8話 いきなり大臣視点!
【ドロップ】が冒険者ギルドでスキル【プリンセスドミネイト】を発動してイベントを開催した少し前、ファートス王国の王城では一悶着発生していた。
「おい衛兵たち、【ドロップ】姫様はまだ見つからんのかな!
部屋にもおらんようだが、このまま見つからんと私のメンツが丸つぶれになってしまうぞ!」
一度衛兵たちを王城の中庭に集結させた中年の男は、軍事大臣の【サンマー=ジュージカン】である。
この中年の大臣の額には止めどなく流れ出る汗が滝のように服へとしたり落ちており、首もとや肩は雨に降られた後かのごとくビショビショに濡れている。
だが、【サンマー=ジュージカン】はその服を着替える暇もなく衛兵たちから報告を受け取り、指示を出し続けている。
決してこの中年大臣が無能で仕事に追われているというわけではなく、自身の過失とは全く関係の無いところで起きた事件の調査と尻拭いをしているのだ。
それは……
【ドロップ】姫消失事件。
王城の自室にいたはずの【ドロップ】姫が突如として忽然と姿を消してしまったのだ。
これにいち早く気がついた【サンマー=ジュージカン】は自身の権力で動かすことのできる衛兵たちを秘密裏に動かし、他の権力者たちに悟られることの無いように隠密行動を徹底させて【ドロップ】姫の所在を探らせていたのだ。
「全く……あのわがままお姫様には手を焼かせられるな!
後始末するのはいつも私だというのに!」
この場にいない【ドロップ】に対して悪態をつく【サンマー=ジュージカン】であるが、過去にも城内でかくれんぼしていた【ドロップ】を探すのに動員されたり、国宝を紛失させたのを探すのに力を貸したりと散々な目にあっているためそれを聞いている衛兵たちもそれを指摘することはないだろう。
この【サンマー=ジュージカン】、言ってしまえば苦労人なのである。
今回も例に漏れず【ドロップ】姫の消息についていち早く動き解決しようとしている。
このような事件にわざわざ大臣が動く必要はないのだが、過去の事件を解決してきた結果国王からの信頼も厚くなったため【サンマー=ジュージカン】としても悪い話ではないという算段もある。
直接的な利益こそ無いが国王からの信頼という金では買えないものを得てきたため、大臣間のパワーゲームでは上位を立ち回れているという事実をこの【サンマー=ジュージカン】は見過ごすことが出来ない。
ある意味、【サンマー=ジュージカン】は【ドロップ】のわがまま問題行動に困らせられ助けられているということになる。
このメリットとデメリットを天秤にのせた結果、【サンマー=ジュージカン】は常に【ドロップ】の事件にいち早く気づくようになったのだ。
だが、今回は後手に回っており何処から【ドロップ】が消えて何処へ消えたのか掴めていない。
流石に古文書に記された隠し通路のことは【サンマー=ジュージカン】であっても知り得ないものであった。
旧王国語を理解しているのは王国内でも一部の物好きと、英才教育を受けた王族しかいないので【サンマー=ジュージカン】が知らなくても誰も責め立てることは出来ないだろう。
そのように雲隠れしてしまった【ドロップ】について頭を悩ませていると街中を調査していたはずの衛兵の一人が慌てて【サンマー=ジュージカン】に向かってかけてきた。
息絶え絶えに口を開き、それでも声を捻り出して報告をしようとしている。
「はぁっはぁっはぁっ……!!
報告します!【ドロップ】姫様の目撃情報を確認いたしました!
場所は冒険者ギルド、目撃者多数のため間違いないかと!」
「よくやった!
あのわがままお姫様は冒険者ギルドなどで何をしているのやら!
最近は【プレイヤー】を自称する奇妙な連中のたまり場とおっておるというのに、そんなところまで行ってやることがあるようには私には思えないがね。
私の優秀な衛兵たちが【プレイヤー】という連中に負けるとも思えない、だからこそ意図が不明だ。
いや、あのわがままお姫様の考えはいつもよく分からないから、深く考えても無駄なことよな……」
【サンマー=ジュージカン】は【ドロップ】の思考を読み取り次の行動を予想しようとしたが、その対象が【ドロップ】であるということで思考停止した。
なるようにしかならないという諦念であろう。
そうしていると、先ほどの衛兵とはまた別の衛兵が【サンマー=ジュージカン】へと駆け寄ってきて新たな情報をもたらした。
「続いて報告します!
【ドロップ】姫様は冒険者ギルドにて港町セカドンへの視察を宣言し、冒険者たちにその護衛を依頼したとのこと!」
「なに!?
港町セカドンへの視察!?
それに冒険者に姫様直々に依頼だとっ!?
……はぁ、どうしていつも突拍子もないことばかりを……
うぅぅん……」
「【サンマー=ジュージカン】様!?
あぁっ!?お気を確かにっっ!?」
【サンマー=ジュージカン】は予想外の出来事で頭がオーバーフローし、失神してしまいその場に倒れ込んでしまった。
目の前で上司が倒れてしまったのを見た衛兵たちはただただ気の毒としか言いようがないであろう。