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5話 いきなり抜け道!

 「昨日はあの【ペンネドラゴ】っていう人が押し掛けてきたけど、その後は特に何もなかったから安心したよ~

 でも、面白いものは見つけたんだよね!」


 【ドロップ】はログインしてすぐに辺りを見渡しながら独り言を呟き始めた。

 そして、辺りに誰もいないことを確認してから廊下へと繰り出すとそそくさと部屋から出ていってしまった。

 【ドロップ】の言う面白いもの……がある方向に向かっているのだと、独り言を聞いていた人物がいたのであればすぐに分かったであろう。


 


 そうして【ドロップ】がたどり着いたのはこのファートス王国の頂点に君臨する王の像の真ん前だ。

 だが、【ドロップ】はその像には目もくれずその裏へと回っていった。



 「えーっと、昨日見つけた本に書いてあったのはこことここのボタンを押して……引く!

 やった!像が動いたよ!」


 【ドロップ】は像の裏に設置されていた色彩りのボタンやレバーを操作して王の像を移動させ始めた。

 【ドロップ】のいう昨日見つけた本というのは、王城の中にある書庫に置かれていたものである。

 偶然見つけた歴史本を開いてみると、この王城について書かれていたので読み漁っていたのだ。


 本来であれば、【旧王国言語】スキルや【速読】スキル、【解読】スキルなどが無ければ読むことが出来ない難読な本のはずであったが、【ドロップ】の持つ【お姫様】という特殊なジョブがそれらの代わりとなりシステム的アシストを果たしたため違和感なく読むことが出来ていた。


 本人はそうとも知らず、ただ単に面白いものが見つかってラッキーとしか思っていないのが宝の持ち腐れであると言えるであろう。


 そして、その本に書かれている手順通りに動かした結果王の像が動き、その下には穴があった。


 「やっぱりあの本の通りだったよ!

 しかも、階段までついてて親切だよね!」


 この抜け穴は、王城に敵が攻め込んできた時に王族が抜け出すための隠し穴であるが、【ドロップ】は王城という自由のきかないエリアから脱出するという目的で使用したのだ。




 


 



 「うへー、お城の下って思ってたより汚いんだね?

 長い間誰も通ってないような場所だから当然なんだろうけど、リアルだったら絶対通りたくない場所だよ……」


 【ドロップ】が通っている王城の地下に該当する抜け穴であるが、場所を知っているものがいるはずもなく清掃もされていないため、カビなどが発生しジメジメしているためよほどの時でないと通りたい人はいないであろう場所である。


 そんな悪辣な環境の中をヒールを履いた【お姫様】である【ドロップ】がドレス姿で駆け抜けるのは絵的にもアンマッチだろう。

 

 「とりあえず走ってはやく抜け出したいよね……

 こんなところに長いこといたくないよ……

 って何々っ!?

 何か来るよっ!?」


 走っている【ドロップ】は何かが近づいてきているということを確認したが、走りを止めることなく状況の把握に努めている。

 スピードは【ドロップ】より少しはやく、徐々に【ドロップ】へと迫りつつある。

 その正体とは……


 「うわーん、コウモリが襲ってくるよ!?

 私レベル1だし、絶対勝てないよね……

 どうしよう!?」


 漆黒の身体のコウモリだが、【鑑定】スキルを持たない【ドロップ】ではそのコウモリの名前や種族名などを確認することが出来ない。

 力量差も分からないのでとりあえず逃げているという様子である。



 「攻撃出来そうなスキルなんて持ってないし……

 いやっ、そういえば役立ちそうなスキルが一個だけあった気がする!」


 【ドロップ】はそう言って走りながらウインドウ画面を呼び出し、所有しているスキルの詳細欄を表示した。

 

 そして、それを確認してからスキルを発動させていく。



 「いくよ、【威圧ーLV1】ね!」


 【ドロップ】がスキル【威圧ーLV1】を発動させると、コウモリは一瞬動きが止まり高度を下げたが次の瞬間には立ち直り動き始めた。


 だが、その動きは先程までと比べると幾分か鈍っており、少なからず【ドロップ】に対して恐れを抱いている証拠であろう。




ーーーーーーー 


 【威圧ーLV1】 


●周囲に恐怖感を与えるスキル。

 LV1では若干冷や汗をかかせる程度のもの。

 威圧を受けたものは蛇に睨まれた蛙、上司に怒られている部下のように縮み込んでしまう。


ーーーーーーー


 「ありゃりゃ……

 やっぱりスキルのレベルも低いからあんまりきいてないよね……

 スキルのレベルならどこでも上げられそうだから、コツコツ上げとかないと!」


 立ち直ったコウモリを見て【ドロップ】は落ち込みつつも、用意していた次なる手を解き放つ。


 「これならどうかな?【拡声ーLV1】!

 『こっちに来ないでねえぇぇぇぇぇ!!!!!!』」


 【ドロップ】はスキルを発動させて自らの声を出来る限り振り絞って叫び始めた。

 【ドロップ】は抜け穴内に反響する自分の声をきいて目を白黒させているが、狙いのコウモリは……



 「やった!地面に激突してるわ!

 今の隙に……」


 【ドロップ】の声がスキルの補助を受けてコウモリに伝わっていった結果、コウモリは一時的に状態異常【混乱】になってしまったため飛行が上手く出来なくなり地面に激突することとなった。



ーーーーーーー

 

 【拡声ーLV1】


●周囲に声を届けるスキル

 LV1では半径一キロメートル先まで。

 まるで隣にいる人が声を発したかのように聞こえるように声を届けることができる。


ーーーーーーー








 「あっ、あっちに光が見えてきた!

 あそこが出口かな?

 コウモリは地面に落ちてくれたけど、倒したわけじゃないんだよね……

 追ってこないうちに出ちゃおう!」



 そうして出口にたどり着いた【ドロップ】は一目散に外へと脱出した。

 するとそこには……


 「んんっ!?

 これって【お姫様】だよね~?

 もしかして私何かのイベントフラグ踏んじゃったかな~?」


 長身の女性プレイヤーが偶然にも居合わせてしまったのだ。

 

 (あっ、ここは街中なんだ……とりあえずこのゲームでは【お姫様】NPCロールプレイをやりきるって決めたんだから初対面はバシッと決めないとね!)


 「ワタクシはこのファートス王国の【お姫様】……【ドロップ】ですわ!

 そこの平民よ、ワタクシをこの街でエスコートする権利を与えましてよ?

 光栄に思いなさってくださいまし?」


 「わ~、やっぱりあのスライムイベントを開いてた【わがままお姫様】だ~!

 これはもしや、ユニーククエストってものかもしれないね~?

 私が張り切って案内させてもらいます~!

 私のことは【アルタルソース】と呼んで欲しいな~」


 (ふふっ、とっさの判断で案内役もゲットしちゃった!私って天才かも?)


 客観的には天才と言うよりは、権力を振りかざすわがままお姫様である。






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