7話 いきなりパーティー募集!
長身の女性プレイヤーである【アルタルソース】に連れられて【ドロップ】がやってきたのは、このファートス王国の重要施設である冒険者ギルドである。
プレイヤーたちがチュートリアルを終えると、基本的にははじめに訪れることとなる冒険への出立のサポートやクエストの委託を行っている場所なのだ。
冒険者ギルドにはいくつか支所があるのだが、ここはその一つである。
西洋風のレンガで作り上げられた冒険者ギルド
そんな冒険者ギルドにはプレイヤーが多く集まっており、人の出入りも激しいので【アルタルソース】のかけた隠蔽魔法のお陰というのも合わさって【ドロップ】に気づいているプレイヤーたちはまだいないようだ。
「さて【お姫様】、ここがご所望の冒険者ギルドですよ~!
カウンターにいる受付嬢に声をかければクエストを受けられるんだよ~!
……まあ、【わがままお姫様】はNPCだからどこまでプレイヤーと同じ仕様なのか知らないけどね~(ボソッ)」
(【アルタルソース】さん、その呟き私にちゃんと聞こえてるんだよね……
私がNPCだから詳しいところまで説明する必要はないって思っているのかもしれないね。
表面上、説明している体裁にしないと好感度が下がるとか思ってそうだよね?
この人と話したのは少しだけだけど、独り言も多かったからなんとなく考えが読めるよ!)
独り言の多い【アルタルソース】に追随していたためか、少しだけ心が読めるようになってしまった【ドロップ】であったがNPCであるということを装うためにあえて触れないことにしたようだ。
「【アルタルソース】、ワタクシにかけた隠蔽魔法を解除しなさい!
これからワタクシの姿が見えていないと不都合がありましてよ?」
「おっ、やっぱり冒険者ギルドに連れてきたから何かのフラグが立ったのかな~?
それで姿が見えない状態だとイベント開始がまだ出来ないってことか~!
確かに声だけのNPCがイベント開始を宣言したらバグだと思っちゃうから妥当だけど、こんなところまで凝ってるゲームとは思わなかったな~」
(ごめんなさい、別にそんなこと無いんですよ……
始めようと思えばこのままでも出来ちゃいます!しかもイベント開始はここじゃなくても出来たんだよね!
凄い罪悪感……)
そのような会話を挟んで【アルタルソース】によってかけられた隠蔽魔法が解除されていく。
すると、雑踏のなかにきらびやかな身なり服装で【ドロップ】が急に出現した形となった。
まるでワープしてきたかのように急に現れた【お姫様】である【ドロップ】にプレイヤーたちは同様を隠しきれないようで、ざわめきが生まれ始めた。
「えっ、なんだあいつ!?」
「急に現れたぞ!?」
「えっ、【お姫様】っ!?
なんでこんなところに……」
「重要NPCが現れたってことは……もしやイベントか!?」
(ふっふっふっ、こうなることは流石に読んでたから落ち着いていられるよ!
さあ、ここから私の演技力にかかってるし、頑張っちゃいますよ!)
【ドロップ】はスカートをつまみ上げ丁寧にお辞儀した後、冒険者ギルドにいる面々に向かい合った。
そして、破天荒かつ高貴さが損なわれない程度の笑顔を作り上げていき口を開いていく。
「ここにいる平民たちにファートス王国の姫であるワタクシ【ドロップ】が特命を持ってきましたわ!心してお聞きなさってくださいまし!
このファートス王国は中央は栄えていますが、まだまだ辺境については発展の余地がありますわ!
そこで、このワタクシが直々に辺境へと視察に行き、何か役立つものや問題点を見つけ出しますわよ!
ワタクシが行くと決めたのですから、あなた方平民はワタクシが港町に行くまでの護衛をするのですわ!」
(……と、ここでスキル【プリンセスドミネイト】を発動!)
【ワールドアナウンス】
【スキル【プリンセスドミネイト】が発動しました】
【イベント【わがまま姫様の港町視察】が開催されます】
【クエスト限定の人数無制限レイドチーム【ドロップ護衛隊】が結成されました】
【クエスト受託者はレイドチーム【ドロップ護衛隊】へ強制加入となります】
「お~クエストが始まったね~!
【わがままお姫様】っぽい有無を言わせない言い切り方はやっぱりって感じだったけど、そんなに嫌悪感が無かったよ~!
見た目が可愛いのもあるけど、プレイヤーとしてはそこまで理不尽なこと要求されてるわけじゃないからね~
ここまで大規模なクエストが発生するなんて思ってなかったけど、冒険者ギルドまで連れてきた甲斐があるよ~」
(【アルタルソース】さん……腕を組みながら頷いてるけど、あれって後方彼氏面って言うんだよね……?
【アルタルソース】さんは女の人だけど、背が高くてカッコいい感じだしなんだかその言葉がピッタリな気がするね!)
プレイヤーたちが大きなクエストの発生に色めき立つ中、【ドロップ】と【アルタルソース】はそれぞれクエストそのものよりも、別のことに頭が回している様子だ。
プレイヤーたちは皆ウインドウ画面に表示されているクエスト【わがまま姫様の港町視察】の詳細に釘付けになっており、【ドロップ】の挙動に目を向けているものはほとんどいない。
いたとしても凝視しているものは流石にいないと思ったのか、【ドロップ】は少し大胆な行動に出た。
【ドロップ】はこっそり机の上に置いてあったオレンジジュースのようなものが入ったグラスに手を伸ばし、しれっと飲み始めたのだ。
(ゴクゴクゴク!くぅ~!一仕事終えた後のキンキンに冷えたジュースは美味しいね!
VR空間で味覚も再現されてるなんてゲーム様々だよ!
あ~、幸せ~!)
【ドロップ】は一瞬で飲んだジュースが入っていたグラスをしれっと元の場所に戻し、先程の破天荒かつ高貴さが損なわれない程度の笑顔を作り上げていきNPCのように棒立ちしてしばらく時間を過ごすこととなった……