44話 いきなり折檻!?
「まずは私から行かせてもらおうかな~
【スウィングーLV25】!」
【アルタルソース】は手に持った槍を突き出すとそれの途中でスキルアシストによって無理矢理軌道を変えて振り払うものへと変化させていた。
(ふえっ!?
何今の槍の動きっ!?
上手く言えないけど気持ち悪い感じだったよ……)
それもそのはず、全力で突き出された槍は基本的に直線的な動きしかしない。
しかし、【アルタルソース】はスキルによる動作のアシストを悪用することで突き出した勢いを殺さずにそのまま真横への攻撃へと変えたのだ。
余談だが、この技術を使いこなせるプレイヤーは一握りしかいないものであり、【ドロップ】が驚き対応出来なくとも無理はない。
「あはははは!!!
面白い技を見せてくれたね!
でも、まだ私は倒されてないよ!」
「そりゃ、こっちも牽制のつもりだったからね~
でも、あれで当たっちゃうのか~?
う~ん、やっぱり聞いてた感じと違うよね~?」
【アルタルソース】は【アイ】について聞いていた前評判と今自分が戦っている相手との評価の差に違和感を感じているようで、戦闘態勢は解除しておらず槍による攻撃を続けているが、明確に困惑している表情を浮かべていた。
一方でダメージを受けてしまった【ドロップ】だったが、【アルタルソース】の言葉を聞く余裕を戦闘への意識へ向けることですぐに体勢を立て直して杖を構える。
そして……
「これで倒れてっ【アイスボールーLV30】!」
反撃と言わんがばかりに【ドロップ】は魔法で生み出した氷の球を【アルタルソース】へと飛ばしていった。
予選ではこの初期魔法である【アイスボールーLV30】や【ライトボールーLV30】だけでも相手を蹂躙出来ていた。
だが……
「狙いが直線的過ぎるよ~
それに、誘導が甘過ぎるね~?
悪いけどこんな攻撃に当たってあげられるほど私も優しいわけじゃないよ~」
(うわぁ……
そんなに綺麗にかわせちゃうんだ……
どうやって攻撃を当てたらいいの!?)
そんな【ドロップ】による魔法球の攻撃を最低限の回避でいなし、そのまま再度【ドロップ】を攻撃の間合いに捉え槍を突き出していた。
「もしかしなくてもこれでトドメかな~?
【ピアシングーLV25】!」
(あわわわわわわっ!?
攻撃で【アルタルソース】さんを倒そうにも狙いが定まらないよっ!?
ええっと、こういう時には……)
今度は先ほどとは違い、【アルタルソース】は槍を突き出したままその勢いを加速させるようにスキルを被せてきた。
魔法を撃ち終えたばかりで態勢が崩れており、このままでは迎撃もかなわず【ドロップ】の体力は槍によって削りきられてしまうのは明白だ。
だからこそ【アルタルソース】は防御を度外視した攻撃に転じてきたわけだ。
「いいねいいねいいね!!!
でも、私も無策ってわけじゃないよ!
【アイスプリズンーLV30】!」
ここで【ドロップ】が事前に考えておいた緊急時の防御方法が御披露目された。
それは相手を狙わずとも自分を守ることが出来る秘策……
「……少しはやるみたいだね~!
まさか自分自身を氷の檻に閉じ込めて攻撃を防いでくるなんて思わなかったよ~
確かにそれなら私に当たらなくても問題ないもんね~」
そう、【アイスプリズンーLV30】で【ドロップ】自身と閉じ込め、槍の一撃を全方位から防げるようにしたのだ!
忘れているかもしれないが今の【ドロップ】は【魔術師】と【お姫様】のアバターを2つ同時に操作しており、かなり甘い動きしか出来ない。
それを補うためにこのイベント前に生み出した秘策がこの氷檻防御策だったのだ。
これには【アルタルソース】も舌を巻いて驚嘆しており、立ちはだかる氷の檻をどう突破するか攻めあぐねていた。
(今のうちに今出来る最大の攻撃を準備しないと……!
もうそろそろMP切れで、魔法はあと2つしか使えないし狙いが甘くても当たる可能性が高いやつ!
それだったらこれかな?
そうと決まったら魔力を杖に集めて攻撃態勢だね!
やるよ~!)
一方で身の安全を確保した【ドロップ】は氷の檻の中で光の魔力と氷の魔力を溜めて大技を放つのに備えている。
(狙うのはこの氷の檻が壊されたタイミング!
壊した瞬間はいくら【アルタルソース】さんでも隙だらけになるよね。
だから、そこで全力の一撃を放って倒しちゃおうって作戦だよ!
もうこれしか勝ち目はないから頑張らなきゃ!)
氷が削れていく音を固唾をのんで見守りつつ、その時を待つ。
そして、ついにその時が訪れた。
「これで本人ごと貫くよ~!
トドメの一撃はこれだね~!
【厳槍流壱之型ー亀突LVー15】!」
「甘いのはそっちだったみたいだね!
今生まれた隙は私の勝機!
スキル発動!【アイスフレアーLV28】!
重ねてスキル発動!【ライトフレアーLV28】!」
【スキルチェイン【アイスフレアーLV28】【ライトフレアーLV28】】
【追加効果が付与されました】
【効果が増加しました】
【アルタルソース】が氷を破った勢いのまま【ドロップ】を突き倒そうと突進してきていたが、それに対応すべく【ドロップ】が放ったのは氷と光の放射魔法である。
杖から放たれた力の奔流が【ドロップ】の胸元を抉ろうとしていた【アルタルソース】の槍を弾き、そのまま【アルタルソース】本人へと向かっていく。
魔法が直撃した【アルタルソース】は体勢を崩……
「してないっ!?
どうして!?
これを直撃して耐えるなんてありえないよ!?」
「そういう考えが戦いの中では命取りだよ~
ほらね~!」
そして、魔法攻撃を耐えきった【アルタルソース】はそのまま【ドロップ】を突き、体力を全損させたのであった。
「冥土の土産に教えてあげようか~?
この【厳槍流壱之型ー亀突LVー15】は攻撃中だけ防御力を大幅に上昇させてくれる本来なら使い勝手が微妙なスキルなんだよね~!
でも、こうやって決死の攻撃をするなら勝ちを拾えるから決闘では使えるんだよ~!
このスキルを覚えられたのも【イーリン共和国】との国交を回復してくれた【ドロップ】お姫様のお陰……
だからこの戦いで恩を返したかったんだよ~
分かった~?」
(それって……私が【アルタルソース】さんを強化したから今回私が負けちゃった……ってコト!?
……まぁ、でも負けちゃったのは仕方ないかな。
それに憧れの【アルタルソース】さんの助けになれていたことが知れただけでも収穫だからね!
ポジティブにいくよー!)
そうして、【ドロップ】は敗北し今回のイベントの勝者が決定したのであった。




