第四話 努力しない私は、「私」じゃない。
なろラジ作品『時計って、今を確認するものだろ?』の続編なのですが、タイトルから内容が伝わりづらいので、改題いたしました。
『素直になれない彼女と、ちょっとズレた彼が幸せになる方法。』
現在、(第3〜4話部分)
めっちゃ仕事、仕事したストーリーの途中ですが、基本は恋愛モノです。
早くラブい展開が書きたい……
先日、我社の取引先の中でも主要取引先である美門家具との商談が成立した。
もちろん、結一人の力では到底及ばず、先輩清水の手助けがあってこその結果だ。
それでも、結の中では大きな自信に繋がった。
特に、美門常務に「プレゼンが面白かった」と言ってもらえたことを思い出すたびに顔がニヤけた。
しかし、それ以降は一件も契約を結ぶことができず、当然分かってはいたが「前向きに検討します」という言葉は当たり障りのない断り文句だと痛感することになる。
(『前向き』って何だっけ……)
そして、美門家具との商談成立は、結にとっては甘い毒を孕んだビギナーズラックとなってしまった。
自分の無力さに打ちひしがれて、ニ週間ほどは仕事をしていても、どこかぼんやりとしていた。
しかし、こんなところで立ち止まる訳にはいかない。
有りがちな行動パターンだが、お手洗いの鏡の前で両頬を叩いて、自分の顔を見つめる。
契約を一件も取れなかったことが問題なのではい。
落ち込むばかりで、「なぜ商談が成立しなかったのか」という点を省みないことが問題なのだ。
「契約してくれなかった」のではなく、「契約したい」と先方に言わせる力が、結には足りなかった。
(うちの商品は素敵なの)
私と同じくらい、商品を愛してもらえば良い。
ただ、それだけのことだ。
(ニヤけてる場合じゃないのよ)
幸い、スランプやら負け続きには部活で耐性がある。
努力することも嫌いじゃない。
あとは、前を向くだけた。
同僚にその話をすると、「それが一番難しいだろ?」と笑われた。
(私、何かおかしなこと言ってる?)
しかし、有限実行。言ったからには、やる。
そして、結の努力は実を結び、少しずつ、ほんの少しずつだけれども成果が見え始めた。
我社は、成約件数のグラフを壁に貼ったり、裏が磁石の花を成績上位者に付けるような野暮なことはしない。
しかし、各自のPCでは確認することができる。
PC画面を睨みつけるように眺めていると、音もなく斜め後ろに立った清水に声をかけられた。
「なに、親の仇みたいな顔で睨みつけてるの」
清水はいつものように、穏やかで少しイジワルな表情で笑っている。
「成績が……。あまり伸びなくて」
そう、結が拗ねたような声を出すと、清水は素で大きな声を出した。
「はぁ?! 何言ってるの? 一年目で? この数字で?」
いつもの「何でも、こなします」というような表情も崩れている。
「え……?」
その剣幕は、ミスで叱られるよりも怖かった。
「いーい? よく聞きなさい? むしろ、入社一年目でこの数字は異例なの。異常と言っても良いわ。私が新人の時は、この半分も成約取れなかったわよ」
結はポカンと口を開けたまま、清水の表情を眺めていた。
「この成績でそんなこと言ってたら、同期や先輩たちに睨まれるわよ? あぁ……、違うな。あなたが努力していることは皆が知ってるから、正当な数字だとは思う。それでも、妬みが生まれないわけではないからね」
「は、ぁ……」
思わず、先輩への返事としては失礼な言葉を発してしまった。
そして、清水はキレイにセットされた前下がりの髪をくしゃっとかき上げながら、もどかしそうにこう言った。
「とにかく、貴女はやり過ぎなの。『ほどほど』を知りなさい。でないと、本当にいつか潰れるから」
「はい……」
体面上、そう返事をしたが、やはり清水の言葉は受け入れ難かった。
(だって、努力しないと何も始まらないし……)
お読みくださり、ありがとうございました。