目に涙を浮かべていたが泣くのは止めたらしく、水面にゆっくりと手を伸ばす。
それはまるで俺に向けられたみたいだ。
手と手が重なるように自分も手を伸ばす。
少女は泣きそうな顔で何かを呟く、俺にはそれが聞こえない。
聞きたいのに、もっと君を知りたいのに。
俺は彼女の声を聞きたいと思った、知りたいと思った、触れたいと思った、愛しいと思った。
赤 い 目 に ひ ど く 、 翻 弄 さ れ る 。
ゆら、
そこで違和感、地上には彼女しかいなかったのに彼女の背後に黒い影が揺らめく。
嫌な予感。
そして予感は的中する、黒い影は自分で握っていた刀をゆっくり少女の首に当てる。
少女至近距離にいる筈なのに気付かない。
ガポ、ゴポリ
自分が死にそうになるのにも構わず、俺は彼女に向かい何かを叫ぶ。
だけど言葉にはならない。黒い影は刀を上にあげる。嗚呼、やめてくれ。
目尻が熱くなったが、水の冷たさに消される。
ばしゃり、
何かが水の中に落ちる音。見たくない、知りたくない。
手で顔を覆う。
指の間から見えた赤が何かはわからなかったが、綺麗だったのは覚えている。
視界が黒く塗り潰される。
青 ガ 沈 ム
愛 ヲ 知 ル
秋ですね、でも青です。
シルバーウィークバージョン相沢識です。
長い間の放置申し訳ありません。
・・・長編のほうは時間がかかっても完結する予定です。
ちなみに私は元気です。
元気過ぎてタンスに小指ぶつけました。